弓削聞平の福岡飲食最前線
2025年に幕を下ろした【福岡遺産】とでも言うべき名店の数々
弓削聞平
福岡のグルメ系エディター。グルメ雑誌「epi」「ソワニエ(現ソワニエ+)」「UMAGA」の創刊編集長。「ぐる〜り糸島」「私、この店、大好きなんです。」「福岡気軽で楽しい町の寿司屋」などを多数編集・発行。Instagram @fukuoka_umacato
2025年もたくさんの魅力的なお店ができましたが、残念ながらたくさんのお店もなくなりました。なかでも最も話題になったのは天神の「そば処 みすゞ庵」ではないでしょうか。1952年に開店して73年もの間、天神で市民のお腹を満たしてきました。私がよく行っていたのは、30代の頃、つまり1990年代でしょうか。渡辺通の会社で働いていて、よく昼食に出かけていました。名物でもあるカツカレーそばは当時はまだなくて、カレー南蛮そば、カチンそば(餅入り)、ざる丸天そばなどをよく食べていました。なかでも揚げたての丸天がのったざるそばというのは私にとっては初体験で、揚げたて丸天のうまさに感動しました。昨年なくなった飲食店はたくさんありまさすが、そのニュースが新聞やテレビで何度も取り上げられ、毎日大行列ができたのはここくらいでしょう。


そして7月に閉店したのが春吉の定食店「一やのごはん」です。オシャレ感は一切なく、普通の定食屋として長年中洲や春吉で働く人たちに愛されてきました。そもそもこの店ができた頃、春吉の街は今とはまったく違っていたはずです。今のようにホテルもなく・・・というか、あったのはラブホテルばかりだったと思います。マンションも少なく、人に「春吉に住むことにした」というと、「えっ、あんな治安の悪いところになぜ?」と言われるような街でした。住んでいる人の多くは、仕事が終わってから歩いて帰れるという理由から、中洲や春吉の飲食店で働く人たちがほとんどだったようです。そういう街で日々皆の胃袋を満たしていたのが「一やのごはん」です。あんなに中心部でありながら、庶民が通える価格で実に豊富な料理を提供してくれていました。深夜までやっていたこともあり、特に飲食関係者には絶大なる人気を誇っていて、閉店のニュースを知ってショックを受けた人は多かったようです。
あと、私はほとんど行ってはなかったのですが同じ春吉で、こちらも創業60年以上になる名店、春吉のお好み焼きの「好味(このみ)」も閉店しました。先代が20年くらい前にお店を閉じた後、懇意にしていた姉妹が後を引き継ぎ営業を続けてきました。彼女たちの代になっても、多くの方々に愛されたお好み焼き店、いや酒場でした。10月に物件の建て替えにより閉店したのですが、どこかに移転したりするのでしょうか。でも、あの雰囲気は捨てがたかった。もう春吉の街にも少なくなった昭和の雰囲気そのままの店でした。


そして、もう1軒、周り、特に飲食関係の人たちから残念という話を聞いたのが平尾の町寿司「河童」です。12月で閉店しました。私が編集・発行した「気軽で楽しい町の寿司屋」にも掲載させていただいていますが、平尾で30年近く庶民が通える寿司屋として君臨していました。とにかく寿司以外のメニューも多く、居酒屋、食事処として家族で利用している人も数多くいたようです。それにしても、最近もお客さんは多かったと聞いてるので、みなさん「なんでやろ〜?」って言ってるんですよね。閉店の理由って売上だけが原因とは限らなくて、立ち退き、店主の高齢化や体調不良、親の介護で地元に帰るなど、いろいろありますからね。私も最近行ってなかったのでくわしいことはわかりませんが、常連さんなら理由を知っているのかもしれません。せめて移転だったりすると、これまでのお客さんも安心するんでしょうけどねぇ。


そして春吉同様、街の性格がまったく変わったといえば大名です。大名の「博多さぬきうどん」ができたのは今から60年ほど前ですが、当時、大名はまだ住宅街で今のように飲食店やファッションのショップは数えるほどしかありませんでした。そんな時代からずっと変わらずやってきたこの店も昨年11月になくなりました。やわやわうどんの博多において、60年以上も前にさぬきうどんを提供するって、どんだけチャレンジャーなんだって思います。おそらく多くの人たちからは「硬い」「もっと茹でろ」「(ゆで時間が長いので)いつまで待たすんだ」などと言われたであろうことは想像に難くありません。讃岐うどんでは定番の醬油うどん、ぶっかけうどん、かまたまといったメニューはなく(当時)、品書きに書いてあるメニュー名は博多と変わりないとはいえ、あの麺のコシは博多ではなかなか受け入れられなかったのではないでしょうか。そんななか、しっかりコシのあるさぬきうどんを博多で始めたというのはまさに先駆者といってよいですね。そんな先駆者、いや先駆店がまた1軒福岡の街から消えてしまいました。ただし、確かご兄弟か親族かがやってる「渡辺通り店」は今も健在で、そちらでは大名にあった「博多さぬきうどん」に近いうどんを楽しめます。ただ、系列店ではないので、まったく同じではありません。また、赤坂駅近くの「松島」のご主人は大名店の出身で、こちらでも似たタイプのうどんが食べられます。
他にも「麺劇場 玄瑛」、洋食の「八坪亭」、手作りパイの「LOVE ALL」など多くの名店の灯りが消えてしまいとても残念ですが、これまでおいしい料理を食べさせてくれたこと、そしてたくさんの思い出をくれたことに感謝し、まだ営業している福岡の店に通っていきたいものです。
※「麺劇場 玄瑛」は店主のインスタに「次のストーリーが、静かに開幕します」とありますので、業態を変えて復活するのかもしれませんし、「LOVE ALL」は「いつかまた、どこかでお会いできる日を楽しみにしています」とインスタに書いてあるので、どこか別の場所で復活するのかもしれません。
- ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
- ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
- ※OSはオーダーストップの略です。
- ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
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