いま福岡のラーメン業界で、豚骨ラーメンの勢いが盛り返していることを皆さんも感じているのではないでしょうか? “豚骨の復権”はここ1、2年のラーメン新規開業店のジャンル別数を見ても明らかです。いわゆる非豚骨が台頭する中で「王道豚骨で勝負したい」と考える店主が以前より確実に多くなり、さらに佐賀ラーメン発の卵黄のせスタイルを取り入れる店の増加も見逃せない潮流。福岡でその気運を生み出したキーとなる豚骨専門店はいくつかあるのですが、今回は特に注目度の高い「らあめん わや」(小郡市)を紹介します。

「らあめん わや」は小郡市、久留米筑紫野線のロードサイド店。「薬師うどん」と隣合い、約50台分の無料駐車場を備えています。いま話題の超人気店につき時間に余裕を持って訪れてほしいですが、駐車場がかなり広いので停めやすく、“待ち”の場合でもウェイティングリストに記入後、車で待機しながら店先の進行状況を随時チェックできます。筆者の体感的に比較的“待ちやすい”行列店であることを最初に言っておきましょう。
同店の魅力を語る上では約1年前、2024年10月からの“ある変化”に注目せねばなりません。それはズバリ「取りきり」から「呼び戻し」スープへと製法を変えたこと。豚骨ラーメンの設計に根本から関わるそれぞれのスープの特徴について、そして、なぜ現在の呼び戻しスタイルへと舵を切ったのかは、店主の経歴などと合わせて述べていきます。

店主の脇山裕輔さん(昭和59年生まれ)は20代前半、バンド活動をしながら出身地の佐賀県唐津市でこれまた大好きであったラーメンの世界へと入門。「ばさらかラーメン 唐津店」がラーメン職人としてのキャリアのスタートであり、後に福岡を中心とした「一風堂」勤務を経て2023年「らあめん わや」を独立開業しました。「正直、若い頃本気で取り組んでいた音楽、バンド活動を継続するために飛び込んだラーメンの道でしたが、職人の“カッコよさ”、ラーメン作りの“楽しさ”に一気に魅了され、沼にハマっていった感じですね」と修業時代を振り返り脇山さんは笑います。
満を持して脇山さんが開業した「わや」は当初、いまとは異なる「取りきり」の乳化型濃厚豚骨を出す店でした。
豚骨ラーメンの製法は一般的に「取りきり」と「呼び戻し」に大別されます。前者は、決まった分量の素材を1本の釜で都度仕込んで、いわば一回で“完成させる”ためブレが出にくいのがメリット。後者は、炊き時間、濃度の異なる複数の釜の状態を見極め、営業時間中もブレンドしながら最良のスープへと調整していくやり方。自由度はありますが、作り手の経験、感覚的なものが大きく、日により人によりブレが出やすいスープです。なんとなく「呼び戻し」は熟成濃厚で「取りきり」はフレッシュあっさりというイメージがあるかもしれませんが、それは骨、脂の量に大きく関係しているためそうとは限りません。あっさり呼び戻し、濃厚取りきりも当然あります。そして、これらは各店主の考え方であり、どちらが良い、悪いもありません。ただ「わや」に関しては、「取りきり」から「呼び戻し」へと変えたことで、さらなる人気を獲得したのは事実です。

「開業して1年ぐらいたった時、ふと立ち止まって『自分が本当に好きなラーメンとは』を改めて自問自答したんです。すると、僕自身歳を重ねたからかもしれませんが、濃厚よりも“優しい”“毎日でも食べられる”ような故郷・佐賀のラーメン、幼少時の心地よいラーメン体験がふつふつと蘇ってきました。そうだ、ウチのラーメンも今こそバックトゥザベーシックするべき。新たな羽釜を据え、材料も変えていちから見直しました。それは熟成香の立ち方、乳化の仕組みなど、豚骨のメカニズムを自分なりに解明しながら、知識や感覚を“古き良き”に落とし込むような作業です」と話す脇山さん。
辿り着いたのは、ゲンコツを組み上げた本釜を中心に、スープを育てていく佐賀系の呼び戻し手法。上澄みの脂とボディのスープの“層”が味わいに立体感を生み、芳醇な豚骨フレーバーも鼻腔をくすぐります。飲んでみるとまず「あっさりでほんのりと甘い」という印象ですが、ゲンコツから染み出る脂、髄の旨味が幾重にも広がるコク深さが押し寄せてきます。「はぁ〜、これこれ」。往年の佐賀ラーメンファンも納得の一杯です。
卵黄のせ文化の始まりについては、佐賀のレジェンド店の歴史と合わせまた別の機会にじっくりと書きますが、食べ方として筆者は卵を最後まで残しておいて、スープと共にレンゲでチュルッと飲むのが好きです。TKGのように卵黄をいつ崩すかも、卵黄のせラーメンの各自の楽しみと言えるでしょう。さらには、卓上のクラッシャーで生にんにくを砕き“へずる”のもおすすめ。スープの旨味、香りがブーストして最高です。麺は名製麺所「博多製麺処」謹製の切刃20番の中細ストレート。豚チャーシューは脂身が少なく、噛み応えのあるモモの部位を使っているのも、とても好みでした。

最後に。脇山さんがラーメンと共に長く取り組んできた音楽、バンド活動にちなんで「ラーメンの呼び戻しはバンドの生ライブみたいなもの」と表現されていたのがとても印象的でした。確かに、羽釜の前がお客様に対するステージであり、刻一刻と変化するスープを見極めながらブレンドする作業は、生で楽器を演奏するような感覚で、作っている、演奏している本人は超気持ちいい!のかもしれません。
「豚骨ラーメンはロックだぜ!」とも語る脇山さんは本当に楽しい人です。
常に満席状態が続く「わや」の客層は、老若男女幅広く、部活帰りのユニフォーム姿の高校生、女子同士のグループも多いです。ラーメンの味だけでなく、そういう“昔ながら”の雰囲気にも癒やされる名店。ぜひ訪れてみてください。
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店舗名
らあめん わや(店舗写真)
ジャンル
- ラーメン
住所
福岡県小郡市乙隈537−1
電話番号
なし
営業時間
11:00〜15:00
定休日
木曜
席数
- カウンター14席
メニュー
ラーメン800円、チャーシューメン1,100円、生卵ラーメン900円、特製ラーメン1,200円、黒ラーメン900円、みそラーメン980円、チャーハン750円、替玉150円、半替玉100円
喫煙について
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