上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第17回】
キクラゲとネギが大盛りの老舗豚骨ラーメン店
公開日
最終更新日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
博多駅南
住吉亭
上野万太郎
ここ十数年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club
博多区で46年続く豚骨ラーメン店「住吉亭」
開業は住吉だったが現在は博多駅南で営業中。あっさりした豚骨スープにキクラゲとネギが山盛りの一杯にファンが通い続ける人気店である。
僕が初めて「住吉亭」のラーメンを食べたのは店がまだ住吉にあった35年くらい前のこと。久留米ラーメンのこってりスープで育った僕はそのあっさりしたスープに「これが博多の豚骨ラーメンか!!」と驚いたものだ。さらにキクラゲとネギの多さにも驚いたが、今回話を聞いてみると開業後徐々に量が増えていったというから、今と比べるとそうでもなかったのかもしれない。
創業は昭和52年、現在の代表である松田洋介さんの伯父が開業した。その後、平成3年に洋介さんの父親である利夫さんが経営を引き継いだ。洋介さんは専門学校卒業後に一度は就職したが、21歳の時に店を手伝い始めたそうだ。
「父からも跡を継ぐように言われたことはなかったんですが、バブル後の就職氷河期でなかなか良い仕事もなかったので、なんとなく家に戻って手伝うようになったんです」と洋介さん。その5年後に兄の慎吾さんもお店に入り、まさに家族で老舗豚骨ラーメン店を経営することなった。
店に入って15年になる洋介さんだが、6年前に父親が亡くなったために急遽店主として跡を継ぐことになった。現在は、父親とずっと一緒に店を守ってきた元気で明るい看板娘でもある母・桂子さんと息子2人の母子3人でお店を切り盛りしている。
キクラゲとネギ大盛り豚骨ラーメン
「住吉亭」のラーメンの特徴はなんと言ってもキクラゲとネギが多めなことだ。多めというか山盛りである。初めて食べる人は「これは何かの間違いじゃないか」と思うほどだ。そもそもは客の要望で大盛り無料サービスをしていたことから始まったそうだが、今ではそれがウリになってしまったらしい。昔の商売人のきっぷの良いサービス精神によって生まれた大盛りだが、母の桂子さんは「今となっては取り返しのつかないことをしてしまった」と笑う。
特にネギは相場によって価格が大きく上下するのでネギを大量に使うのは原価的に大変な時期もあっただろう。昔は八百屋さんから仕入れたネギを自店でスライサーを使って仕込んでいたそうだが、現在は糸島のネギ農家と契約してカットされたネギを固定価格で仕入れているそうだ。ネギは中ネギの太めのものを使う。緑色だけでなく白い部分も必要なのでネギならなんでも良いというものではない。だからこそネギ農家との契約仕入れは大事だ。
僕はあっさりとしたスープにひたひたに浸った大量のキクラゲとネギを麺とぐるぐるに絡めながら一気に頬張るのが好きだ。。ラーメン好きの言い訳かもしれないが、たくさんのネギをむしゃむしゃと食べることでどこか健康になった気がしてしまう。
あっさりスープの豚骨ラーメン
あっさりとしたスープについて先代が言われていたのを覚えている。
「最近は濃厚な豚骨スープも流行っているようだが、うちはスープも全部飲めるようにあえてあっさりと作りよると。骨の量をケチってるから薄いとじゃないとばい。骨は他の店と同じくらいは使いよるとよ」と。
そのスープ作りは現在は兄の慎吾さんが担当している。豚骨は頭骨と頭皮だけを使用。3つの寸胴を使いスープを回しながら味を整えていくのだが、どの寸胴も1週間に1回はガラを捨てて新しく作り替えるため「ガラ替え」と言われる手法だそうだ。
骨を意識的に潰したりラードを入れたりしてスープに濃厚さを出そうとはしない、綺麗なあっさりとしてスープ作りは先代譲りだ。桂子さんは「多分昔より今のスープのほうが綺麗なスープに仕上がってると思いますよ。お父さんの頃より息子たちの方が丁寧に作業しよると思う」と言う。
さらに最後の一滴まで飲めるスープというのは先代の頃から変わらない。「あの頃から残ったスープにご飯を入れて食べるのが好きな常連さんもおったけど、美味しいと思うよ」と。
確かにそれは絶対美味しいだろう。流石にラーメン店でねこまんま風にして食べるのは憚られるが、お店からの提案というお墨付きがあるので一度やってみて欲しい。まあ、それだけ綺麗であっさりした美味しいスープに仕上がっているというのは間違いないということだ。
名物辛子高菜
博多の豚骨ラーメンと言えば辛子高菜は必須、というラーメンファンも多いことだろう。「住吉亭」にもカウンターやテーブルの数カ所に紅生姜と並んで辛子高菜が入った丼が置いてある。昔はこれがとんでもなく激辛でちょっとしか食べられなかった。スプーン1杯でもラーメンに入れようものならスープは真っ赤に染まり一瞬にして激辛ラーメンに早替わりしていた。味変と称して途中からそれをする激辛好きな客も多かったが、最近はそこまで辛くない。明らかに辛さが控えめになっている。
疑問に思っていたのでこの機会に桂子さんに聞いてみると「以前はお父さんがあんまり高菜が減らないように激辛にしとったのかもしれん。大阪の唐辛子業者に依頼してオリジナルの激辛一味唐辛子を作ってもらってたんですよ。ところがその業者がなくなったので、一般品をブレンドして提供しています。だからそんなに辛くはないです」とのこと。
やっぱりそうだったんだ。今のなら普通にラーメンやご飯のお供に楽しめるものね。まあ昔のあの激辛も懐かしいんだけど、今の方が食べやすい(笑)
将来の夢はなんですか?と聞いてみた
「夢ですか?特にないですけど。たまたま受け継いだラーメン屋ですが、毎日喜んで食べてくれるお客様がいらっしゃるので、できる限り長く続けていきたいと思うくらいですかね」と洋介さんは静かに語ってくれた。まさにそれが町の老舗ラーメン店の姿だよねと勝手に共感する。
桂子さんが博多弁で元気に接客してくれる姿が印象的な「住吉亭」。ラーメンも勿論美味しいけど、それと同じくらい桂子さんの笑顔が店の看板でもあり、最高の調味料なのだ。そしてお母さんを支える息子さんたち。これからも母子3人で営業されてる姿を1日でも長く見ていたい。末永く頑張ってください!
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店舗名
住吉亭(店舗写真)
ジャンル
- ラーメン
住所
福岡市博多区博多駅南5-5-1
電話番号
営業時間
11:00~OS16:50
定休日
日曜
席数
- カウンター10席
- テーブル4席
メニュー
ラーメン750円、チャーシューメン900円、ワンタンメン900円、ネギ増量100円、キクラゲ増量100円
喫煙について
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