福岡老舗うどん物語【4】

目に見えないところが味に出る。博多っ子の精神を「木屋」のあり方に見出す。

公開日

ライター山田祐一郎

カメラマン山田祐一郎

福岡市・冷泉町

木屋

山田祐一郎

1978年福岡県生まれ。2012年8月、「KIJI (キジ)」を設立し、同時に、日本で唯一(※本人調べ)のヌードルライターという肩書きで本格的に活動を開始する。これまでに飲食関連の専門誌、情報誌、ウェブマガジンなどで原稿を執筆。毎日新聞での麺コラム「つるつる道をゆく」をはじめ、連載実績多数。著書に「うどんのはなし 福岡」「ヌードルライター 秘蔵の一杯 福岡」。「1日1麺」をモットーに、美味しい麺との出会いを求め、近年では国内のみならず海外(イタリア、台湾、タイなど)にも足を運んでいる。日々食した麺の記録はWEBマガジン「その一杯が食べたくて。」に掲載中。2019年9月から父の跡を継ぎ、製麺所「山田製麺」の代表も務め、麺づくりにも取り組む。http://ii-kiji.com/

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自分がやりたいこと、それがお客さんのやってほしいことと一致しているかどうか。

福岡の老舗うどんを巡る本コラム。前回は明治43年(1910)に福岡市・西中洲の地に創業した「蒲鉾商峰屋」にルーツを持つ「博多めん処 峰松本家」を紹介した。さらに博多エリアのうどん店を掘り下げたいという思いから、「峰松本家」に続いて訪れたのが「木屋(きや)」。その創業は1926年という、文句なしの老舗だ。和暦だと昭和元年という時代に、食堂として開店したのだと3代目・阿部泰介さんは教えてくれた。今回は、博多のど真ん中で営業を続ける「木屋」の暖簾をくぐる。

「おっしょい」の掛け声とともに一気に舁き山が路地を駆け抜けていく。見ているだけで体が芯から震えるほどの臨場感、そして舁き手たちの気迫。博多が誇る文化遺産「山笠」は、実際に一度は生で目にしておきたい伝統行事だ。

そんな山笠の「西流」にあたる冷泉町に店を構えるのが「木屋(きや)」。その屋号から、てっきり材木関係に縁があるのだと思っていた。「いやいや、全然、材木とは関係がなくって。うちの祖母方の生まれが北九州の八幡のほうにある木屋瀬(こやのせ)という地名なんですよ。当時の建物の藁葺き屋根が漢字の”木”にも似ているということで、この屋号にしたと聞いております」。3代目・阿部泰介さんはそう言って昔の店舗が描かれた絵を見せてくれた。

創業の1926年は、昭和元年にあたる。大正15年12月25日の大正天皇崩御にともなって改元されたこともあり、昭和元年自体は同年の12月31日までのわずか7日間しかなかった特別な年でもある。
大正から昭和へと移り変わる激動の時代に産声を上げた「木屋」は、商人の街・博多の胃袋を支える食堂として商売を始めた。「お客様に喜んでもらうためにできることを、という考えで、食堂という枠に捉われず、例えば当時珍しかったアイスキャンデーを売るなど、そういうことも柔軟にやっていたようですね」と泰介さんは言う。

その後、時代の流れとともに、徐々にメニューを厳選していき、最終的に自慢の出汁を生かしたうどんが評判だったこともあり、昭和50年頃には今の形、うどんを中心に据えた店へと行き着いた。

櫛田神社のお膝元の冷泉町に店があるということもあり、昔から古き良き博多の街並みが残る地区だった。ただ、それも時代の流れにともなって、徐々に近代化の波が押し寄せ、店の周りにはところどころに高いビルが建つようになる。そんな環境の変化も三代にわたって受け止め、今がある。

「大きなところでは、昔から商人、今でいうとビジネスマンが相手ではありますね。それに加えて、最近だと、近所に病院さんができたこともあって、そこの患者さん、お見舞いの方が来られたり、あとは外国人の観光客の方々にもふらりと寄ってもらったりしとりますよ」

周りを取り巻く環境、そして客層の変化に合わせ、うどんの在り方も寄り添っていく。大きな転換になったのが、自家製麺への切り替えだ。

「それまでは地元の製麺所さんにお願いしとったんですが、先代が食堂からうどんの店へと切り替えるというタイミングで、うどん屋を名乗るなら、麺も自分のところで作ろうとなったんですよ。それで製麺機を買い、麺づくりにイチから取り組んだんです」

麺は商人の街・博多という土地柄、自家製に変わっても、スピーディに提供できるよう、引き続き茹で置きのスタイルは取り入れた。前日に捏ねておいた生地を翌日、延ばしてカット。そして営業前にその日使う分をある程度、予測して茹でておく。もし予想以上の来客で茹で置きの麺が無くなりそうな場合には、様子を見ながら茹で足す。このさじ加減が難しいのだと泰介さんは言葉に力を込めた。

「あとは、製麺自体も奥が深いですね。レシピ通りに作れば良い麺になるかといえば、とんでもない。気温や湿度、わずかな気候の変化で、ガラリと仕上がりが違ってくるので、特に湿度も気温も高くなる夏場は神経がビリビリしますね」

いったん、うどんを生地の状態にまでもっていくと、そこからは水を加えることも、減らすこともできない。そのため、特に”練り”の作業には神経をすり減らす。泰介さんは「何年やっても、本当に難しい。思い通りにならない。やけど、大変な分だけ、達成感もありますね」と目を細めた。

麺に合わせるつゆは、創業の頃から受け継がれたレシピを忠実に守る。麺がはっきりと視認できるような透明感のある黄金色。出汁の原料には長崎県平戸産の焼アゴを中心に、カツオ節、サバ節、イリコなど、どれも国産のものを選んでいるという。

「この出汁をベースにして、地元の醤油などを使って味付けするんですが、何よりも大切にしているのが水ですね。製麺機を導入したタイミングで、水が美味しくならんと、出汁も麺も、なんもかんもないと言って、先代がうちの麺や出汁に合う軟水に仕上がるよう、濾過フィルターを付けた巨大な貯水タンクを店の裏に置いたんですよ。そのおかげで、カルキ臭のない、きれいな浄水をいつでも使えるようになりました」

コップに注いでもらった水はまろやかで、やわらかな味わい。同じ水を使っているという氷にも白い筋が全く入っておらず、きれいな透明をしていた。お客の見えないところにもこだわる。まさに博多っ子の粋だ。

リピーターが絶えないという注目メニュー「冷かけ明太」。

この日、食べたのは、最近特にリピーターが多いという注目メニュー「冷かけ明太」。冷かけうどんといえば、温かいうどんの仕様はそのままに、麺もつゆもひんやりと仕上げた一杯である。香川にある讃岐うどんの名店で生まれた”ひやひや”というスタイルがそれで、その文化が広がり、讃岐うどんならではの定番として、今日に至るまで親しまれてきた。そんな「冷かけ」が、博多うどんにおける老舗中の老舗にあるなんて。その段階で、大興奮なのだが、食べてみると、さらにそのおいしさに驚愕した。

「明太子は大手さんのものを食べ比べてみて、最終的に一番、うちの出汁と合う『ふくや』さんの明太にしました」と教えてくれた泰介さん。明太子のピリッとした刺激がアクセントになる一杯で、中央に盛りつけられた卵の黄身がまろやかなコクを添える。明太子、卵の風味が溶け出した冷たい出汁の見事なまでの一体感に、思わず目を見開く。麺においても、今まで温かいつゆでしか食べたことがなかったが、冷たいつゆに合わせるために、きゅっと冷水で締めた麺は、これが茹で置きなのかと疑いたくなるくらいに、麺のエッジが立ち、しなやかなコシが歯に、顎に伝わってくる。

以前食べたことのある名物のごぼう天うどん、丸天うどん。これらの普遍的な美味しさを味わった時とは、また別の感動がぼくの五感を満たしていた。

二大人気メニューの「ごぼう天うどん」「丸天うどん」。

ぼくが「老舗なのに、冷かけのような新しいスタイルにも挑戦されるんですね」と伝えると、泰介さんは「この冷かけは常連さんが夏に冷たいうどんを食べたいという声から生まれたんですよ」と明るく笑う。食堂なのにアイスキャンデーを売ったのも、うどんの専門店になったのも、そして「冷かけ」が誕生したのも、全てはお客に喜んでもらうためだ。

鶏肉の鮮度にも妥協をしない「かしわめし」も大人気。

「茹で置き麺を続けている理由も、そうですね。相手あっての商売やけんね。うちらがやりたいことだけやってもいかんのですよ。商人の街にあるうどん屋やけん、ここの土地柄、5分も待てないというお客さんもいらっしゃいますから。自分がやりたいこと、それがお客さんのやってほしいことと一致しているかどうか。仮にうちが移転して別の場所で改めて商売を始めるなら、そこの土地に合わせたやり方に変えますよ」

泰介さんが2代目の父・昭憲さんと共に「木屋」で働くようになり、およそ30年が経った。昼はうどんを、夜には食堂時代のレシピを生かした一品料理をうどんと共に居酒屋スタイルで出す。昼夜にわたり、お客の期待に応え続けている。その歴史の中で、先代からは正直に商売することの大切さを教えられたのだと言葉に熱を込めた。
「全ての土台になっている水だって、ひょっとしたら全てのお客さんがその違いをわからないかもしれないですよね。それでも、目に見えないところが味に出る。伝わらないとしてもケチるな。そう言われてきました」

博多うどんの店として、大切な軸は変えることなく、芯は一本通しながらも、柔軟に。順風満帆な100年を歩んできたのだと思っていたが、きっと、それは“白鳥の水かき”であり、見えない部分の苦労を表に出さないからなのだろう。その精神は、重さ1tを超える舁き山を担ぐ山笠にも通じる。山笠を舁くときは、どんなに苦しくても決して顔をしかめず、辛い表情を一切見せない。そんな博多っ子の精神を「木屋」のあり方に見出した。

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店舗名

木屋(店舗写真)

ジャンル

  • うどん

住所

福岡県福岡市博多区冷泉町2−34

電話番号

092-291-6758

営業時間

11:30〜14:30(OS)、17:45〜21:30(OS)、土曜11:30〜15:30頃、祝日11:30〜14:30(OS)

定休日

日曜

席数

  • カウンター10席
  • テーブル20席

個室

なし

メニュー

かけうどん530円、月見うどん600円、丸天うどん700円、ごぼう天うどん800円、カレーうどん900円、えび天うどん900円、鍋焼きうどん1150円、冷やかけ梅こんぶうどん780円、冷やかけ明太900円、ざるうどん800円、親子丼950円、牛とじ丼980円、かつ丼1000円、かしわめし(小)300円・(中)580円、瓶ビール650円、焼酎480円〜、日本酒680円〜

喫煙について

禁煙
  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
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