万太郎の喫茶と定食ノスタルジア【14】

カレーに傾倒したフレンチ料理人が独立開業「スパイス食堂andN」の西村直弥さん

公開日

ライター上野万太郎

カメラマン上野万太郎

糟屋郡粕屋町

スパイス食堂andN

上野万太郎

ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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はじめに

2025年7月18日に粕屋町で新しくオープンしたカレー専門店の「スパイス食堂andN」。以前紹介した「ハチミツボタン」の妙子さんが何度もおすすめするこの店に立ち寄ったのは、まだ暑さの残る9月の日曜日。時間はピークを過ぎた午後2時半ごろで、シンプルで明るい店内が印象的だった。
「いらっしゃいませ!!」と迎えてくれた二人のあまりにも爽やかな笑顔を目にしたその一瞬で「あっ、俺、きっとこの後何回もこの店に来るわ」と確信した。

「スパイス食堂andN」に興味を持った僕は3回目の来店時に「UMAGA」で取材させて欲しいと依頼した。
ということで、今回は店主の西村直弥さんにこれまでの人生とお店に寄せる想いを聞いてみた。

糸島育ちで結婚式場の料理長だった西村直弥さん

1986年、八女市出身の父親が神奈川県横浜市に赴任中に生まれた直弥さんは、その後福岡県に戻り小学生の頃から糸島市で育ち、地元の高校を卒業後、西南学院大学に進学した。

― 料理人になりたいと思ったのはいつ頃からでしょうか。

西村直弥さん(以下、直弥さん) 小学校の卒業文集に、将来の夢は料理人になることって書いていたんですよね。振り返ると小さい頃から料理には興味があったんです。高校を卒業する時に調理師専門学校への進学も考えたんですが、大学でいろんな勉強して料理人になるのもいいんじゃないか、と親にも勧められて大学に進学しました。

― 大学時代はどんな生活を送りましたか。

直弥さん 結局、飲食店でずっとアルバイトしてましたね。ロイヤルホストなどのファミリーレストランでも働きましたが、糸島(正確には福岡市西区)にあった「遊砂」というカフェレストランで働いていた時に、楽しそうなオーナーたちの生活を見て飲食店経営への憧れが生まれました。

― 就職活動はどうでしたか。飲食業界に就職するとなるとホテルや大手飲食チェーン店などになるんでしょうか。

直弥さん そうですね。結局、全国に結婚式場を数店舗展開してる会社の調理部門に就職しました。和食と洋食の部門があったんですが、たまたま洋食部門に配属されて、結局16年間フレンチ一筋でしたね。福井県、広島県、富山県などの結婚式場を数回転勤しましたが、3年前に地元の福岡へ転勤で戻ってきました。

― 福岡へ転勤していよいよ独立のことを考え始めたのですか。

直弥さんー はい、そうです。40歳までには独立したかったのと、開業するなら地元福岡で、と思っていたので具体的に考えるようになりました。開業前に少しは福岡で生活していないとどんな店にしたら良いのか全く見当もつかなかったので。大学出てからずっと県外で働いていましたが、その間に福岡は変わりましたからね。

“スパイスカレー”との出会い

― いわゆる“スパイスカレー”との出会いはいつだったんでしょうか。

直弥さん 5年前くらいだった思います。福井県で働いていた頃に「水色食堂」という店で初めてスパイスカレーというものを食べたんです。その時に初めて食べたポークヴィンダルーが『こんなカレーがあるんだ!!』と衝撃的でした。さらにカレーの合い掛けや副菜が彩りよく盛り付けられているのも素敵だったし、爽やかなスパイス感がすごく美味しかったです。

― 5年前というと“スパイスカレー”と呼ばれるものも全国的にずいぶん浸透して来た頃ですね。

直弥さん はい、そしてちょうどコロナ禍になったんですよ。結婚式がまったく出来なくなったので自宅待機の日々が続いたんです。そのタイミングで自宅でカレーを研究するようになりました。スパイスをたくさん買い込んでカレーばっかり作ってました。

― まだその頃は、カレー店で独立開業すると決めていたわけではないですよね。

直弥さん 決めてはなかったですね。とにかくカレーにハマってただけでした。開業するなら大好きなラーメン店も考えてたんですが、コロナ禍が終わって仕事も再開して福岡に転勤した後にはカレー店として頑張りたいなと思うようになってました。

福岡で「スパイス食堂andN」開業

直弥さん 3年前に福岡に転勤で帰ってきて、今年の2月に退職しました。それから店舗物件探しを始めました。最初は中央区で探してたんですが、なかなかピンとくる場所がなかったんです。そんな時にここに巡り合いました。

― 人が集まるような場所ではないので心配ではなかったですか?

直弥さん 中央区で探していたので、それはちょっと心配でした。しかし駐車場が共有で比較的多めに停められるという条件が気に入りました。また昔の職場や自宅にも近いんです。そういう意味では地域の特性も肌で分かっていたのですんなり決めました。

― 現在のスタッフはご夫妻とお母様ですか。

直弥さん 基本は妻と二人でやってますが、母にも手伝ってもらってます。子供が小さいので家族全員の協力体制で頑張ってます。人が足りない時は知人や親戚に臨時バイトに入ってもらうこともあります。自宅が近いのは近くに知り合いも多いし、そういう意味でも助かります。

― ちなみにパートナーの奈緒美さんとの出会いはいつ頃ですか。

直弥さん 実は糸島の中学時代の同級生なんですよ。その頃は普通の仲良し友達でしたけど、20歳過ぎて付き合いだして26歳で結婚しました。

― 僕は最初にここに入ってきた瞬間に奈緒美さんの笑顔の接客が最高だと感じたんですが、飲食店などでの接客の仕事をされてたんですか?

直弥さん いえ、長年アパレル業界で働いてまして、店長などもしてましたから接客は慣れてるんだと思います。

― なるほど納得です。さすがです。ちなみに店名の「andN」の意味はなんでしょうか。

直弥さん 僕の西村直弥という名前の頭文字がNNなんです。実は、妻も奈緒美なのでNNなんですよ。ということで、andでお客様や生産者や関わってくれる人々とつながって行きたいという意味を込めて「スパイス食堂andN」としました。

「スパイス食堂andN」のメニュー

現在のメニューは、「スリランカ風チキンカレー」、「バターチキンカレー」、「鶏キーマカレー」とその中から2種類を選ぶあいがけカレーの3種類。

まずは「スリランカ風チキンカレー」は、鶏ガラと香味野菜とハーブ、スパイスを約3時間弱火でじっくり煮込んだチキンブイヨンとココナッツミルクをベースにしたスープカレー。チキンはジューシーさと香りを楽しめるように、あえて煮込まずにオリジナル配合のスパイスとヨーグルトに付け込んだものを、直前に焼き上げるスタイル。「スリランカ風チキンカレー」のライスはバスマティライスを使用したターメリックライス。

「スリランカ風チキンカレー」と「鶏キーマカレー」のあいがけに半熟スパイス玉子をトッピング

「バターチキンカレー」はバターと生クリームが効いた濃厚なカレーに、スリランカ風チキンカレーと同様に焼き上げたチキンが載っている。お米は福岡県産、佐賀県産を使用。カレーに合うように少なめの水でターメリックを加えて炊き上げられている。

「鶏キーマカレー」は鶏ミンチをチキンブイヨンで煮込んで旨味を凝縮させたドライカレータイプ。せっかくなら「スリランカ風チキンカレー」と「鶏キーマカレー」のあいがけ、または「バターチキンカレー」と「鶏キーマカレー」のあいがけが僕的にはおすすめ。

鶏キーマカレー半熟スパイス玉子をトッピング

さらに野菜や豆類を使った副菜4種類がどのカレーにも一緒に盛り付けられている。これは季節によって内容が変わるそうだ。カレーに混ぜ混ぜしながら食べると口直しにもなるし自分なりの味を楽しむこともできる。

日替わりの副菜

お客様を飽きさせないようにということで、月替わりのメニューを週に1・2日、数量限定で提供している。常に新しいメニュー作りに挑戦することは西村さんが自分に対する宿題という意味もあるのだろう。
下の写真は、10月の限定の海老のココナッツカレー。この日は開店11時に行ったのだが、開店前から数人が駐車場で待つくらいの人気だった。

10月限定の海老のココナッツカレー

客層は、女性の割合が多く、ちょっとしたランチ会でママさんたちが来られているのが印象的だった。お子様連れの方はベビーカーごと入店オッケーという。さらにお子様用のキッズカレー(500円)というのもありがたいだろう。カウンターもあるのでお一人様も大丈夫だしサラリーマンの男性客も多く、幅広い年齢層に支持されているようだ。

どの料理も方向性がはっきりとした印象的な味だが、個性が強すぎて尖りまくったマニア感はなく、カレー好きであればどんな人でも楽しめるような上品な仕上がりになっているのは、フレンチ料理人として16年間の経験が成せる技かもしれない。

ちなみに、現在夜営業はやっていないが、木曜日と金曜日は「夜ご飯テイクアウト」として、当日16時まで予約すると17時~20時の引取り可能。仕事帰りに自宅で美味しいスパイスカレーなんてのも楽しめるようだ。

最後に

― 結婚式場の料理人から一転独立してカレー店オーナーとなられたわけですが、開業4カ月くらい経過しましたがいかがですか?

直弥さん スタートとしては思っていた以上にお客様に恵まれてありがたい限りです。開業の噂だけで来てみて一回で終わりというパターンもありますから、連日で食べに来てくれたり、2回目、3回目と来てもらえるととても嬉しいです。元の職場の同僚たちも食べに来てくれるのも嬉しいですね。

― 自分が作ったものを食べてくれるお客さんと毎日直接会うという感覚は、結婚式場の仕事とは違う印象でしょうか?

直弥さん 結婚式の時も料理長(シェフ)をしていましたので、式の前に新郎新婦とどんな料理が良いか何回も打ち合わせをしますし、式の当日も直接お会いして挨拶したり反応を感じたりもしてたので、仕事内容は違いますが、美味しいものを作って目の前のお客様に喜んでもらうということは同じかもしれませんね。

― サラリーマンから自営業者になったことについてはどうでしょう。

直弥さん 経営自体が初めての経験なのですべてにおいて勉強させてもらってる感じです。また子供が小さいので運動会などの行事の時は店休をもらってしっかり家族サービスしたいと思ってます。それが出来なかったら妻に「何のために独立したの!?」と怒られそうなので(笑)

― 将来的にはどんなお店にしていきたいですか。

直弥さん 開業直後はとりあえず生活できるだけで良いのでぼちぼち家族で頑張ろうと思ってましたね。しかし少し慣れて来ると、「スパイス食堂」という言葉を店名につけているので夜の営業も始めて、カレーのみに限らない料理をお酒と一緒に楽しんでもらえるようなスタイルも夢として描いてます。まあ、しばらくは家族最優先で頑張ります。

ということで、これからも男女問わず幅広い年齢層の方に支持されて行くだろうオーラがビンビン感じられる「スパイス食堂andN」。ぜひ西村夫妻の笑顔と美味しいカレーを楽しみにお出かけくださいませ。

店舗名

スパイス食堂andN(店舗写真

ジャンル

  • カレー

住所

福岡県糟屋郡粕屋町仲原1775−5

電話番号

092-710-5999

営業時間

11:00~LO14:30

定休日

月曜日と第2第4火曜日

席数

  • カウンター2席
  • テーブル12席

メニュー

スリランカ風チキンカレー(1,350円)、バターチキンカレー(1,350円)、鶏キーマカレー(1,250円)、2種あいがけカレー(1,500円)、キッズカレー(500円)

喫煙について

禁煙
  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
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