万太郎の喫茶と定食ノスタルジア【9】

おとぎの国のようなインテリアと美味しすぎる料理が人気のカフェ「ハチミツボタン」濵田夫妻の話

公開日

ライター上野万太郎

カメラマン上野万太郎

志免町

ハチミツボタン

上野万太郎

ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信中。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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2009年4月に糟屋郡志免町に開業したおとぎの国のような古くて懐かしくてオシャレで可愛いカフェ「ハチミツボタン」。それでもって料理が抜群に美味しいというから僕にとっては文句のつけどころがない最高のカフェである。

調理担当は夫の濵田高洋(たかひろ)さん、そしてスイーツとハンドメイド雑貨を担当しているのが妻の妙子さんだ。僕のひとまわり下の寅年生まれの夫婦だ。開業前から妙子さんがカフェ開業準備中の情報をブログで発信していたのを僕がたまたま見ていたので、開業後すぐに訪問したのが出会ったきっかけだった。

その後、友達の飲食店と一緒に「たべコンスタンプラリー」という半年間にわたったイベントを開催したり、食事やライブに行ったり公私共に仲良くさせてもらっている。そんな二人も開業16年、年齢も50歳越え、いろんな意味で人生の分岐点にいるようだ。今回はそんな「ハチミツボタン」の二人をあらためてじっくり取材させてもらった。

長崎県出身の高洋さんと福岡市東区出身の妙子さん

それではまずは高洋さんの紹介から。
1974年長崎県西海市生まれ。高校卒業後に福岡市のデザイン専門学校に入学したものの、パソコンを使ってデザインしたりイラストを描いたりすることに違和感を感じていたそうだ。
「デザイン学校に行きながら飲食店でバイトしてたんですよ。そしたら、そっちのほうが自分に合ってるなぁと思い出したんです」とのこと。デザインや物作りが好きだったというが、手作りという点で料理の方が性に合っていたということだろう。
専門学校卒業後は飲食業界へ進むことを決めて、居酒屋やホテルの和食部門で働いたそうだ。東区香椎にあった居酒屋で働いていた時に店の前のバーのランチタイムに働いていたのが、のちに妻となる妙子さんだったそうだ。

一方、妙子さんは福岡市東区生まれ。裁縫やハンドメイド雑貨が好きだったので最初は縫製の仕事をしたそうだ。数年勤務して退職後にキャナルシティにあったカフェでお菓子作りと接客を担当。さらに岩田屋ジーサイドにあったカフェや店屋町にあったスペイン料理店で勤務した。その後、高洋さんと出会った香椎にあったバーのランチタイムで働いたということだ。

香椎で知り合った二人は物作りや飲食店という共通の話題で盛り上がり、いつかは自分たちの店を持ちたいという夢が出来、32歳の時に結婚することになった。

「ハチミツボタン」開業に向けて

結婚後に美味しい料理とスイーツ、そしてハンドメイド雑貨を提供するカフェを作ることを決断した。

まずは物件探しから。地域としては、高洋さんの弟さんが美容室をしているという佐賀県鳥栖市に始まり、福岡市内はもとより、飯塚市、春日市などを見て回った。二人にとって一番大事だったのは、店舗を自分たちの思う描くようなデザインで手作りしたいということだった。
「立地や家賃的には良い物件もあったんですが、店舗を改装するとなるとほとんど許可が出なかったんですよ」と高洋さん。

そしてついに現在の物件を見つけたという。

「一軒まるごとの平屋物件で、元は小料理店だったらしいんです。どんな風に改築しても良いですよ、って言われたのでその場で『ここにします!!』と即決しました」と妙子さん。

契約後に自分たちでの改築工事が始まった。仕事の休日を利用して週2日ペースで友達にも手伝ってもらいながらの工事だった。
「大工さんには全くお願いせずに電気工事以外は全部自分たちでやりました。元々の小料理店は窓もない和風の座敷が並んだレイアウトだったんです」
二人は柱と屋根だけ残しほぼ内装は作り変えてしまった。外観の壁も色を塗り替え装飾を施した。玄関ドアも手作りで作り替えた。

「元々こんな感じにしようという図面などはなかったんですが、壊しながら考えて作っていきました。シンプルでオシャレ過ぎないように、木の温かみがありそして物が多くてごちゃごちゃしてるけど落ち着いた雰囲気。強いて言うなら、ヨーロッパのおばあちゃんの家と言うイメージですね」

完成までには6ケ月かかった。まさにヨーロッパのおばあちゃんの家が出来上がった。というか、僕にはまるでおとぎ話の絵本に登場するような店に思えた。

改築中の記録写真

「ハチミツボタン」の料理

高洋さんが作る料理は一般的にいうところの“カフェごはん”とはちょっと違う。元和食料理人という技量をフルに使った本格的な料理を提供している。
ハチミツボタンプレート(1,300円)は、鶏の唐揚げスイートチリマヨソース、いろいろフライ(チキン、エビ、ナス、さつま芋、かぼちゃ)、チキン南蛮、煮込みハンバーグという料理が4種類用意されており、その中からメイン料理をどれか一つを選ぶスタイル。さらにスペシャルプレート(1,700円)は、それらの4種のおかずが全種盛られたボリューム満点ものだ。ランチタイムは自家製ヨーグルトのデザート付き。

ハチミツボタンプレートは、どれもボリューム満点で美味しいのはもちろんだが盛付けの高さが特徴的な魅力だと思っている。昔、高洋さんに聞いたことがある。
「日本料理では盛り付ける時に高さを意識することが大切なんです。高さを出すことで奥行きが生まれ、見た目も華やかになり、料理の魅力を最大限に引き出し、美味しさも表現できるんです」と。
和食料理人だった時のノウハウが生きているのはもちろんだが、元々デザインに興味があったセンスが表れていることも影響していると僕は思っている。

ここでいくつかのハチミツボタンプレートをご紹介しよう。プレートが出る前には先に出される玉子スープで体を温めながら料理を待つことになる。ハチミツボタンプレートの美味しさはメイン料理だけには限らない。トレーに一緒に出される副菜も楽し美味しだ。最近はシャケの塩焼きと刺身こんにゃくがのったサラダが特徴的だ。それに冷奴がオリーブオイル仕立てになっている点とかいかにもシャレている。

食前に出される玉子スープ

チキン南蛮

煮込みハンバーグ

スペシャルプレート(1,700円)

「魚料理が得意だったので開業当初は寿司プレートもありましたが、食材ロスの問題もありしばらくして辞めました。夜の営業にも力を入れようと考えた時もあったんですが、二人ともお酒を飲まないんです。だからどうしてもお酒を積極的に出すような営業はしませんでした」と高洋さん。

逆にコーヒーは大好きだったのでコーヒーとスイーツには力を入れてきたそうだ。コーヒーなどのドリンクは食後のお客様は300円。珈琲豆は開業当初から筑紫野市二日市にある「珈琲Chiba」のしっかり深めのものを使用。僕が大好きなスイーツはハチミツたまごプリン(食後のお客様は400円)だ。少し固めで玉子とハチミツがねっとり濃いめで食べた後の満足感がたまらない。その他にも手作りケーキもあり。

「最近はプレートでお腹いっぱいになってスイーツまで食べきれないというお客さんも増えてて、スイーツは少し用意を減らしてます(笑)」と妙子さん。それに対して高洋さんは「僕が他の店に食べに行って量が少ないなぁと思ったら満足感が得られないので、自分はしっかり量は出そうと思っているんです。量が多すぎるという声もありますが(笑)、それでも多分一番注文が多いのは、全種類のおかずをのせたスペシャルプレートなんですよ」と話す。

ハチミツたまごプリン

今では開店前から行列ができる人気店

11:30の開店時間前から店前に行列が出来ることも多い人気店になっている「ハチミツボタン」。どう見ても女子向けの可愛い店に仕上がっているが、実際はどんなお客さんが多いのだろうか。

「女性客が多いイメージがあるんですが、意外と男性のお客さんも多いんですよ。もちろん、ご夫婦やカップルで来られる方が多いですが、男性お一人とかもいらっしゃいますよ」

確かに先日伺った時も奥のテーブルには男性3名でのお客さんが晩ご飯を楽しまれていた。男女問わず年齢的には若い人から年配の方まで幅広いようだ。かくゆう僕も開業当初からほとんど一人で通っているのだが。

妙子さんの作品コーナー

今後の夢について

「コロナ禍の時は時短営業をしながらテイクアウトでの弁当販売も頑張ってたんですが、少し時間ができた分、料理以外の創作活動に力を入れてました」と妙子さん。

妙子さんは開業時から布類やかぎ針編みで作ったハンドメイドのぬいぐるみやバッグやエプロンなどの作品を作り続けている。他にも毎年恒例のオリジナルカレンダーも人気だ。
一方、高洋さんは絵描きが得意で点描画やそれを活かした陶器のペインティングや、動物が好きなので犬などの水彩画などに数年前から取り組んでいる。さらには彫刻作品も店内に展示されている。

35歳で「ハチミツボタン」をスタートさせた二人。高洋さんは夜営業がある週末などは次の日の仕込みをして自宅に帰るのは朝方だったりするのも珍しくないそうだ。働き方改革ではないが、もう若くない二人、先のこともいろいろと考えているそうだ。

高洋さんの作品コーナー

「夫婦二人でこの場所でずっとカフェをして行きたいのは大前提ですが、今後は二人の雑貨や絵などの作品をもっと積極的に販売していきたいと思ってます。自宅もお店と同じように年月をかけて好きなスタイルに改装してアトリエとして使っているんですが、そこを販売所にしていきたいと考えているんです。毎日でなくても良いんですがランチが終わったら私はそちらで創作活動をしながらお客さんの相手をしていくのも素敵だなと思ってます」と妙子さん。

料理を通じて知り合った濵田夫妻だが、元々のスタート地点は二人ともデザインや雑貨の創作活動だった。50歳を過ぎてそろそろ最後にもう一つやりたいこととして初心にかえってチャレンジしたいと考えているようだ。そもそも最初からそうだったが、料理やスイーツに限らず、可愛い店内のインテリアや雑貨を含めてすべてが二人の作品だったのだ。

10年後、20年後を見据えた場合、50歳にして新しいことにチャレンジするのはちょうど良いタイミングではないだろうか。これからの二人の活動をますます応援しながら、時々夜に美味しいご飯をいただきながら話をしに行こうと思う。

皆さまも是非、美味しいご飯、美味しいスイーツ、そして二人が作り上げたおとぎの国のようなハチミツボタンワールドをご体験あれ。

店舗名

ハチミツボタン(店舗写真

ジャンル

  • 定食・食堂
  • スイーツ
  • カフェ

住所

福岡県糟屋郡志免町別府1−25−11

電話番号

080-8705-8880

営業時間

昼11:30〜LO15:00/金曜日と土曜日のみ夜営業あり18:00〜LO20:00

定休日

木曜日(水曜日は月2回休み)

席数

  • カウンター3席
  • テーブル14席

メニュー

ハチミツボタンプレート1,300円、スペシャルプレート1,700円、お子さまプレート600円

  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
  • ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
  • ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。

記事に関する諸注意

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