万太郎の喫茶と定食ノスタルジア【7】

シンプルで懐かしい味のカレーを作り続ける「じゃらん食堂」

公開日

ライター上野万太郎

カメラマン上野万太郎

大楠

じゃらん食堂

上野万太郎

ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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“タワーカレー”が話題だった「じゃらん食堂」

一時期、ハンバーグや茹で玉子などを積み重ねた“タワーカレー”が話題になっていた「じゃらん食堂」をご存じだろうか。昨年、店主の一ノ宮裕子さんが骨折のために7ケ月間休業し営業再開後は、リハビリのために仕込み量を制限。現在、“タワーカレー”は封印されているのだが……。

そんな「じゃらん食堂」は昨年の休業期間中に10周年を迎えた。この機会に裕子さんの半生を振り返りながら、リニューアルしたメニューをご紹介したい。

タワーカレー

現在は提供していないかつて人気だった“タワーカレー”。上から茹で卵、イカリング、手作り手ごねハンバーグ、コロッケ、オム。

前身は博多屋台村でカレーが人気のカフェだった

1961年生まれの裕子さんは、僕より一歳年上のお姉さん。高校卒業後に中村学園短期大学食物栄養科を卒業し、信販会社で11年間会社員を経験。20代だった昭和のバブル期は、後ろ髪を刈り上げてボディコン衣装をまとい、ディスコでブイブイ言わしてたそうだ。以前、その頃の写真を見せてもらったが今とはまったくの別人だった。まあ40年前だからね、お互い様ではあるが(笑)

元々、食べることやモノを作ること、インテリアなどに興味があった裕子さんは40歳までには飲食店として独立したいという夢があったそうだ。当時、ワンルームマンションで一人暮らしをしながらも、料理好きが高じてカセットコンロを使っては友人たちに料理を振る舞っていたとのこと。時にはイタリアンのコース料理を出していたというのだからビックリ。

「特に友達に人気があったのがカレーで、牛ホホ肉のカレーはこの時から作っていたんですよ。当時は牛ホホ肉が安かったという理由で頻繁に作ってたんですけどね」とのこと。

そんな思いが叶い、2003年、42歳にして自身の店を開業した。

「福岡空港国際線近くに新しく出来た屋台村への入居が決まったの。店名は『博多屋台村ジャランカフェ』でした。カレー、ピザ、スイーツ、そしてお酒などを提供してお昼から夜10時まで営業していたんです。空港貨物の関係者の方を中心にたくさんのお客さんに来てもらってましたよ」と裕子さん。

しかし2006年の福岡海の中道大橋事故以後に飲酒運転取り締まりが強化され、同じ屋台村に入居していた夜営業の店が次々に撤退。2008年3月に5年契約が満了し屋台村自体が閉鎖されたため一旦店を閉めることになったという。

「その後しばらくは、弁当販売店やタクシー予約受付の仕事などをしながら、移転先の物件を探していたのよ」と裕子さん。

「じゃらん食堂」開業

それから6年ほど経過した2014年10月、裕子さんは南区大楠にあるリノベーションビル「井谷ビル」で再度店をオープンする。カレーライス中心の店で店名は「じゃらん食堂」とした。

僕が「じゃらん食堂」を知ったのは、当時年間100から150回は通っていた東比恵の「カレーショップドゥニヤ(2020年に閉店)」の野村さんが教えてくれたからだ。
「知り合いの女性が、大楠でカレー屋さんを始めたんですよ。良かったら行ってみてください。スパイスがガツンと来るようなカレーではなくて、いわゆる日本的なカレーを出してるんですけどね」と。

行ってみると「じゃらん食堂」は3階建てテナントビルの2階にあった。以前、僕も何度か行ったことのある「ラディッシュ」という洋食店が営業していた場所だ。ワンルームマンションを改築した部屋は、カウンターだけのレイアウトでほぼ「ラディッシュ」時代の雰囲気のままだった。

井谷ビル

当時は、いわゆる“スパイスカレー”というものが注目されだした頃だったが、「じゃらん食堂」のカレーは日本人が大好きなザ・カレーライスのようなスタイルだった。手作りの手ごねハンバーグやゆで卵、それにコロッケ、イカリングなどのフライ物を好きに組み合わせてトッピングしていくのが楽しかった。冒頭のタワーカレーも僕が大好きなトッピングを積み重ねていって生まれたものだ。

裕子さんの接客も人気だ。「あら、久しぶりに来てくれたのね、ありがとう!!」とか、「ご飯足りますか?」「辛さが足りない時は備え付けのチリペッパーをかけてくださいね」「お腹一杯になりましたか?」など、気さくな笑顔でお客さんに話しかけてくれるのだ。そんな裕子さんに会いに来る常連さんも多いようだ。

それから9年、「じゃらん食堂」はお手頃価格で安くてボリューミーで親しみやすいカレーが美味しいということで近所のサラリーマンや観光客などで賑わっていた。海外からは特に韓国からのお客さんも多かった。

しかし、去年の5月。店内で仕込み中だった裕子さんは、厨房で転んで腰の骨を折るという大怪我をしたのだ。一歩も動けず、そのまま救急車で運ばれて入院。その後リハビリも含めて、お店を再開するのに7ヶ月もかかったのだ。

大怪我を克服し「じゃらん食堂」の営業再開

裕子さんは入院からのリハビリを経て、2024年12月に「じゃらん食堂」の営業を再開した。
「再開したとは言え、無理するとまだ痛みもでるので以前みたいな仕事量はこなせる自信がないのよね。営業日は、月、水、土曜日の週3日のお昼だけにしました」とのこと。
メニューの変更もあった。

じゃらん食堂

今回のメニュー一覧は上の通りだ。ライスの量をS(180g)、M(250g)、L(350g)、特盛(450g)から選び、それに好きなトッピングを追加するという方式だ。

「どうしてもワンコインカレーというのを作りたかったので何もトッピングしない素のカレーのSサイズを500円にしたのよ。やっぱりカレーは手軽にお手頃価格で食べてもらえるようにしたかったから」という。

それにしても素のカレーの特盛が750円ということだが、これもお得かも。450gってどんだけ食べるんだ!?と思うが、意外にも特盛を注文するお客さんが多いのでびっくりする。ちなみに僕は通常250gが基本だったが、今は減量中なので180gで十分だ。

しかし人気の看板メニューだった手作り手ごねハンバーグの提供が中止中なのは残念だ。「仕込み作業もそうだけど、提供するのに時間がかかってしまうので、しばらくはハンバーグ無しで営業しようと思うの」と裕子さん。僕は裕子さんが作るハンバーグの大ファンだったので、あの肉肉しくジューシーなハンバーグの提供再開を楽しみにしている。

カレーソース作りのこだわりは、「以前同様に仕込みに2日かけて一晩寝かせてお客様に提供するのは3日目からとなります」という。野菜が溶けこんだサラサラとトロトロの中間くらいの感じが、トッピングの揚げ物などによく合うのは昔のまま。辛みは以前より少し増しているようだ。

これまた定番で人気の「和牛ホホ肉」については「使っている頬肉は九州産の和牛でサシの入った美しい肉のみで作ってます。塊のまま崩れないギリギリまで丁寧に煮込んでるんです」 とのこと。ホロホロ具合は昔のままだ。さらに今回新しくメニューに加わった「ホロトロ豚バラ」は、数種類のスパイスと香草で頬肉と同様に塊を崩れる手前まで煮込んでる。これも今後の人気メニューになると思う。

それではいくつか現在のカレーの写真をご紹介しよう。

コロッケ、和牛ホホ肉、ホロトロ豚バラをトッピングしたカレー

じゃらん食堂

コロッケとオムをトッピングしたカレー

ハムカツと唐揚げをトッピングしたカレー

三元豚ロースカツとオムをトッピングしたカレー

「これからもカレーを作り続けていきたい」

裕子さんに大怪我からの営業再開後の気持ちについて聞いてみた。

「この歳でまだ楽しく仕事できることが幸せですね。大怪我した後に特にそう思うようになりましたよ」とのこと。

さらに「お客さんが『美味しかったよ!お腹いっぱいになった!』と笑顔で言ってもらえるのが幸せよね~。これからも末永くカレーを作りながら仕事を頑張りたいと思います」と締めてくれた。

僕も裕子さんも年齢的にはそろそろ仕事を引退する人も多い世代になってきたけど、この業界は健康であれば何歳まででも仕事が出来るのが良いところ。同世代として応援しながら共に頑張っていきたいと思う。

週3回のお昼だけの営業だが、タイミングが合えば是非お試しを。最後に裕子さんの写真だが、どうしても顔をどーん!!と出すのが恥ずかしいというので、お客さんと笑顔で話している裕子さんの写真を一枚どうぞ。

じゃらん食堂

店舗名

じゃらん食堂(店舗写真

ジャンル

  • カレー

住所

福岡市南区大楠2-17-3 井谷ビル208号

電話番号

092-753-8685

営業時間

11:30~OS14:00

定休日

日、火、木、金

席数

  • カウンター7席

メニュー

カレーライスSサイズ500円、カレーライスMサイズ550円、カレーライスL
サイズ650円、カレーライス特盛サイズ750円、三元豚ロースカツ400円、和牛ホホ肉250円、ホロトロ豚バラ250円、コロッケ150円

  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
  • ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
  • ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。

記事に関する諸注意

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