2020年4月に春吉で暖簾を掲げた「藤よし」。「なだ万」グランド・ハイアット・福岡店の寿司部門長が独立した店ということで、開店直後からチェックしていた寿司好きも多いのではないでしょうか。そんな確かな実績の持ち主が、年々高級路線をたどる福岡寿司界にあって、1万円以下のコースを置く“庶民派寄り”の店を構えたことも僕にはちょっとした驚きでした。
その「藤よし」を1年半ぶりに訪ねてみました。春吉交番からほど近い、目立たぬ小路に入るとすぐに看板を発見。「お、こんなところに?」という発見の嬉しさも加わる閑静な立地は、自然と胸が高鳴る非日常への扉です。玄関のガラス戸から石畳のアプローチに進み、暖簾をくぐって先へ進むと──。
渋いジャズボーカルが流れる8席の空間が待っていました。存在感たっぷりのカウンターは銀杏の一枚板。壁面を覆う品の良いゴールドは実際の面積以上のゆったり感を店に与え、その明るさで客を晴れやかな気分にもしてくれます。たちまちリラックスすると、店主の藤義明さんと久々の挨拶を交わしました。
前述のように、藤さんは「なだ万」で23年務めあげ、寿司部門長も任された練達の職人です。一挙手一投足に貫禄を漂わせる53歳ですが、数々のVIPに愛されてきた寿司を「さらに進化させたい」という熱い心はいまなお健在。試行錯誤や研究の成果を、日々の一貫一貫に込めています。
「それに、若いお客さんと交流できる場を作りたいとの思いもありました」と語る藤さん。日々原価高騰と闘いながら、若年層が通いやすい1万円アンダーの砦を守り続けるのはそれが理由なのです。もちろん仕事の手間も熱量も「なだ万」時代とほぼ同じ。そんな上質な寿司体験が気軽に楽しめる、まさに穴場な一軒と言えそうです。
この日お願いしたのは9,000円のおまかせ。小鉢2品、吸物(または茶碗蒸し)、にぎり10貫、玉、味噌汁という内容で、今日最初の小鉢はモロヘイヤのおひたしでした。しっかりした風味の冷たい出汁が、胃の腑を爽やかに刺激します。細く割いて揚げたスルメも実に面白いアクセント!
ハモを炊いて取った出汁を加え、深みとコクを増した吸物も良き完成度。ハモ、ジュンサイ、梅肉という食材の組み合わせが初夏の訪れを感じさせます。
それを終えると、お楽しみのにぎりがスタート。1貫めは独特の歯応えが楽しいアラです。ミョウガ、紅葉おろし、スダチなどの薬味がピリッと舌を覚醒させ、あらためて10貫に臨む食欲をかき立ててくれます。
丁寧な細工のヤリイカは、ごま塩と中に挟んだシソで爽快さを演出。その爽やかさがさらに引き立つ、キリッとした赤酢のシャリにも個性を感じました。「なだ万」時代は米酢でしたが、何度も研究を重ねて現在の「凛々しいシャリ」に到達。目指すのは「酒が美味しく飲めるアテのような寿司」だそうです。
トロリとした舌触りが印象的なマグロは、絶妙な塩梅のヅケに。醤油が赤身に入りやすいよう一度湯引きする「本漬け」で仕上げています。
ボリュームも満点のホタテの炙りは、香ばしさとふっくら具合が魅力的。噛むほどに深まる滋味深さも含めて、貝の至福を余す所なく体現した一貫です。
対馬産の穴子は、唯一通年出される超定番。活きたまま身を炊くことで得られる口溶け感が秀逸で、「これが一番の楽しみ」と語るファンの多さも頷ける逸品です。
最後を締める変わり寿司は、釜揚げしらすとイクラとウニの小どんぶりで、小さな宝石にも似た輝きに心を奪われてしまいました。もちろん味も完璧で、これは誰もがひれ伏す無敵のコラボでしょう。
過去の実績に満足せず、今も精進を続ける藤さんの寿司は、いつ食べても確実な満足を約束してくれます。より凛々しく、より真っ直ぐになった寿司を賞賛すると、クールな大将が一瞬にっこり。それは中学時代に「寿司のうまさ、職人のかっこよさ」に気づき、以来この世界に憧れ続けてきた元・少年の笑顔でした。多くのツウを虜にする魔法の根源は、案外こんなピュアな“寿司愛”なのかもしれませんね。
なおランチの7,000円コースはこの9,000円とほぼ同じ。より値頃に楽しみたい方にお勧めです。
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店舗名
鮨 藤よし(店舗写真)
ジャンル
- 寿司
住所
福岡市中央区春吉2-9ファロディハルヨシⅡ-1F
電話番号
092-791-5070(前日までに要予約)
営業時間
12:00~OS14:00/17:00~OS21:00(月曜は夜のみ営業)
定休日
日曜
席数
- カウンター8席
個室
なし
メニュー
昼のおまかせ7,000円、夜のおまかせ9,000円・14,000円・17,000円
喫煙について
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