定食屋→弁当店への転身が大成功。「ニュースマイル」好調の理由とは？

薬院の街角に、洋食専門の定食屋「ニュースマイル」が登場したのは2011年のことでした。玉子を２個並べた看板料理のナポリタン「ニコタマスパ」など、郷愁がほんのり薫るメニューは親しみやすいものばかり。広い世代のファンも付きましたが、先日「今は人気の弁当店だよ」と聞いて驚きました。「NEW SMILE OH! BENTO 2020」という名で再始動した経緯を、代表の松山隆浩さんに伺います。

焼肉の「大東園」や「キッチン中田中」などで修練後、独立して「ニュースマイル」を構えた松山さん。「メニューを洋食にしたのは、子供の頃連れて行ってもらった洋食店の影響ですね。老いも若きも楽しげな店の雰囲気が大好きで、あの風景に近づきたかったんです」。そんな想いをこめた丁寧な料理が、近隣住民に認められるのに時間はかかりませんでした。

しかし、世界を襲ったコロナ禍が「ニュースマイル」にも直撃。外食を避け始めた人々を見て、2020年の春、松山さんは初めて弁当を売ることにしました。
「テイクアウトはいつかやるつもりでしたが、葛藤もありました。やはり出来たての料理を提供したいし、そのうえで味も評価していただきたいので。でも弁当だと大抵冷めた状態ですし、食べるまでどう保存されるのか分からないのも怖かったですね」
ところが、不安に反して弁当は大好評。「確実にテイクアウトのニーズがあると実感できたのは収穫でした。店で食事するのが苦手とか、お子さんが小さくて外食しづらいなど、いろんな事情を持つ方のためにできることがありそうだなって」。この手応えに励まされ、松山さんは飲食店から弁当店に路線変更。厨房の大改装を終えると、2020年11月、「ニュースマイル」は「NEW SMILE OH! BENTO 2020」として生まれ変わりました。

ここで驚くのは、松山さんの行動の速さです。2020年といえば、まだコロナは年内に収束すると思われていた頃。ハイリスクな業態変更に踏み切った店や企業は少なかったと思います。
松山さんを後押ししたのは、ちょうどその頃生まれたお子さんの存在でした。「コロナについて調べるほど“大変な時代になる”と危機感が深まり、とにかく子供を育てるためにも何とかしなきゃって、そればかり考えてました」

幸運にも、この決断は“英断”となります。14、５種類からおかずを２種選べる「TAMA-BEN」（864円）や、玉子が２つ入ったナポリタン「NIKOTAMA-SPA」（810円）を筆頭に注文が殺到。「なかなか電話が鳴りやまず、モバイルオーダーを導入したほどです。売上もすぐに飲食店時代を超えました」と松山さん。
肝心の弁当も、洋食のプロのお手製なので味は保証付き。洋食特化の弁当店という個性も面白いし、以前の「ニュースマイル」の味を懐かしむファンもいたでしょう。そうした口福の源は、「冷めても美味しいようにレシピをすべて変えました」と語る、真面目な職人気質の賜物です。松山さんの名刺には今も「オーナーシェフ」の肩書きが残りますが、これは「何よりも自分は料理人なのだ」という矜持に違いありません。

だからこそ、松山さんは「いつかまた飲食店がしたい」と願います。現在は２階のカウンター席を14時まで開放し、オムライスとニコタマスパのみ提供していますが、いずれスタッフが揃えば飲食店版「ニュースマイル」が復活するはず。「弁当店を営んで、あらためて感じるんです。直接お客様の顔を見て、“いらっしゃいませ”とか“うまかったよ”なんてやり取りするのがどんなに幸せなことかって」
その日に向けて、松山さんはもう動きだしています。美味しい洋食の周りに花咲く、たくさんの“新しい笑顔”を見るために。