80年物の“ぬか床”がつむぐ、心和むひととき

かつて庶民の日常食だった「ぬか漬け」と、北九州名物としても知られる「ぬか炊き」を、日本酒などの美酒と楽しむ専門店。高級料理じゃないけれど、その素朴な品々を見ているだけで頬が緩むのはなぜだろう。素材の香りとともに湧きあがるノスタルジックな温もり。「HAKKO食堂」は、客たちを終始そんな安らぎで包む平和な酒場だ。

福岡広しといえど、ぬか漬け・ぬか炊きの専門店は珍しい。母と一緒にここを営む三姉妹の三女(兼代表)の髙橋里実さんに出店経緯を尋ねると、「うちの家族が昔から大好きで、胸を張って出せる料理がこれだったんです」とニコリ。
良いものを出せる自信もあった。というのも、祖母の代から続く80年物のぬか床を受け継いでいたから。山椒の爽やかな辛さ、しっかり発酵したぬかの酸味、そして隠し味のビールがうまさの秘密。発酵の専門家も「驚くほど乳酸菌が豊富！」と高く評価した“家宝”だ。

ヘルシーさも嬉しい「ぬか漬け」(330円～)は、店頭に並んだ袋入りの商品から選ぶシステム。定番のキュウリやニンジンだけでなく、アボカド、チーズ、パプリカなど「美味しくなりそうなら何でも漬ける」という冒険心が楽しい。多彩なラインナップから毎日12種前後が登場し、目移りすること間違いなしだ。テイクアウトもOKで、チャーハンなど料理の具材に使うのもお勧めだとか。

もう一方の「ぬか炊き」(770円〜　※持ち帰りは440円～)は、素材をぬかでじっくり炊いたもの。看板料理は写真の「さばのぬか炊き」(770円)。「手羽先」「豚肉」などの変わりダネにも乞うご期待！

同じくぬかの風味を生かした「おでん」(各275円)にもファンが多い。

オープンは2018年。舌に染みいる美味しさで一躍人気店となったが、髙橋さんたちは今も初心を忘れない。例えば変化しやすいぬか床の味を守るため、１日２回、必ずみんなで20樽分を混ぜるという。空気をたっぷり含ませて、慈しむように、丹念に……。温度・湿度の管理もデリケートだ。そうした地道な努力から、この店の温もりは生まれている。
「今後はもっと商品開発を頑張って、地方発送に力を入れます。ここから全国に美味しさや健やかさを届けられたらいいな」と髙橋さん。三世代の絆を繋ぐ先人の知恵が、今日も人々に笑顔を灯す。