蒸溜所ツアーにハンドフィル体験!福岡・朝倉の新名所「SHINDO LAB」を徹底レポ
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前回お届けした朝倉エリアへのお出かけ記事。その最後でご紹介した「SHINDO LAB」があまりに魅力的すぎて、深掘り取材を決行することに。
SHINDO LABとは? 福岡初のクラフトウイスキー蒸溜所の全貌は? ハンドフィル体験って?
気になるポイントをググッと抑えながら、徹底レポートしたいと思います。
SHINDO LAB とは?
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「SHINDO LAB」は、福岡県朝倉市の「新道」と呼ばれるエリアに誕生したお酒の製造施設。230余年の歴史を誇る老舗酒造「篠崎」が、「THE QUEST FOR THE ORIGINAL=独創性の追求」とのコンセプトで立ち上げた、“新たな酒造り文化の発信地”です。
福岡市の中心部から車で50分程とアクセスも良好。約5500坪もの広大な敷地には、福岡初のクラフトウイスキー蒸溜所や樽熟成庫、日本酒やワインの醸造場などを有し、2024年7月には体験型コンセプトショップ「SHINDO LAB STAND」も誕生しました。
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「篠崎」8代目にして、ウイスキー蒸溜の責任者も務める篠崎倫明さん。情熱あふれる造り手の一人
迎えてくれたのは、「篠崎」の8代目・篠崎倫明さん。篠崎さんがなぜ、ワインやクラフトジン、そしてクラフトウイスキーへの挑戦を始めたのか。それは父である7代目・篠崎博之さんから受け継いだ精神「独創性の追求」と、多種多様なお酒の世界に魅せられたからに他なりません。
挑戦を続けてきた老舗酒造「篠崎」
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麹と発酵、醸造の専門知識をもって造られた「国菊あまざけ」。瓶タイプの甘酒として国内シェアNo.1を誇る
江戸時代後期に創業した「篠崎」は長らく日本酒一筋の蔵元でしたが、先代は“右にならえではダメだ”と時代を見据え、約40年前に舵を切ります。健康効果にも着目し、最初に造り始めたのは「米麹甘酒」でした。甘酒が今ほど浸透していない時代に、製造と管理が難しい「米麹甘酒」の製造は多くの苦難もあったそうですが、挑み続けた結果これがヒット!
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「朝倉」シリーズの第一弾商品「朝倉」(3,465円)と、さまざまな樽で熟成した5種類の「朝倉」をアーカイブ的に楽しめる「Asakra Archvist」(5,999円)
そしてもう一つ、先代が情熱を傾けたのが樽で熟成させた麦焼酎ベースのリキュール「朝倉」です。こちらは大麦を原料にしながら、“麹”を用いて焼酎を製造(単式蒸留機で二度蒸溜)し、アメリカンホワイトオーク樽で6〜8年以上の長期熟成をかけた銘酒。甘やかな香りや丸みのある芳醇な味わいが格別で、新しい蒸留酒のカテゴリーといえます。
親子2代。
新たな酒造りとウイスキーへの思い
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“麹ウイスキー”と高峰博士の功績については、今年の1月にニューヨーク・タイムズでも取り上げられ、再び注目を集めている。気になる方はぜひ「高峰 ニューヨーク・タイムズ」で検索を
「通常は麦芽を用いるところを、東洋の技術である麹を用いてウイスキーを造る。そんな独創的な試みは、日本近代科学の父といわれる偉人・高峰譲吉博士が、今から100年以上前のアメリカで挑戦したことでした。残念ながら博士の挑戦は志半ばで終わってしまったのですが、父にはこの“高峰博士の偉業を現代に蘇らせたい”との夢がありました。『朝倉』の製造はそんな夢の一部と言えます。長らく準備を進め、試行錯誤を重ね、やがて2021年にはアメリカ限定販売商品として『TAKAMINE KOJI FERMENTED WHISKEY』をリリースすることもできました」。
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篠崎さんはさらに言葉を続けます。
「父は幼い私に向けて、よく話をしてくれていました。高峰博士のこと、ウイスキーのこと、地元のブドウでワインを造りたいなんてこともね。そんな父の背中を見て育ってきた私や会社全体に、ロマンを追い、探究と挑戦を続けてきた父の精神が息づいていると感じます。実際に言葉にしていたわけではありませんが、改めて考えると『Q4O=独創性の追求』こそが、我が社の個性であり強みだなと。そして父とはまた違う、私を含めた新しいチーム『SHINDO LAB』の挑戦として、今度はモルトを使ったジャパニーズクラフトウイスキーや、他にない新しいお酒造りをはじめたいと考えたんです」。
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博多織のデザインをあしらった「Jin40」(3,465円・写真左)、“とにかくおいしいジンを!”との思いで造られる「Freeee!!!」(2,888円)
「SHINDO LAB」にはお酒の種類ごとに専任の担当者がおり、20代、30代という若い力が中心となって活躍しているのも印象的です。
写真左は、福岡県産のレモングラスや自社栽培のブラックペパーミント、八女産の本玉露といった地元のボタニカル素材で生み出された“福岡発のクラフトジン”「Jin40」。一方、あえて産地などには固執せず、ボタニカルの種類や配合を毎年自由にアップデートしながら造られる「Freeee!!!」も、従来のセオリーを覆す革新的な一本です。
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気軽に“ガブッ”と飲めてコミュニケーションを盛り上げてくれる。自然体で軽快なおいしさが魅力のワイン
「SHINDO LAB」の看板の一つを担うワイナリー「SHINDO WINES」のワインも実に魅力的。地元朝倉市やうきは市産のブドウを100%使用し、可能な限りナチュラルに造られたワインや、ワイン醸造責任者の阪本開さんがスペインに渡って仕込んできたワインなど、こちらもチャレンジングな造りに挑んでいます。
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ギーク=“オタク的”とも言えるこだわりが詰まった「geek cello」(日向夏2,475円、茴香 花・茴香 葉3,190円)
さらには、イタリアで親しまれている「チェッロ」を独自にアレンジして造られたボタニカルリキュール「geek cello」も見逃せません。こちらは26歳の若き開発者・栁祐太朗さんと、伝説の農家「エコファームアサノ」(千葉県)のハーブが出合い、生まれた新しいお酒です。海外の鮮烈な風味の薬草酒とはまた違う、心地よく広がる上品な香りとまろやかな味わいにうっとり。ソーダで割っても美味でした。
いざ、ウイスキー蒸溜所ツアーへ!
――と、ここまで1本の記事になりそうなほど、どのお酒も魅力的で語り尽くせないのですが、いよいよ本丸、ジャパニーズクラフトウイスキーの話へ移りましょう。
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麦芽内の異物を除去し、破砕する部屋。「SHINDO LAB」ではイギリス「ポールズモルト」社の麦芽を使用
2021年、「SHINDO LAB」の敷地内に誕生した「SHINDO DISTILLERY(新道蒸溜所)」では「蒸溜所ツアー」を実施しています。通常は2階にある通路からの見学となりますが、少人数の場合やタイミングによっては中を見学できることもあるそう。今回は営業部次長・梅野尚平さんと篠崎さんに蒸溜所内を案内いただきながらお話しを伺いました。
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「水分量の多い『プレス酵母』はイギリスから空輸で届き、冷蔵庫内にて管理。扱いは大変ですが、華やかな香りを醸すのが得意な酵母なんです」と梅野さん
モルトウイスキーの原料は麦芽・水・酵母で、糖化・発酵・蒸溜・樽熟成の工程を経て完成します。
驚くべきは、この酵母使いと発酵の工程でした。国内では扱いやすい乾燥酵母(ドライイースト)を用いるのが一般的です。しかし「SHINDO LAB」では、日本でまだ数社しか使われていない素材「プレス酵母」と「企業秘密の酵母」、この2種類をタイミングと量を見極めて使用。発酵時間を長くとっているのも特徴的でした。
「王道」にして「新道」。
往年の香りを、現代の技術で蘇らせる
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篠崎さんの師匠は、国内大手メーカーにて長らく日本のウイスキーづくりを牽引してきた著名な方。師との出会いにより、篠崎さんの夢は動き出した
二刀流とも言える酵母使いと長時間発酵。これは現代のウイスキー製造の常識とは異なるもの。しかし、かつてのスコットランドではこれが自然発生的に起こり、芳醇な香りのウイスキーが生まれていたと言います。
「往年のウイスキーには、重厚で甘い香りが存在していました。そんな“王道”ともいえる素晴らしい時代のウイスキーを、最新の知識や技術といった“新道”をもって現代に蘇らせたい。そんな想いが私の師匠や、私たちの根底にあります。大切なのは香り。そのために、とにかく“ボディ感のある原酒をつくり込むこと”に力を注いでいます」。
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筒状のラインアームの角度にも注目。上向きは軽い成分が、下向きは重い成分が通りやすい。こちらのアームはやや下向きで、重厚な酒質を目指していることが伝わる
さらに、蒸溜の工程にもこだわりが光ります。発酵が終わったもろみは、特注の銅製「ポットスチル」(単式蒸溜器)に入れて2度蒸溜。最新かつオーダーメイドの機械も導入し、科学的根拠に基づいた細かな温度調整やアルコール度数の数値設定を手作業で行っています。
「蒸溜の基本的なメカニズムを理解した上で、細やかな部分に目を配りながら毎日の蒸溜工程に取り組む。手間はかかりますがこれを実践することで、すごくいい香りの原酒、いわばウイスキーの赤ちゃんが出来上がるんですよ」と篠崎さん。
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重たく甘いラクトンの香りをベースに、重層的な香りを表現した「SHINDO NEW MAKE PEATED」
ちなみに、このウイスキーの赤ちゃん=原酒「ニューメイク」は、ウイスキーの世界的なコンテスト「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2024」のニューメイク&ヤングスピリッツ ニューメイク部門にて金賞を受賞。この原酒を現在樽熟成しているわけですから、期待せずにはいられませんよね。
なお、2月上旬に発表された「WWA 2025」では、出品した5点のニューボーン(3年未満熟成)がすべて入賞(※)。熟成は順調に進行中のようです。
※=1点はゴールドかつカテゴリーウィナー、3点はシルバー、1点はブロンズを受賞
樽がずらりと並ぶ熟成庫も圧巻
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蒸溜が終わったらいよいよ樽詰めして熟成へ。天井が高く広々とした熟成庫には、約1800本もの樽が貯蔵されており、これは圧巻です! バーボン樽にシェリー樽、貴重な日本のミズナラ樽、栗の木の樽など、それぞれどんな香りや味わいが生み出されるのか、想像するだけで楽しくなってしまいますね。
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高品質な材を用いて断熱を徹底。密閉した倉庫ではなく、両サイドに格子と網戸を備えた扉を付け、常に風が通る造りに
また、機械による温度・湿度管理は敢えてしていないそうです。
「造られる・貯蔵される場所、いわゆるその土地のニュアンスがウイスキーに移るという考え方もあって。一例ではありますが、スコットランドなど海辺の蒸溜所で造られたウイスキーには、“ソルティ=塩の香りがする”と表現されるものがあるんですよ。塩は使われていないはずなのに、面白いですよね。そう考えると、山に囲まれた朝倉の風土が、他にない味わいを醸してくれるかもしれません。10年後か20年後か……私たちのウイスキー造りは始まったばかりで、どうなるかは誰にも分かりませんが」と梅野さんはにっこり。何ともロマンのある話ですね。
ツアー後は「SHINDO LAB STAND」で
ここにしかない「ハンドフィル体験」を!
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ツアーの最後には樽熟成中のサンプルを試飲でき、熟成期間による味の変化や樽ごとに異なる香りなどを感じることができます。車で訪れた方や当日の試飲が難しい方には、持ち帰り用の試飲セットが用意されているのも嬉しい限り。
そしてツアー後にはぜひ、熟成庫の隣に位置する「SHINDO LAB STAND」へ。おすすめポイントは、前回の記事でご紹介した通りなのですが、もう一つウイスキー好きに朗報が!
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「SHINDO DISTILLERY ハンドフィル体験」12,000円(ウイスキー550ml・11,450円、ボトル550円)
なんと、日本では極めて珍しい「ハンドフィル体験」も用意されています。これは、昨年8月よりスタートした、自らウイスキーを充填してボトリングし、ラベリングできるというサービス。
「スコットランドの蒸溜所ではハンドフィルの機械をよく見かけるのですが、日本では滅多になくて。調べてみても前例がなかったので、メーカーに特注しました」と篠崎さんは話します。
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レバーを引き上げ、ガラスシリンダーに500ml分のウイスキーを充填。手元のコックを捻ってガラス瓶へ注入
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ラベルに熟成期間やアルコール度数、ボトルネームなどを記載して貼り付けたら、オリジナルボトルの完成!
樽のクラフトウイスキーは時期によって変わり、この日は「ピート・exバーボン樽・2年11ヶ月熟成」のニューボーンでした。蒸溜所でしか手に入らない特別なウイスキーボトルは、訪問の記念やギフトにも最適。海外のウイスキー好きの間では、ラベルを斜めや逆さまに貼り、自分だけのデザインボトルを作るというカルチャーも根付いているそうですよ。
とにかく、この魅力を
いち早く体験してほしい!
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「お酒造りはもちろんですが、ワークショップや地元の方にも楽しんでもらえるイベントを催したりと、やりたいことはたくさん!」と篠崎さん。
今年の6月には遂に「SHINDO DISTILLERY」のジャパニーズクラフトウイスキーとして初めての商品が市場にリリースされます。4月ごろから特約店等で予約受付が始まる予定なので、続報をお楽しみに。
福岡は観光する場所がない……なんて言われがちですが、みなさん、朝倉がありますよ!「SHINDO LAB STAND」へ足を運んで、こだわり抜いたお酒や朝倉の魅力をぜひ体感してほしいです。
*1回目の記事は▶︎コチラ
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店舗名
SHINDO LAB STAND(シンドウ ラボ スタンド)(店舗写真)
ジャンル
- 食物販店
住所
福岡県朝倉市比良松626-1
電話番号
営業時間
10:00〜16:00
定休日
水、木曜
メニュー
試飲(オリジナルお猪口付き)500円、SELKOVA COFFEE600円〜、国菊あまざけ アイス350円、「RIVER WILD × SHINDO LAB」オリジナルソーセージ1,500円、ウイスキー・ハンドフィル体験12,000円(ウイスキー11,450円、ボトル550円)
喫煙について
- ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
- ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
- ※OSはオーダーストップの略です。
- ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
記事に関する諸注意
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