福岡ラーメン愛が止まらない
“豚骨一本”の潔いスタイルがラーメンファンを強く惹き付ける。原点回帰を促すような直球・博多豚骨の新店

非豚骨が台頭する中で、豚骨ラーメン復権の足音が聞こえてくる
潔く“豚骨一本”で勝負する新店。豚骨ラーメン文化が古くから根付いている福岡においても、このど・シンプルなコンセプトでの出店は意外に多くはありません。これまでもお伝えしてきましたが、あくまで“新規オープン”のラーメン店の数をみて、豚骨より非豚骨の方が多くなっている背景には大きく以下のような理由があります。まずは単純に「ラーメンの多様化」。ひと昔前は「細麺の豚骨でないとラーメンじゃなかバイ」的な豚骨王国ならではの風潮を僕も肌で感じていましたが、昨今はご存じの通り「ラーメンイズフリーダム」のマインドが広がってきていますよね。つまり、食べ手も作り手も選べる幅が広がっているということが一点目。次に「文化として根付いているゆえの値上げの難しさ」。ラーメン1000円の壁問題は聞いたことがあるでしょう。「早い、旨い、安い」が原点にある豚骨ラーメンが当たり前のように1000円を超えてくるのは、ラーメンのジャンルの中で間違いなく最後。食材や光熱費、店主の苦労がスープに“溶け込み”見えにくい、値段を上げにくい豚骨は作り手にとって割が合わず、選ばれにくいということです。第3には「豚骨ラーメン作りは独学では難易度大」であるいう点。ラーメンはこれが正攻法だ、あれは亜流だ、などは関係なく自由な発想で繰り出されるのが醍醐味。異業種の料理人が作る一杯や、カレーと同じようにマニアが自宅で研究したものが突然ハズることもあります。特にネットでレシピが簡単に手に入る今の時代、ラーメン職人への間口は広がっているのです。しかし、こと豚骨ラーメンに関しては試作段階で、骨の仕入れや、強力なバーナー、大型の寸胴などの機材を個人レベルで用意するのは大変ですし、何より“炊ける環境”(物件選びにおいても)を見つけるのがとても難しい。周辺環境に配慮して試作できるガレージなどを持っている、知り合いのラーメン店の厨房を使わせてもらうなどあれば別ですが、当然家では簡単には炊けません。ゆえに、豚骨ラーメンで出店している人の多くは、必然的に豚骨ラーメン店での修業歴があり、開業前からある程度豚骨スープのメカニズムを理解している人たちです。豚骨ラーメン店が全体的に少なくなってきているのですから、当然その弟子も減少傾向。加えて豚骨出身でも非豚骨を選ぶ人も多くなっています。
とまあ、前置きが長くなってしまいましたが、本題です。
僕は決して豚骨ラーメンの未来を憂いているわけでなく、必ず勢いを取り戻し、むしろ価値が高まっていくのだと確信しています。上記のような困難がありながら、それでも「豚骨ラーメンで勝負したいんだ」と強い信念をもつ若手が九州全体で少しずつ増えていることがとても誇らしいし、頼もしく感じるんですよね。今回はそんな豚骨新時代を担うニューカマー、5月11日オープンの「博多豚骨ラーメン ぶっとび」を紹介します。

場所は高砂1丁目、日赤通り沿い。「博多豚骨ラーメン ぶっとび」の隣には同じく新店の「博多中華そば 幸ノ助」。さらに南側には「鶏白湯ラーメン 絶好鳥」や「吉兜」、北側の清川サンロード商店街には「雷蔵」もあるなどラーメン店の激戦エリアです。
先に「豚骨ラーメンでの開業は完全独学では難しく、豚骨ラーメン店での修業を経るのが一般的」という話をしました。「博多豚骨ラーメン ぶっとび」の店主・天野和也さんにおいても、博多ラーメンの超人気店で腕を磨いた経験があるのですが、今回の出店にいたるまではとてもユニークなラーメン道を歩んできています。

天野和也さん(昭和58年福岡市生まれ)は造園や建設業などを経て、30代に入ってから豚骨ラーメンの名店「博多一幸舎」に入社。同店を運営するウインズジャパンホールディングスの入沢会長との縁からラーメンのキャリアがスタートしました。入社後は、それまでの海外経験を買われフィリピン、ブラジルでの一幸舎立ち上げプロジェクトにジョイン。マネージャーとしても頭角を表します。帰国後はおもに現在の「博多一幸舎 総本店」に勤務し、職人としての技術、現場力も磨いてきました。
そして満を持して2023年「麺や 天の」を独立開業し、翌年には「博多中華そば 和ノ助」と場所も屋号も変えて再オープン。さらに今回、和ノ助を閉めて新たなチャレンジとなるのが「博多豚骨ラーメン ぶっとび」という流れになります。僕自身、天野さんのことは一幸舎時代から存じ上げていますが、前身となる「麺や 天の」のジャンルは“鶏とん”であり、続く「和ノ助」はご飯に合う“ガッツリ系中華そば”。今回の“直球豚骨”である「ぶっとび」に至るまでに何クッションかあったな……と勝手に思考しました。その点についてを天野さんへまずは質問。
「独立を考えた当初は、修業先である一幸舎のような濃厚呼び戻しスープの店を出したいという思いが強かったです。ですが、最初の『麺や 天の』は間借り店舗で、移転した『和ノ助』においてもガンガンと炊くことができない物件、環境でした。その中で開発した取り切り手法の中華そばや鶏とんは、それはそれで胸を張り旨いと言えるものですが、僕の中ではまたいつか、ガッツリとした呼び戻しの豚骨ラーメンを作りたいという思いが常にあったんです」と天野さん。
「博多豚骨ラーメン ぶっとび」の物件は、カウンター8席のみで厨房も決して広くはありませんが、呼び戻しの要となる“羽釜”を複数据えて炊く製法が可能な環境。

「さあ、豚骨が作れるぞ。ってなった時、僕が年齢を重ねたからかもしれませんが、脂が少なくより“あっさりライト”な、優しい豚骨ラーメンを出したい気持ちが高まりました」と、濃度と炊き時間の異なる“一番”“二番”の羽釜のスープをブレンドしながら天野さんが教えてくれました。
スープに使う部位は、豚の頭、ゲンコツ、背骨。油分を極力抑えているため、すっきりとした飲み口の豚骨スープに仕上がっています。

せっかくなので、同店最高値のスペシャルメニュー「特製ぶっとびラーメン」(1500円)を頼みました。丼になみなみと注がれたスープに、増量したチャーシュー、卵黄などのにぎやかな具材。中でも「ワンタン」と大判の「海苔」が特記事項です。ワンタンは豚挽き肉主体の“肉肉しい”具を天野さんが丁寧に手包みしたものでニンニクの香りもふわり。一方、海苔には「有明海産1番摘み海苔」を採用。スープの熱が入って“とろっとろ“になり、卵黄と合わせて麺にねっとりと絡んできてうまいですね。サイドメニューの「チャーシューごはん」(350円)はスープをかけたり、丼にダイブさせて食べるのもおすすめです。

あっさりとした豚骨スープと卵黄、溶ろける海苔とのコラボレーション。個人的には、忖度なしでむちゃくちゃ好きなラーメンの類。現に、開店から閉店まで満席状態が続く人気ぶりです。
ちなみに、熱心なラーメンファンにとっては周知の事実ですが、日赤通り沿いで隣り合うこの新店「博多豚骨ラーメン ぶっとび」と「博多中華そば 幸ノ助」は、ともにラーメン店であった場所に改めて違うラーメン店が入った格好であり、しかも前の店も比較的新しい方でした。そのことからもラーメン店経営のシビアさ、トレンドの移り変わりの早さをどうしても感じてしまいますが、食べ手として新たなラーメンが食べられることを素直に喜び、意欲のある職人のチャレンジにエールを送りたいと思います。ラーメンライターとしても、この2店の動向は今後も見守っていきたいですね。
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店舗名
博多豚骨ラーメン ぶっとび(店舗写真)
ジャンル
- ラーメン
住所
福岡市中央区高砂1-8-1
電話番号
なし
営業時間
11:00〜15:00/18:00〜24:00(売切れ次第終了)
定休日
不定休
席数
- カウンター8席
メニュー
豚骨ラーメン780円、のりたまラーメン930円、手包みワンタンメン980円、チャーシューメン1,080円、特製ぶっとびラーメン1,500円、替玉150円、替玉+からし高菜セット200円、チャーシューごはん350円(ランチタイム300円)
喫煙について
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