リレーエッセイ「トマトラーメン三味のここが凄い!」
コロナ禍も乗り越えた「三味」はなぜ強い?宮下将司氏という経営者のこと

今年10周年を迎えた「トマトラーメン三味」。この10年間で豚骨の聖地・博多でラーメンの新ジャンルを確立しました。その魅力をUMAGAのライターがそれぞれの視点で紹介するリレーエッセイを10回の連載でお届けします。
第8回目は葉山 巧さんです。
当初からこのリレーエッセイをお読みの方には、「元祖トマトラーメンと辛めん 三味(333)」(※以下、三味)」がこう映っているかもしれない──順風満帆、怖いものなしの成功チェーンだと。それはおおむね正解だ。けれども陰では幾多の困難があり、それを克服してきた力こそが“強さ”なのだと思う。
今回は、その“強さ”の要である社長の宮下将司氏にインタビュー。今日の「三味」を築いたアクションやモチベーション、さらには未来予想図を深掘りしてみた。対談中はすぐにでも自伝が書けるほど興味深い逸話が満載で、すべて紹介できないのが残念だが、ともあれ本稿を通して宮下氏がいかにスペシャルな経営者なのか判ってもらえるはずだ。エッセイの第1回、第5回とリンクする姉妹編なので、ぜひそちらも再読いただきたい。

愛娘のまりんちゃんと共に現れた宮下将司氏。時折覗かせる“子煩悩な父の顔”が印象的だった。
8月上旬、宮下氏をお迎えしたのは「元祖トマトラーメン 三味 キャナルシティ博多ラーメンスタジアム店」。挨拶を交わすや「この店がメディアに登場するのは初めてかも」と笑みを浮かべる。長期改修のため、一旦9月から全テナントが休業するラーメンスタジアム。「三味」も例外ではないが、宮下氏にとって特別な店であり、最後にここで取材を受けたかったという。「ラーメンスタジアムの前担当者・松村さんから、長年ここで売上1位になった非豚骨ラーメン店はないと聞いていました。でも、その壁を唯一破ったのが実はうちなんです」と胸を張る。
2018年3月、“三味 キャナル店”は系列4店舗目としてオープン。松村氏から2年越しの熱心な誘致を受け、その気持ちにほだされて出店を決めたという(宮下氏は自分に縁が深いか、思い入れのある場所にしか出店しない主義)。「観光客が多い施設なので、三味の元祖トマトラーメンを県外にも周知できそうだとの期待もありました」。ここだけのオリジナルメニューも多く、ほどなく“三味 キャナル店”はメキメキと頭角を現す。取材時も、同店のPVはMEO(Googleの上位店表示システム)の数字のみで月間28万を超えており、圧倒的注目度を誇っていた。



この店だけのオリジナルメニュー。いずれ劣らぬ美味揃いで、系列店での復活を願いたいところ。
オリジナルメニューでは、「博多スタミナREDトマトラーメン」(1,200円・写真上)、「カレー豆乳ラーメン」(800円・写真下左)、「チーズバジルご飯」(390円・写真下右 ※左の「絶品餃子(5個/390円)」は他店舗でも販売)などが大好評。定番商品の変奏ながら、どれもクセになる魅力が満ちた逸品だ。
こうして国内外にファンを増やすなか、すべてを覆す事態が発生。2019年末から始まったコロナ禍である。国内経済が半壊し、多くの業種で倒産が増加。だが、宮下氏はこれすら好機に変えてしまう。まず、元祖トマトラーメンと味噌辛麺を各々1杯100円(!)の低価格でデリバリーを断行すると、1日300食以上の注文が舞い込んだ。その後1杯あたり333円に変更するが、配送手数料設定の妙もあり、同業他店はこれに追随できない。
その勢いは止まず、2022年に「フードパンダ」で世界一の単店注文数を達成し、「出前館」の福岡のラーメン店の単月ランキングでは、同社の店舗が18カ月中17カ月も首位を独占(21年6月〜22年11月)。Uber Eatsでも福岡トップクラスのシェアを占めたというから驚きだ。結果、ラーメンスタジアムにおいて6カ月連続で売上1位を記録。キャナルシティ博多の全飲食部門でも金賞に次ぐ銀賞を獲得し、見事優秀店舗に選ばれた。

キャナルシティ博多から授与された表彰状は、宮下氏にとって大きな勲章の一つ。
「実店舗での提供(外食)とデリバリー(中食)の合わせ技ですが、素直に嬉しかったですね。このやり方でも支持してくださるファンがいて、うちのトマトスープも豚骨に勝てると確信できた。それを教えてくれた“三味 キャナル店”は、だから僕には特別なんです」
この件で実店舗のみにこだわる必要がないと気づき、ゴーストキッチン(デリバリーやテイクアウトに特化した飲食業態)と提携を始めたのも増収に貢献。現在は東京中心に40以上の拠点を持つそうで、こうしたフレキシブルな行動力が「三味」の躍進を支えているのは間違いない。
5月オープンの「モラージュ佐賀店」で県外初出店を果たすなど、コロナ禍以降も快進撃が続く「三味」。だが驚くことに、今年2月までの1年半、宮下氏は社長業を休んでいたという。「2023年7月の豪雨で自社ビルが水没し、翌年は妻が追突事故に遭って子育てに奔走するなど、とても現場に立てる状況ではありませんでした」。しかも水没の件では「約款の規定通り、雨によるビルの什器・備品・食料品などは補償外」と損保会社からまさかの回答。普通なら、誰もが心折れて泣き寝入りするところだが──。
宮下氏は違った。すぐさま判例を読み漁り、法律知識を叩き込むと、400枚近くも書類を書いて損保会社と粘り強く単独交渉。弁護士もつけず、損害鑑定人を相手にエビデンスと論点を提示すると、一部主張が認められたのだ。「受諾してくれた損保会社にも感謝しています」と振り返る。
また、奥様の件でも孤軍奮闘。64日間の入院中、すべての家事と4人の子供の育児をワンオペでこなし、125日以上のリハビリ送迎もして奥様の症状が固定するまで寄り添った。さらに、事故で残った奥様の後遺症を「後遺障害等級」に認定してもらうための手続きを粛々と進行。ここでも、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所から想定していた2級上の後遺障害等級が併合にて認められたという。
なんという不屈の精神。これが、エッセイ第1回で宮下氏の述べた「何事も勝つまでやる」の経営理念だ。「最後まで諦めずに努力し、戦い続ければ決して負けはしませんからね。負けを自分が認めればそれは負けです」。宮下氏の胆力が「三味」のエンジンだと示す、実に象徴的なエピソードである。


“キャナル店”は屋台風の内装が印象的。人物写真の右は広報の内山翔太さんで、社長休業期の運営を支えた功労者。「元祖焼きトマトラーメン」(980円)などを考案したアイデアマンでもある。
そんな宮下氏いわく、「僕はいつも結果から逆算して行動するんです」。ともすると勢いばかり注目されがちな「三味」だが、それを牽引するのは先見性や合理性、そして倫理観に基づく経営戦略に他ならない。こうした姿勢が生んだのが、過去エッセイにもある学割であり、育児支援割引であり、地方創生といった取り組みの数々。どれも場当たり的でなく、長く続くよう計算され、しかも消費者や地域に奉仕する優しい視線がある。理性と感情のバランスが取れた“人間味”がとても気持ちいい。ハイコスパだけが愛される理由なら、ここまで「三味」の人気は続かなかったと思う。
もちろん、その気持ちよさは社員やスタッフにも波及して、組織に揺るぎない連帯感をもたらした。全店舗で見られる上質な接客の原点は、紛れもなく宮下氏のリーダーシップであり、だからこそ氏の休業期間もスムーズな運営が可能だったのだ。この盤石のチームワークは、宮下氏が掲げる「国内100店舗達成」の強い追い風になるだろう。
そう、「100店舗」は創業以来の氏の悲願。そのスケールは徐々に広がり、今では「国連加盟国の子供たちに、栄養価の高い僕らのトマトスープを届けたい」という夢に繋がった。「でも海外での活動は障壁が高く、僕らの力だけではとても無理。現在は良きパートナーと合弁会社を立ち上げられないかと考えています」。その模索の先にある最終的な目標は、どの国に行ってもトマトラーメンがある世界。つまり“和製コカ・コーラ”的な企業である。巧みな戦略と情熱で多くの逆境を乗り越えてきた宮下氏に、「そんなの無理だ」と誰が言えるだろう?

この「元祖トマトラーメンと辛麺と元祖豆乳ラーメン 三味(333) 照葉スパリゾート24時間営業店」のように、一日中営業するラーメン屋は最近貴重だ。来春は佐賀県内か福岡県内の駅周辺にも24時間営業店を1軒オープン予定。
取材中、「宮下氏は三味を社会のインフラに育てているのでは?」とふと思った。前述の海外展開や地域振興などに加え、「今後出す店はできる限り24時間営業にしたい」との発言にもそれを感じる。台風時は帰宅できない人々の避難場所になり、灯の消えない看板は住民に安堵をもたらし、夜間の防犯強化に役立つだろう。「光熱費などは嵩みますが、月々の家賃は同じですからね」
このように、ラーメン屋本来の役割を超えた取り組みに挑む宮下氏を評価する声はビジネス界にも多い。「東京商工リサーチ」「帝国データバンク」の経営者評点は常に高得点だし、「フィナンシャル・タイムズ」では飲食店カテゴリーの企業成長率においてアジアNo. 1を達成。現在は九州・山口の最優秀経営者を選ぶ公益財団法人「経営者顕彰財団」の推薦を新聞社から受けている。「これに飲食店経営者が名を連ねるのは珍しいので、すごく光栄ですね」。1カ月限定ながら、韓国4大財閥にして韓国最大の携帯電話事業者「SKテレコム」とのコラボが実現したのも「三味」が積み上げてきた信頼ゆえだろう。
こうした栄誉を得ながらも、宮下氏の気持ちに驕(おご)りは少しもない。値上げが当然の昨今も低価格路線を曲げず、直接耳に届く「ありがとう」「美味しかったよ」の声に目を細める。「ラーメン事業に限っては、お客様に喜んでもらえたら僕個人が儲からなくても良いのかなって。人や地域に尽くし、感謝されること。それが飲食業をやる一番の醍醐味だからです」。そう、これが宮下氏を駆り立てる行動原理。そして、その奥には、もっと大事なモチベーションが隠れていた──「ここまで頑張れるのは、母に“良い仕事”をしてる姿を見てほしいからかもしれないですね」

「いろんな業種とコラボできる自由さも飲食業の面白さです」と宮下氏。海外から出店を打診されることも多く、今後の展開も要注目だ。
女手一つで育ててくれた母への恩を、宮下氏は片時も忘れない。実家の近くに「古賀駅東店」を、療養のため温浴に通うと聞いて「元祖トマトラーメンと辛麺と豆乳ラーメン 三味(333) 照葉スパリゾート24時間営業店」を8月に開いたのも母のため。母君も立派になった息子をさぞや誇っているだろう……と思いきや「厳しい人なので全然褒めてくれません(笑)。でも、常に僕を前進させてくれた母の存在はやっぱり大きい。これからもずっと感謝ですね」
最近体調がすぐれぬ母のためにも、100店舗達成や海外展開の夢を早く実現させたいと宮下氏。「僕も現場に復帰しましたし、これからの10年は過去10年よりも仕事のペースが上がるはず。その結果実現できなくても、挑戦したこと自体に大きな意味がありますしね」
誠実なメニューづくり、接客、社会貢献によって、今後も「三味」は国内外で飛躍を遂げるだろう。その最大の原動力は、きっと宮下氏の「半生を賭けた母への恩返し」なのだ。利益より真心を重んじる氏の哲学を考えれば、そのストーリーが一番腑に落ちる。
そのせいだろうか。帰り際に啜ったトマトラーメンは、前よりも温かい味がした。
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店舗名
元祖トマトラーメンと辛麺と元祖豆乳ラーメン 三味(333) 照葉スパリゾート24時間営業店(店舗写真)
ジャンル
- ラーメン
住所
福岡県福岡市東区香椎照葉5-2-15 照葉スパリゾート本店 1F
電話番号
営業時間
24時間
定休日
なし
席数
- カウンター8席
- テーブル36席
個室
なし
メニュー
元祖トマトラーメン680円、辛麺720円、とろとろ豚なんこつ450円、特製極旨チャーハン500円、博多明太ウィンナー(1本)120円
喫煙について
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