グルメライターによるリレーエッセイ「トマトラーメン三味のここが凄い!」
低価格戦略の中で成長を続ける「元祖トマトラーメンと辛麺と元祖トマトもつ鍋 三味(333)」の宮下社長
公開日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎

大名
元祖トマトラーメンと辛麺と元祖トマトもつ鍋 三味(333)
上野万太郎
ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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今年10周年を迎えた「トマトラーメン三味」。この10年間で豚骨の聖地・博多でラーメンの新ジャンルを確立しました。その魅力をUMAGAのライターがそれぞれの視点で紹介するリレーエッセイを10回の連載でお届けします。
第1回目は上野万太郎さんです。
福岡で大人気の「元祖トマトラーメン」
2015年のオープン以来、福岡県下に7店、さらに5月1日には佐賀県にも新店をオープンするなど成長を続ける「元祖トマトラーメンと辛麺と元祖トマトもつ鍋 三味(333)」(以下:「元祖トマトラーメン 三味」)をご存じだろうか。
豚骨ラーメンが根強い人気の福岡県において、トマトスープのラーメンで勝負をかけている会社だ。その取り組みは今まで福岡県民に馴染みのなかったトマトラーメンという珍しさや大胆な広告戦略を取り入れたことでも注目されたが、それに加えて地域密着型復興支援業にも力を入れていることも特徴的だ。
例えば、小学生から高校生は680円の「元祖トマトラーメン」が330円、大学生・専門学校生は390円というサービス価格で提供、「子育て応援カード」をもっているお客へは全員分390円で「元祖トマトラーメン」を提供するという太っ腹っぶりだ。さらに店舗によってはモーニングからランチタイムまで元祖トマトラーメンを390円で提供するなど、お得過ぎる企画を立て続けに展開し続けているのだ。
この価格高騰の時代に「そんなにサービスして大丈夫なの?」と思うくらいの経営戦略を繰り広げる「元祖トマトラーメン 三味」の社長とはどんな人物なのか。社長の目指す夢とは何なのか、今回は運営会社である「株式会社三味」の宮下将司社長にインタビューさせていただいた。

「株式会社三味」の宮下将司社長
4月某日夜、「元祖トマトラーメン 三味 天神大名総本店」で宮下社長と待ち合わせをした。約束の時間より少し早めに着いたので一番奥の席で待たせてもらっていると、入口の方からスーツ姿で現れた宮下社長。店に入るなりスタッフに「お疲れ様!!」と笑顔で声をかけて仕事の確認を済ませて、僕の方にやって来られた。
「初めまして、株式会社三味の宮下です。今日はよろしくお願いします」と名刺交換をして話は始まった。
宮下社長は福岡県古賀市出身。10歳の時にご両親が離婚されお母様が一人で育ててくれたそうだ。料理が得意だったお母様は宮下社長が15歳の時に「三味(さんみ)」という飲食店を地元古賀市で開かれた。「三味」という店名でお気づきかと思うが、その後この店が宮下社長の人生の中で大きな意味を持つようになるのだ。
― お母様の「三味」はどんなお店だったのですか?
「母の店は、昼は定食店、夜はお酒の飲める食堂のような店でした。近くでたこ焼き屋を営業していた時期もありました。母は今でも現役でお店をしてるんですよ。もう72歳になるので食堂は厳しいみたいで、昼はカラオケ、夜はスナックの営業を元気にやってますよ。とにかくシングルマザーで頑張って僕を育ててくれたことへは感謝の気持ちはずっと持ち続けています」
宮下社長は中学を出た後に久留米市にある久留米工業高等専門学校(高専)に進学した。進学校を受験して大学まで行きたいという気持ちもあったが、金銭的に厳しいからと自らあきらめ、就職に有利だろうということでお母様と話をして久留米高専を選んだそうだ。

久留米高専卒業後
― 20歳で高専を卒業してどこに就職されたんですか?
「結局、就職はしなかったんですよ。手に職をつけたほうが良いだろうということで母から高専まで出させてもらったんですが、それを生かした就職をしなくて申し訳なかったですね」
- 就職せずにどんな仕事をされたんですか?
「すぐに起業したんです。まずは物販の会社を作りました。売れると思ったものを見つけてなんでも売りました。宝石から健康食品まで。さらに通信販売事業にも取り組みました。二十数年前のことですから日本国内ではやっとインターネットが一般的になったばかりの頃でしたが、ECサイト(インターネット上で商品を通信販売する仕組み)を立ち上げて販売もしてました。まだAmazonも日本ではそんなに普及していない頃でした。本来ならECサイトのプラットホーム(サービスやシステムを動かすための土台や基盤となるシステム)も作りたかったんですが、人材的な面でなかなか難しかったので断念しました」
― 物販事業の後は何をされたんでしょうか。
「その後は物販事業で稼いだ資金を不動産にも投資しました。すると28歳の時にリーマンショックが起こるわけなんです」
ー あらら、リーマンショックで大損したとか??
「いや、不動産価格が暴落したので逆に一気に買えるだけの物件を買いまくりましたよ。現在『十日えびす店』やセントラルキッチンが入居しているビルもその時に購入したものです」
さらに話は続いた。「しばらくはその資産を運用して過ごしていたんですが、そろそろまた新規事業に取り組みたいと思うようになったんです。きっかけは、2015年の敬老の日に愛犬の“わんこちゃん”が死んだんです。19歳という老犬でしたが長年一緒に過ごしてきたので喪失感がすごかったです。寂しさを埋めるためにも仕事モードにスイッチが入ったというのもあったかもです」

宮下社長とスタッフさん
飲食業への取り組み
― 飲食業を選んだ理由は何だったんでしょうか?
「もちろん元々食べることが大好きでいろんなものを食べ歩きしており飲食業に興味があったんです。しかし一番の理由がありまして、、、、先ほどお話した母の『三味』という飲食店があるんですが、母への恩返しとしてこの名前を母が元気なうちに世界一にしたいという目標を掲げたんです」
― なるほど!!そしてラーメンで世界一を狙うということにつながる流れですね!
「はい、いつか飲食業をする時はラーメン店が前々から候補にあったんです。福岡県はラーメンと言えば当時まだまだ豚骨一色の時代で、特に年配の男性は『豚骨じゃないならラーメンじゃなかろうもん!』という人が多い雰囲気がありましたよね。しかし、豚骨ラーメンの世界一を狙うのは難しいなと思ったんです。豚骨以外にもいろんなラーメンを食べましたが、すごく美味しくて大好きなラーメンがたくさんあって、あまりの美味しさにそのレベルで戦うには相当に時間もかかると思ったんですよね。だったら誰もやってないラーメンで勝負しよう!と豚でも鶏でもなく野菜をつかったスープでトマトラーメンを開発しようとなり、試行錯誤の末に生まれたのが『元祖トマトラーメン』だったんです」
―なるほど。 「元祖トマトラーメン」はどんなラーメンなのでしょう?
「トマトを中心として野菜をしっかり溶かし込んだスープが特徴で、健康志向をアピールしました。スープだけゴクゴク飲んで健康的に美味しいというものにしました。麺はやはり福岡県という地域性を考えみんなが食べ慣れた細麺にしました」
「元祖トマトラーメン 三味」開業
― そして2015年11月天神大名総本店がオープンしたんですね。開業時のお客さんの反応はいかがでした?
「いや〜、さっぱりダメでしたね。最初からいきなり挫折感を味わいました。気合い入れてスタッフもいきなり10人体制で待ち構えていたんですが、全く暇で暇でどうしようかと思いましたよ。お金は無くなるし当然赤字ですよね。いろいろ原因を考えた結果、トマトラーメンってみんな食べたことがないんですよね。食べたことがないものは口にしないという普通に当たり前のことが理由だと思ったんです」
― それはあるかもしれませんね。
「それでとにかくトマトラーメンを食べてもらうしかない!!と思い、無料試食会というのを何度も開きました。とにかく無料券を配るんです。結局11月に開業して、12月~1月の間で5,000食以上のトマトラーメンを無料で食べてもらいました。無料券を求めてたくさんの人が並んでくださって、お陰様で相当話題にはなりましたよ」
ーしかし、無料の試食ですからさらに赤字になったでしょう?
「3ヶ月で1,000万円の赤字でした。それでもたくさんの人に食べてもらいトマトラーメンの存在の周知にはなったと思います。徐々にお客さんは増えてきました」
― さらに火付け役となったことがあるとか?
「ちょうどその頃、共同購入型クーポン『Groupon』からの営業があったんです。よくわからんけどとにかくやってしまえ!と契約したんです。そしたらそれが大当たり。一気にお客さんが増えてきましたね。翌年10月には2号店『十日えびす店』とセントラルキッチンをオープンしました」

十日えびす店とセントラルキッチン
その後はご存知の方も多いと思うが、「元祖トマトラーメン 三味」の他店では例を見ないような広告戦略や、SNSやインターネットの分析から繰り出す営業戦略で勢いは右肩上がりになっていったそうだ。
3号店として、2017年3月に地元古賀市に「古賀駅店」を出店。その後も4号店として2018年3月に「キャナルシティ博多ラーメンスタジアム店」、同年11月には遠賀郡水巻町の行政施設「みどりんぱぁーく」内に5号店となる「水巻みどりんぱーく店」、さらに「天神大名中心店」「博多駅東店」もオープン。現在、7店舗での営業をしているというわけだ。
― その中でも印象的だった出店はどちらでした?
「『古賀駅店』を出店した時は地元なので感慨深いものがありました。そして『水巻みどりんぱーく店』は、それまでの都市型の店舗といろいろ状況が違ってて勉強になりましたね。地域性があり年齢層高めのお客さんにたくさん食べに来ていただいたんですが、“しょっぱい”などの声も聞かれましたね。年齢によってはそう感じるんだということに気づきました。うちが減塩に取り組んだのはここでのお客様からの意見を聞いてからです。その味は全店に広げて、今では開業当時の塩分の1/2まで抑えています。三世代にわたって食べてもらいたいという気持ちがあったので、減塩という観点はとても大事だということに気づかされた店舗でした。そして余談ですが、長年人口減少傾向にあった水巻町だったんですが定住人口・関係人口・交流人口の中でも特に交流人口が爆発的に増加に転じたらしく、うちの店も少しは貢献できたかもしれないと喜んでおります」
「元祖トマトラーメン 三味」の取り組み
― 390円ラーメンはどんな理由で始められたんですか?
「390円ラーメンは、これは『水巻みどりんぱーく店』のオープンイベントの時にやってみたら大好評だったんです。それが学割330円、大学生・専門学生割390円や何かとイベントの時に390円で提供している企画の始まりでした。390円というのが、“サンキュー”と語呂も良くて僕の感謝の気持ちも伝えやすいかなと思っています」
― 子育て応援カード(育児支援割引)についても教えてください。
「子育て応援カードを持った0~12歳のお子様と一緒にご来店いただいたご家族全員に元祖トマトラーメン通常価格680円のものを390円で食べて頂けるというものです。その他にも感謝の気持ちをお客様へ還元するサービスメニューはたくさん出しています。例えば1時間餃子食べ放題500円とか、『元祖トマトもつ鍋』と一品料理の3時間の食べ放題・飲み放題3,500円など、とにかく三世代の家族で楽しんでもらいたいというものなんです」
― ラーメンの後に食べられる追加メニューであるリゾットも人気になってるそうですね。
「元祖トマトラーメンに加えて元祖豆乳ラーメン、元祖パンプキンラーメンなどを食べられた後に、一度丼を厨房にひいてリゾットを作って食べて頂くんです。これが裏の看板メニューになってるかもしれませんね。大人気なんですよ」
― 食べてみるとふんだんにチーズが投入され濃厚なリゾットでした。これが+300円だけで食べられるというのは有り難いですね。これまた原価がかかってそうですね!いろんなサービス商品を見ても原価大丈夫??と思ってしまいますが。
「原価かかってますよね。しかし美味しいものをお安く提供することはその子供さんやお孫さんも含めて将来的に絶対に利益として返ってくると思っているんです。それが10年後かも20年後かもしれませんがそれまではとにかく続けることが大事だと思ってます。それでもおかげ様で8期連続黒字決算してますので大丈夫でしょう(笑)」

食後に楽しめるリゾット
宮下社長にとって飲食業とは
― 飲食業に参入してみていかがでした?
「若い時はB to Bの仕事を中心にしていましたので、それが飲食業の世界に入ってB to Cの仕事になってもとても楽しくやってます。僕って“ありがとう”と言われることでとても幸せに感じるみたいなんですよ。それって飲食業をやってると毎日幸せってことじゃないですか?そういう意味では、僕にとって飲食業は天職かもしれない!と思うようになりました」
― 以前は宮下社長ご自身がメディアに出られることはあまりなかったとお聞きしてますが。
「今まではテレビなどのマスコミの取材などについては自分が『元祖トマトラーメン 三味』の代表として顔出しはあまりせずに、店長や部門責任者を前面に出してたんですよ。しかしコロナ禍で考え方が変わりましたね。今後また世の中でどんなことが起こるか分からないので、世間や取引先に対しても自分がしっかり顔を出して、いざという時に先頭に立って旗が振れるようにしようと考えるようになりました」

お母様に見せたい世界一の「三味」
― 世界一に向かってはどんな計画をお持ちですか?
「世界一へ向けての構想もコロナ禍を経験した後に、当初とは違うビジョンを描くようになりました。直営店で海外へ出店するリスクを目の前に突き付けられましたからね。まずは、海外に向けてトマトスープや元祖トマトもつ鍋セットなどを販売して『元祖トマトラーメン 三味』の名前を売ることが大事だと思っています。実際には北米とアジアに向けての商品出荷の準備中です。その後は、フランチャイズ制での出店者募集を海外で行おうと考えています」と宮下社長の意気は盛んだ。
お母様が元気なうちに「三味」の名前をナショナルブランドにして世界一にする、この目標に向かって宮下社長が本気で動き出したぞ!!という真剣さがビシビシと伝わってきたインタビューだった。
「最後に何度でも言いますが、とにかく親子三代で楽しめるラーメン店になりたいんです。そうすれば絶対成功する。その自信はあります!!」
ちょうどその時だった。店の入り口にある券売機でお母さんと小学生くらいの女の子が2人で食券を買っているのが見えた。
「あれですよ、あれ。ああいうお客さんが来てくれる店でいれば絶対間違いない。あの光景を見るだけで、僕は夢が広がり幸せな気持ちになれます!!」と宮下社長。
5月1日には佐賀市に新店舗「モラージュ佐賀店」がオープンしたばかり。まずは福岡県から九州へ、そして全国へ。さらに海外へと、お母様の「三味」を世界一へするための宮下社長の恩返しの挑戦はこれからも続いて行くのだ。

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店舗名
元祖トマトラーメンと辛麺と元祖トマトもつ鍋 三味(333)天神大名総本店(店舗写真)
ジャンル
- ラーメン
住所
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名1丁目11−27 イルモンド大名TWO 1F 三味(333) 天神大名本店
電話番号
営業時間
24時間
定休日
なし
席数
- テーブル60席
個室
なし
メニュー
元祖トマトラーメン680円、シメのチーズリゾット300円、味噌辛麺720円、トマトもつ鍋1人前1,100円、日本一のトマトスライス330円、ローストビーフ500円、炭火もも焼き500円、とろとろ豚軟骨480円
喫煙について
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- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
- ※OSはオーダーストップの略です。
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記事に関する諸注意
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