料理と切っても切れない関係の器。お気に入りの器があるだけで、料理をすることや誰かをもてなすことがより一層楽しくなるものです。作家ものや民芸、アンティーク、世界各国の器まで、収納場所に困るほど器を集めてしまうライターの森脇美奈さんが、こだわりのセレクトが光るお店を紹介していきます。
夏本番を迎えたこの季節。みなさんどこかにおでかけする予定はありますか? 身近な場所に出かけるなら、青い海や緑豊かな山、おしゃれなお店が待つ糸島に行きたくなりますね。今回は、糸島のおでかけプランにぜひ加えて欲しいお店を紹介します。
二丈深江にある「マルクトスコレー」は民藝や作家ものの器を中心とするお店。2019年11月にオンラインストアから始まり、2023年4月に実店舗がオープンしました。窓に映る風景からもわかるように、周囲には田んぼが広がり、遠くには山が連なるのどかな場所。車が便利ですが、JR筑肥線「筑前深江」駅から徒歩15分くらいでアクセスすることもできます。
以前からSNSでチェックしていたものの、実際に足を運んだ「マルクトスコレー」の店内には想像以上の素敵な空間が広がっていました。セレクトされている器や暮らしのものはもちろん、家具や飾っている花にまでも興味津々。隅々にまでセンスが溢れています。
店主の原純子さんは横浜出身。東京に住んでいた頃、沖縄へ何度も旅し、その度に記念に買っていた琉球ガラスがこの道への入口になったそうです。「最初はおみやげ屋さんで探していたのですが、なかなか気に入るものを見つけられなくて。そこで手しごとの工芸店に行ってみると、とてもいいものがたくさんあったんです。それをきっかけに、この世界に惹かれていきました」。その後、民藝の仕事に携わったのち、ご夫婦で福岡に移住。原さんはこれまでの経験を活かし、器のお店を始めました。
オンラインショップに加え、実店舗を開いたことで気づくことも多いのだとか。「知っていたつもりでも明確に言えないことがあったり、思わぬ疑問を投げかけられたりすることもあり、使い手の方と会うことが自分の学びにもつながると感じています」と原さん。そのほかに、多くの人が地元の器に愛着をもっていることを感じられるのも、焼物の産地が多い九州ならではと感じているそうです。
店内には、民藝と呼ばれる器から作家ものまで、原さん曰く「私が見てしっくりくるもの」という器が並びます。“しっくりくるもの”とは?と尋ねると「作り手の意識が入りすぎず、ずっと続けていることで自然と出てくる独自性や無意識の美を感じられるものですね」との答えが。その言葉を最も表しているのは、大分県日田市の「小鹿田焼(おんたやき)」ではないでしょうか。唐臼で土を砕き、蹴ろくろで成形、登り窯で焼くという江戸時代からほとんど変わらない方法で作られる小鹿田焼は、「マルクトスコレー」の中心的存在となっています。また、原さんが手しごとの世界に魅せられるきっかけとなった沖縄の琉球ガラスも充実しています。
そのほか、熊本や佐賀、福岡などで作陶する作家ものも扱っています。作り手に実際に会いに行き、仕入れをしているため、現在は九州や沖縄の作家が中心です。また、どこにでもあるものではないものを、という思いで集められているので、初めて見る作家のものも多く、新しい出会いの楽しみにも溢れています。
器だけでなく、竹細工や博多曲物などの工芸品も。「器も工芸品も、使う人がいないとなくなってしまいます。伝統や背景を知ってもらい、使ってもらうことで、この文化が続いていく小さな一助になればと思っています」と原さん。若手作家や老舗の工房の話を聞いていると、私も一緒に応援したくなりました。
今回も私が気になったものを少し紹介します。まずは小鹿田焼から。こちらでは2軒の窯元の器を扱っていて、いまは6月に窯出しされたものが揃っています。写真は左から時計回りに「8寸皿(白・指描き)」(3,600円)、「4寸皿(白・刷毛目)」(1,200円)、「伏せ合せ5寸深皿(飴・飛び鉋)」(2,600円)。指描きや刷毛目、飛び鉋といった伝統的な模様は、改めてじっくり見ると新鮮さも感じられますね。
こちらは沖縄県うるま市「白鴉(しろがらす)再生硝子器製作所」の作品。作り手の鈴木紳司さんは、会社員時代、仕事に追われる日々に疑問を抱き、幼い頃に体験し惹かれたという琉球ガラスの世界に飛び込んだそう。「ガラス工房 清天」で修業を積み、独立したいまも再生ガラスを使ったものづくりをしています。ゆらぎやとろみを感じる独特の風合いが、使い手にも安心感を与えてくれそうです。写真は左から「そばちょこカップ」(クリア・ラムネ 各2,800円)、「レデューサーグラス」(3,000円)、「くびれグラス」(2,600円)です。
また、「工房 禅」の2代目、横田 翔太郎さんによる6寸皿(各6,050~6,380円)は可憐な絵付けが愛らしいんです。初期伊万里(昔は有田で焼かれていても、伊万里港から出荷されるものは伊万里焼と呼ばれたそう)の雰囲気をめざし、土に小さな石を混ぜたり、染付の呉須を淡い色にしたりしているそう。 有田焼というと凛としたイメージがありますが、時を経たような風合いが味わい深いですね。
原さんのお話がとても楽しく、あれやこれや気になることを聞いているとあっという間に時間が過ぎてしまいました。器はもちろん、お人柄も魅力的。また遊びに行きたいお店がひとつ増えました。
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- ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
- ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
- ※OSはオーダーストップの略です。
- ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
記事に関する諸注意
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