これが酒屋？　斬新なデザインの「とどろき酒店」に行ってみた！

全国の隠れた銘酒や自然派ワインを紹介する酒屋として、福岡の日本酒党、ワインファンから常に注目されてきた「とどろき酒店」。もともと博多区三筑の幹線道路から奥まった住宅街にあり、車以外のアクセス手段もほとんどないため、なかなか訪れる機会のない店ではあった。それ故に見逃していたのだが、1年以上も前の2020年12月に移転していたことを知ったのはつい最近のこと。これは行かねばならないと、遅ればせながら三筑へと向かったのだった。

移転の構想は数年前からあり「飲食店の人が買いに来ることも多く、駐車場を確保したいというのが一番の理由でした」と、店主の轟木渡さん。以前は業務用販売の比率が高かったが、新型コロナウイルスの流行以降は家飲み需要が増え、一般客の来店が増えたこともある。しかし、10台前後の駐車場を有する店舗となると候補地も限られ、毎月の賃料も莫大だ。そこで、本店の2軒隣りで倉庫として使っていた場所に店舗を新築し、旧店舗を解体して駐車場にするというプランが持ち上がった。設計にあたったのは、轟木さんとは旧知の仲である建築家の干田正浩氏。二人で何度も話し合いながらイメージを膨らませ、機能的かつ有機的なデザインの店舗が完成した。

なだらかなアールを描いたスロープを通って店内に入ると、日本酒や焼酎、リキュールなどの棚がコーナーごとに区分された、シンプルで分かりやすいレイアウト。店舗面積は前よりも広くなったが、あえてアイテムを増やすのではなく、その分通路の幅を広くとったいう。「お客さんとスタッフがコミュニケーションしやすいように十分な動線を確保しました」と、ゆっくり酒を選べるように配慮した売場づくりになっている。

日本酒は壁一面の冷蔵庫、ワインは専用のセラーに分けられ、目当ての酒がすぐに見つけられると同時に、時には思わぬレアなアイテムを発見する楽しみもある。ネットの通販で何でも買える時代だこそ、これぞリアル店舗の醍醐味だ。

店舗として機能性を充分に確保しながら、他にはない強烈な個性を与えているのが入口右手にある吹き抜けのギャラリースペースだ。洞窟を思わせる有機的なフォルムは、干田さんが土地の歴史をリサーチする中で、かつてこの地にあったという弥生時代の遺構・三筑遺跡からインスピレーションを受けたものだという。

曲面の壁は八女の左官職人・三宅洋児さんの仕事で、大分の土と無農薬で育てられた稲藁が塗り込められている。さらに天井から滑車で吊り下げられた照明は、警固のアンティーク家具店「krank」の藤井健一郎さんによるデザイン。轟木さんを中心にして集まったクリエイターたちのコラボレーションによって生まれた空間で、今後は陶芸やクラフトなど地元九州をはじめとする作家の展示会を定期的に開催する予定だ。

大きく開かれたガラス面を開くと、ウッドテラスと一体となったオープンスペースにもなる。「今はまだコロナ禍で稼動していませんが、ゆくゆくはワインや日本酒の試飲会や、料理会なども行いたいと思っています」と、轟木さん。これまでも「満月ワインバー」や「SAKE A GOGO」などのイベントを開催してきただけに、この場所でどんな新しいイベントや出会いが生まれるか楽しみだ。

コロナ禍の中でも「とどろき酒店 薬院stand!」の移転、三筑本店の新築移転と積極的にアクションを起こしてきた轟木さん。さらに、昨年から朝倉でワイン醸造所も立ち上げ、自社醸造によるワインの初リリースも目前に控えている。九州では初めての試みとなる自然派ワインづくりのストーリーは、また別の機会に紹介したい。