数ある福岡の焼鳥屋でも、別格の存在感を放つ「藤よし」。その歴史は1949年、早川清一さんが筥崎宮前に出した一軒の屋台に始まります。鶏のほかに牛・豚・野菜も焼く博多焼鳥の伝統は、ここが起点との説もあるのだそう。1961年には、その流れを継いだ弟の鴻之輔さんが暖簾分けで独立開業。西中洲に構えたその店こそ、今回の主役=「藤よし」なのです。
1階と2階に各々備えたカウンターと座敷は合計100席。焼鳥屋としては結構なキャパですが、この夜も客席は大勢の客で埋め尽くされていました。どこを見ても、串やビールに浮世を忘れて愉しむ笑顔また笑顔。店じゅうに陽気と熱気が渦を巻く、「藤よし」70年来の変わらぬ光景です。
メニューは焼鳥をはじめ、一品料理や水炊きなど様々揃っていますが、やはり注目すべきは名物のホルモン串でしょう。こぶくろ(雌豚の子宮)・がつ(胃袋)・ぺた(背中の皮)といった希少ネタに、塩揉みなどの丹念な下処理を施し提供してくれます。滅多に出会えぬ滋味・珍味だけに、これ目当てに通い詰めるホルモン好きも多いとか!
手始めに熱々の5本が到着し、さっそく右からいただきました。
まずは何十年も注ぎ足すタレで飴色に焼きあげた「べんてん」(220円)。以前は名前の由来である雌豚の局部を使っていましたが、今は直腸と大腸の組み合わせとなっています。独特の匂いとふわりとした食感の“中毒性”が鮮烈な、串ものでも人気の高い1本です。上カルビを使った「ばら(牛)」(330円)は、下に刺した野菜類との取り合わせがユニーク。さまざまな風味が入り乱れ、完食後は小鉢料理を食べたような余韻が残りました。「かしわ」(165円)と「ホホ」(440円)は凛々しいまでの弾力が出色。「とん(豚)」(330円)はバラではなく、あえて柔らかな肩ロースを使うのが新鮮でした。
どれもネタが大ぶりで食べ応えがあり、「1本でも満足できるものを」という店の気概を感じます。
代々進化を重ねてきた焼鳥は、いずれ劣らぬ貫禄の美味しさ。サービスも含めた完成度の高さに「さすがは博多焼鳥のレジェンド」と唸っていたら、「そう大したもんじゃないですよ!」と快活な声が。「いつでもふらりと立ち寄れる場所。焼鳥屋って、そんな気軽な存在でいいと思うんです」
声の主は、レスラーを思わせる体格の早川禎行さん。実際メキシコプロレス「ルチャ・リブレ」の経験者で、マスク姿で慰問にも励んでいた心優しき好漢です。以前は渡辺通で居酒屋を営んでいましたが、80歳になった父・鴻之輔さんに「あとを頼む」と請われ、7年ほど前に二代目を襲名。「老舗の暖簾を背負う重圧は、正直なかったですね(笑)。父と同様、何がうまい料理かをただ突き詰めていくだけです」と、思わず釣り込まれるような笑顔で語ってくれました。
先代から続く奉仕の心は変わらねど、二代目になってもっとも進化したのが一品料理のクオリティです。焼鳥は20年来の熟練職人に任せ、自身は得意とする和食に注力。生簀も新たに設置して、鮮魚料理をたっぷり楽しめるようになりました。なかでも自信の一品が「カワハギの活き造り」(4,400円)です。ここぞの薄さで引いた白身はコリッと弾み、その風味を倍増させる肝醤油がまた絶品。よもや焼鳥屋で、和食店レベルの刺身が味わえるとは望外の驚きでした。
定番の各種雑炊も、禎行さんが「もっと美味しくなるはず」と改良を加えたものの一つ。出汁を取るサバ節をカツオ節に変え、さらに対馬の原木干し椎茸を加えて自然な甘みを出しています。この日頼んだ「かに雑炊」(935円)を一口すすると、澄んだ出汁から豊かなまろやかさがフワリと広がり、胃の腑までじんわりと温もるのでした。
「藤よし」が名店である証を知るなら、その料理を食べるだけで十分。そこに込もった誠意と技が、老舗の想いを雄弁に物語るからです。名声に偉ぶらず、大衆路線をまっとうする姿勢は「焼鳥屋の理想形」とさえ思えます。「『今日は焼鳥でも食おうや』の『でも』を大切にしたいんです。権威でも肩書きでもなく、お客様に笑顔になってもらうことが焼鳥屋には大事だと思っているので」と禎行さん。「そんな仕事を地道に続け、いい形で創業100周年を迎えたいですね」。きっとそれは、福岡の焼鳥愛好家全員の願いでもあるはずです。
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店舗名
藤よし(店舗写真)
ジャンル
- 焼鳥
住所
福岡市中央区西中洲9-6
電話番号
営業時間
16:00~OS22:30
定休日
日曜
席数
- カウンター27席
- 座敷40席
個室
33名
メニュー
つくね・皮・ずり各165円、たん・手羽先各550円、刺身3種盛1,760円(1人前)、コース3,850円~
喫煙について
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- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
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