昼から立ち飲みできる美野島のナチュラルワインバー

昭和の下町の気配が色濃く残る、博多区の美野島商店街。近年、そのまわりに新しい飲食店が続々と誕生し、周辺からもわざわざ人が訪れる注目のグルメスポットになっています。そんな商店街のすぐ近くに昨年末オープンしたのが、コンテナタイプの飲食街「美野島BASE」。今回はその中の一軒で、毎日午後２時から昼飲みができるという立ち飲みワインバーの「あまねき」を目指しました。

住吉神社前でバスを降りて、まだ残暑の厳しい中を汗をかきかき歩くこと約10分。美野島通りと小柳通りに挟まれた細い筋は昔ながらの住宅街で、筆者も初めて通る道でした。お目当ての「美野島BASE」は広い駐車場の一角にあり、その奧から２軒目が「あまねき」です。

開店間もない２時過ぎにたどり着いた店は、５坪弱のスペースにカウンターが設置された立ち飲みスタンド。ワインバーながら、ますは乾いた喉を潤すために冷えたビールを注文しました。店主の森本祐美さんがボトルから注いでくれたのは、岡山県備前市の山奥で造られている「Kotiビール」。自然酵母を瓶内熟成したナチュラルなクラフトビールで、麦芽とホップに柑橘の香りを添えた爽やか風味が、スーッと喉を通り過ぎていきます。

店主の森本さんは関西の出身で、大学卒業後は大手企業に就職。転勤で移り住んだ福岡で食べ歩きをするうちに飲食業の魅力に目覚めたといいます。「人を幸せにする仕事がしたい」と、飲食店で週末だけのアルバイトを経て会社を退職。その後立ち飲みワインバーの店長として奮闘し、その経験をもとに昨年12月ここ美野島BASEで昼から飲めるナチュラルワインバーを開店しました。

グラスワインは800円からで、泡・白・赤が毎日10種類ほど用意されています。１杯目に注文したのはイタリアの微発泡オレンジワインで、その名も「EASY」。何も考えず、気軽に楽しく飲んでほしいというコンセプトで造られたガブ飲み系ワインですが、クオリティはなかなかのもの。800円という値段を考えれば、かなりの高コスパです。

ワインに合わせた料理は森本さんの手作りで、その多くが福岡近郊の自然農野菜や自家栽培のハーブを使っています。写真の「ホーリーバジルのポテサラ」（300円）は、シンプルながらも玉ネギや粒マスタードのペーストに隠し味のスパイスを入れるなど手の込んだ作りで、ビールにもワインにもよく合います。

ワインのセレクトは森本さんが惚れ込んだ生産者のものばかりで、なかでも激推しの一本がフランス・ローヌ地方で造られる「村人のためのワイン」と呼ばれる野趣に溢れた地ワイン。なんでも造り手は植物学者で、ワインを買いに行くのも大変な田舎の村人のために地元のブドウを集めて仕込んだものだとか。決してエレガントとはいえませんが複雑な香りとピュアな果実味があり、これぞテーブルワインのお手本のような一杯で、こちらもガブガブと飲めちゃいます。

この店のスペシャリテといえるのが下積み時代に毎日巻き続けていたというオムレツで、写真は有明海産一番摘み海苔を使った「のりチーズオムレツ」（1,000円）。海苔の風味が赤ワインに合うのは、意外なマリアージュの妙でした。

一本一本に造り手の思いが込められたナチュラルワインにはそれぞれにストーリーがあり、嬉々としてそれを語る森本さんは実にイキイキとしています。会社員から転職したナチュラルワインバーの店主は、まさに天職といえるかもしれません。そんな森本さんの笑顔に会いに来る客で、小さなカウンターは毎日明るいうちから賑わっています。