上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第19回】
創業35年目の2代目が取り組む“ジャパンライスカレー”専門店
公開日
最終更新日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
上川端
カレー専門店Spice
上野万太郎
ここ十数年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club
冷泉公園近くに創業35年を迎える「カレー専門店Spice」という店がある。現在は2代目になる大野宏樹さんが奥様のるいさんと2人でランチタイムに営業している老舗カレー店。宏樹さんは昨今のスパイスカレーブームにのらず、自ら“ジャパンライスカレー”と看板を揚げ、日本人による日本人のための日本のカレーを作り続けている。
自動車関連会社社長からカレー店の2代目への転身
そもそもはラーメン店として17年間営業していた宏樹さんのお父様が、ラーメン店を一旦閉店した後、「Spice」を開業したのが始まりだった。その後お父様の後を継いだのが次男の宏樹さんというわけだ。
それまでの宏樹さんは自動車どっぷりの人生を送っていた。若い頃は自動車ディーラーで営業マンとして活躍し、その後、自動車関連の会社を設立し、オリジナルエアロパーツの製造販売、塗装、板金などを行っていた。ちなみに、現在店内に飾られているガンダムの大きなフィギュアの中には宏樹さんが自作した物も多くある。
「Spice」は宏樹さんのご両親2人で切り盛りしていたが、開業後18年経った頃、年齢的にも体力的にも引退を考えていたお父様を、宏樹さんは朝からランチタイムまで手伝うようになった。宏樹さんが店を引き継ぐ8ヵ月前のことだった。
手伝いと言っても一番大事なカレー作りから取り組んだ宏樹さん。「父は昔気質の職人ですからね、見習いは『見て習え!』というような人だったんです。まさに見て覚えたカレーを毎日父に味見してもらいながら父と同じカレーを作れるように頑張りました。幾度となく調整したレシピを数値化し繰り返しながら父の味の再現性を高めていましたよ」と当時を振り返る。そうして宏樹さんが正式に店を継いだのは、お父様が66歳、宏樹さんが37歳の時だった。
「引き継いだ後は常連さんの目が怖かったですね。まともにお客さんと話したりすることもしばらくは出来ませんでした。でも、お客さんは実際8ヵ月前から僕が作ったカレーを食べていたわけだから、カレーの味については自信がありましたけど・・・」と宏樹さん。そして、ただの一人からも「お父さんから変わって味が落ちたね」と言われることはなかったそうだ。
こだわりは “ジャパンライスカレー”
数年前、宏樹さんは店の入り口に「JAPAN RICE CURRY」という文字を大きく掲げた。
「日本人による日本人のための“ジャパンライスカレー”が店のテーマです。やっぱり生まれた頃から食べていたカレーって美味しいと思うんですよ。あるアンケートによると昔の子供に『一番好きな食べ物は何?』って聞くと『カレー!!』って答えていましたけど、最近は『フライドポテト!!』って答えるらしいんですよ。それをまた『カレー!!』って言ってくれるように戻したいんですよね」と笑顔で話す宏樹さんだが、そのまなざしは本気だ。
「Spice」のカレーは、野菜と果物がたっぷり溶けこんだスープが自慢だ。コクがあるのにあっさりしているから毎日でも食べられる。トッピングは若鶏の煮込みや手作りハンバーグが人気。ライスを覆うように広く載せられた千切りキャベツが特徴で、それがまたサラッとカレーを食べられるアクセントにもなっている。
客層的には、博多のビジネス街に立地しているのでビジネスマンやOLさんたちが中心になる。先代の時から何十年も通っている地元の人や、「博多座」に出演する歌舞伎役者や俳優などの来店も多く、店内には超大御所と言われるような芸能人のサインが数多く飾られている。
人気メニューは若鶏の煮込みカレー
一番人気は「若鶏の煮込みカレー」(1,330円)。これは先代の時からの看板メニューで、若鶏の煮込みにはかなり手間暇がかけられている。
まずは寸胴で鶏肉だけを軽く煮込んで灰汁を取る。その後、鶏肉を取り出し、一つ一つ手で揉むように丁寧に冷水で洗うのだ。それを10年以上継足している専用カレースープで6時間、一度冷ました後にさらに4時間煮込む。そこまでするから、鶏肉の臭みはなくなり、骨付きの鶏肉はスプーンでもホロホロとほぐれるほど柔らかくなっている。
次に人気なのは「手作りハンバーグカレー」(1,330円)。これは1日13個しかハンバーグを作れないので13皿限定で、牛肉100%の肉々しいハンバーグが特徴だ。
また、僕が大好きなカツカレー(1,330円)や、お得な「日替わりカレー」(900円)もある。
ライスカレーパンの開発
ずっと研究してやっと形になり去年から開始したのがカレーパンの販売である。といっても一般的なカレーパンとは違い、“ジャパンライスカレー”を詰め込んだオリジナルスタイルである。つまり、カレーソースはもちろん、ライスも千切りキャベツも福神漬けも詰まっているカレーパンで、まさにライスカレーパンである。
これは友人でもある東区青葉のパン屋「Bread-Base RISE」とのコラボで生まれたものだ。この「ライスカレーパン」(350円)は、「Spice」と「Bread-Base RISE」の両店で販売中。注文を受けてから揚げるので出来立てはなおさら熱々で美味である。ランチのピークタイムには提供できないこともあるが基本的には店内飲食も可能とのこと。両店ではこれからもコラボによるカレーパンの第2弾、第3弾を考えているそうだ。
「このライスカレーパンに取り組んだのは“ジャパンライスカレー”の美味しさを広めるためでもあるんですよ。最近また外国人のお客さんも戻って来てるので、日本人のカレーを日本人のためだけでなく海外の人へもっと広げるためにこれからも地道に頑張っていきますよ」と宏樹さん。
最後に
最後に今後のことを聞いてみた。
「父から受け継いだカレーの味は3年間だけはしっかり守りましたけど、その後はより美味しくなるように自分なりに少しずつ変えてます。お客さんは味が変わっても美味しく変わっていれば何も文句は言わないというのが分かりました。これからも自分が食べたいと思うような美味しいカレーを作り続けていきますよ。自分が食べたいカレーを作るんですから、手は抜きません」と宏樹さんは締めてくれた。なるほど納得である。
今後も夫婦仲良く博多の中心から世界へ向けて、「ジャパンライスカレー作ってます!!」と叫び続けて欲しいものです。
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店舗名
カレー専門店Spice(店舗写真)
ジャンル
- カレー
住所
福岡市博多区上川端14-30
電話番号
営業時間
11:00~15:00(土曜は~14:00)
定休日
日曜・祝日
席数
- テーブル34席
メニュー
ビーフカレー850円、日替わりカレー900円、若鶏煮込みカレー1,330円、手作りハンバーグカレー1,330円、カツカレー1,330円、ライスカレーパン350円
喫煙について
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
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