レストランはもちろん、ビストロやワインバーにも使え、しかも料理は手間暇かけた本格フレンチ。コストや人手の問題からメニューを絞る店も増えるなか、この懐深さはもっと評価されて良いのでは?──「アニオン」に来るたびに、そんな思いに駆られるのは僕だけではないでしょう。<男のフレンチ>という直球なテーマを掲げて17年。今回は男女を問わず愛される、天神の美味しい隠れ家を取りあげます。



オーナーシェフの本田フトシさんが、水鏡天満宮のそばに「アニオン」を構えたのは2008年のこと。白い外壁と庭の緑が“都会のオアシス”を思わせるフレンチ店で、ドアの横には「男のフレンチあり〼」の看板が見られました。
入店すると、そこは木の温もりと気品がフワリと混じった空間。おひとり様の姿も目立つカウンターとテーブル席に加え、右側には半個室的なテーブルが1卓置かれています。また、左側には200以上の仏産銘柄を揃えたワインセラーも。そこから厳選した「ワインセット」(4,200円)や「ワインマリアージュ」(7,800円)にも期待できそうですね。

ところで、なぜテーマが<男のフレンチ>なのでしょう? 気になって本田さんに尋ねると「昔の私の修業先が女性客中心のビストロで、常々“もっと男性にも来てほしいな”と思ってました。まだフレンチが敷居の高い時代だったんでしょう。でもある日、銀座に<男のフレンチ>を謳う店があると知り、興味を引かれて独立前に短期間働かせてもらったんです」。
「マルディグラ」というそのレストランで出逢ったのは、旨味が鮮やかに舌を撃ち抜く豪快な料理たち。「これほど男心に響く料理があれば、きっと男性も女性をフレンチに誘いやすくなる。そんな店づくりへの想いをこのテーマに込めました」。その狙いは見事に当たり、現在常連客の男女比はほぼ半々だそうです。


こうして生まれたメニューには、おまかせコースからアラカルトまで“選ぶ楽しみ”がぎっしり。特に「プリフィクスコース」(5,800円/アミューズ・前菜・メイン・デザート・ドリンク付)の値頃感は魅力で、今宵はこれをオーダーしました。
最初のアミューズは、新玉ねぎのアイスクリームに、アオサのチュイルとフリットを合わせた一皿。ひんやりした冷たさに、旬の濃厚な甘みと香りが加わり豊かな余韻を残します。新玉ねぎの葉をすり潰してオイルにするなど、食材を限界まで使い切るポリシーも良いですね。

続く前菜は、思い切って料金上乗せの豪華版に変更! これも基本価格が5,800円だからできる“冒険”なんですよね。悩んだ末に、前菜は「アワビとキモとヤサイ」(+1,800円)に決定。弾力あるエゾアワビの魅惑を、アワビの肝やエシャロットなどで仕立てた上質なムースが引き立てます。生気あふれる野菜の香味も絶品でした。
「食材の個性が輝くように、皿の上では必ず意味のある組み合わせを行います」と本田さん。その言葉通り、あらゆる要素が重なり合った音色は珠玉というほかありません。

同様に、メイン料理も「仏産ハトのロースト」(+4,500円)に変更して理想のプリフィクスは完成。高級店でもあまり見ないハトですが、これを選んで大正解でした。艶っぽい赤身の食感も、ハトのガラや内臓で炊いたソースも優雅の極み。しかも一緒に添えられた、ささみや手羽などを豚の血で固める“ハトのブーダンノワール風”が悶絶級の傑作で、衝撃に近いうまさは言葉を失うほどです。
そこで改めて気づくのは、あくまで丹念で繊細な仕事が「アニオン」の豪快な味を支えていること。磨きをかけた技と、客や食材に向き合う生真面目な姿勢が<男のフレンチ>の核心なのだと、そう教えてくれる一品でした。

締めのデザートは、デコポンを使った温かなクレープシュゼット。イタリア産リキュール「アマレット」を用いた杏仁風味のアイスクリームを上に乗せ、冷温の温度差で攻める表情豊かなスイーツが楽しめました。
というわけで、今宵も何ひとつ隙のないクオリティに大満足。古典技法を踏まえた味は重厚なのに、それと対照的な軽い食後感にも驚かされます。聞くと本田さんは「ビストロ ミツ」出身だそうで、系列店「アルピーヌ」では店長として活躍。なるほど、どの料理も素直に「うまい!」と言える訳ですね。
近年の再開発で街は変貌中ですが、「アニオン」だけは変わらず“天神フレンチの雄”でいてほしい──。心からそう願いたくなる愛すべき一軒でした。


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店舗名
AIGNON(アニオン)(店舗写真)
ジャンル
- フランス料理
住所
福岡市中央区天神1-15-14 高木ビル1F
電話番号
営業時間
17:00~OS翌1:00
定休日
日曜、月1回不定
席数
- カウンター6席
- テーブル15席
個室
なし
メニュー
プリフィクスコース5,800円、オマカセコース9,900円•15,000円•19,800円、ショートタイムコース7,000円•9,900円•12,000円、席料1,000円
喫煙について
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- ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
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