関東風から懐かし系豚骨にモデルチェンジした｢フタバ｣のラーメン

警固交差点近くの国体道路沿いにあり、奥行が1m強という奇妙な2階建ての店舗で焼肉とラーメンという珍しい組み合わせで営業している「ヤキニクラーメン フタバ」。2017年の開店以来、福岡では珍しい関東風ラーメンを提供していたが、この9月にラーメンを一新。懐かし系の豚骨ラーメンで再勝負をかけている。

店主の栄浩司さんは福岡市の出身で、東京の大学に進学したのをきっかけに当時一世を風靡した豚骨ラーメン店「なんでんかんでん」でアルバイトを経験。卒業後は吉祥寺の焼肉の名店で修業した後、千葉県成東町で焼肉と豚骨ラーメンの店を開き、繁盛店となる。2017年に地元・福岡に凱旋して「ヤキニクラーメン フタバ」を開店し、学生時代にリスペクトしていたという関東風のラーメンを提供するが、福岡の客にはなかなか受け入れられず。
今回子どもの頃から慣れ親しんできた豚骨ラーメンで、再勝負することになった。

福岡・博多のラーメンを代表する豚骨スープのとり方には大きく分けて2つある。
豚骨から煮出したスープを毎回使い切るのが「取り切り」。それに対して前日まで使っていたスープに新しいスープを継ぎ足すのは「呼び戻し」と呼ばれ、新旧のスープが混ぜ合わされることで味と香りにより深みが加わる。
リニューアルした「フタバ」のラーメンは、久留米が源流といわれる「呼び戻し」の手法によるスープ。まだ博多ラーメンが福岡のローカルフードだった時代を思わせるオールドファンには懐かしい味わいだ。

最初に訪れたのはラーメンをリニューアルして間もない10月初旬。まだ真夏日の残暑が続く中、注文したラーメンも暑さを吹き飛ばすような豚骨臭がたったワイルドな風味だった。
ところがどうだろう。次に訪れた10月中旬は気温も下がった穏やかな気候でにおいも控え目になり、マイルドな味わいになっていた。
栄さんによると「元のスープが発酵することによって、味と香りは常に変化します。そこにバランスを考えながら新しいスープを足しているんですが、その加減が難しい」。リニューアルにあたっては、千葉の店で約20年継ぎ足してきたスープをペットボトルで持ち込み、元ダネにしたという。
「呼び戻し」の手法で作る博多ラーメンは、「発酵」がキーワードだった。

ところどころ泡だった茶褐色のスープとストレートな中細麺の組み合わせに、ほのかにピンク色が残るチャーシューと海苔・ネギがデフォルトのトッピング。写真は「玉子ラーメン」（700円）で、半熟ではなく固ゆでされた玉子が乗っている。
豚の頭骨とゲンコツだけでとったスープにはしっかりと豚骨のエキスが染み出して、コクと甘みが感じられる。季節や気候条件によって発酵の進み方が異なり、多少味にブレがあるのもひとつの個性。この店でしか食べられない唯一無二のスープが生きている証拠でもある。

サイドメニューで気になったのが「伊萬里牛カレー」。原型が分からないほど煮込まれた牛肉に自慢の豚骨スープを加えたコクのある味で、ラーメンのおともには写真のハーフサイズ（350円）がちょうどいい。また、豚骨スープにカレーを加えた「カレーラーメン」（800円）もある。

もう一つの主役である焼肉は、佐賀県伊万里市の「松尾勝馬牧場」で飼育されたブランド牛の「伊萬里牛」がメイン。写真の「伊萬里牛三種盛」（2,800円）など、極上の黒毛和牛がリーズナブルな値段で食べられる。

豚骨ラーメンにリニューアルしてから、まだ1ヵ月ちょっと。毎日継ぎ足されているスープもだんだん熟れてきて、これからさらに円熟味を増していくだろう。
大手グループ店の規格化された味ではなく、その時々の「発酵」具合によって微妙な味の変化を楽しむのもまた、ラーメンの奥深さのひとつだ。