7人合わせて星10個! スターシェフが福岡に集結した一夜【後編】
公開日
ライター江藤詩文
カメラマン前田耕司
おいしいものを求めて国内外を飛び回っているフードライターの江藤詩文さんが急遽来福。スターシェフが大集合するディナーイベント「合餐 2021 Gohsan 7chefs in Fukuoka」に参加するためです。それを耳にした「UMAGA」編集部はさっそく体験レポートの執筆をお願いしました。シェフたちとも親交の深い彼女による渾身のレポートをご覧ください。
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そしていよいよメインディッシュ。清水さん(デンクシフロリ)による「和牛シンシン」の登場です。
ここでちょっと話は飛びますが、ガストロノミー好きなら、台湾南部の町「屏東」から山を分け入った秘境「霧台郷」にある、台湾語で「原住民」と呼ばれる少数民族の伝統料理をイノベーティブに再構築したファインダイニング「AKAME(アカメ)」の噂を耳にしたことがあるかもしれません。「AKAME」のシェフ、アレックス・ポンさんは少数民族ルカイ族の人。ルカイ族や同じく少数民族のパイワン族は、霧台郷あたりでとれる頁岩(蓄熱性がいいそうです)を使った岩板を伝統的に調理に使ったり、家をつくるのに用いたりしてきたと言います。清水さんはアレックスさんの親しい友人。彼から贈られた霧台郷の頁岩の岩板2枚を、このイベントのために福岡に持ち込んだのです。
鹿児島牛のシンシンのかたまり肉を岩板にのせ、手のひらで温度や繊維の状態を確かめながら、肉を転がし続けること延々6時間半。その間の清水さんの気迫と集中力といったら。もはや調理工程ではなく、狂気さえはらんだ神事を見ているようでした。
付け合わせの野菜「カブと柿のサワークリームマスタード」を担当したのは小林さん(villa aida)。添えられた焦がしみかんに、ごくわずかにふりかけたのは「villa aida」特製の七味。ピリッとした刺激的な辛味は抑えられ、スパイスがふんわりと幾重にも重なってやわらかく香るこの七味の繊細さ。剛と柔、陰と陽のような2品を、福山さん(La Maison de la Nature Goh)の赤ワインソースが温かく繋ぎます。
締めの食事「桜海老ご飯 ビスクがけ」は、再び長谷川さん(傳)と川手さん(Florilege)がコラボレート。このイベントには、福岡を中心とした若手料理人が40人ほどサポートに入っていて、サポートメンバーの中心の一人、福岡の人気居酒屋「赤坂こみかん」主人の末安拓郎さんが、長谷川さんと共に土鍋ごはんを炊き上げました。「傳」の名物でもあり、「赤坂こみかん」の名物でもある炊き込みご飯に、川手さんのフレンチのビスクのハーモニーは、「傳」のようでもあり、「デンクシフロリ」のようでもありました。ちなみにトッピングのミントを選んだのは清水さん(デンクシフロリ)だそうで、このイベントをきっかけに、清水さんを迎えた新生「デンクシフロリ」に行きたくてたまらないフーディーズが爆増したはず。もちろん私もその一人です。
デザートは高田さん(La Cime)の「島の塩ロールケーキ」、福山さん(La Maison de la Nature Goh)による福岡のとっても甘いブランド柿「秋王」を使ったソルベ、生井さん(Ode)のサバイヨンソースの盛り合わせ。
これにてうたかたの一夜は終演となりました。
料理に合わせるドリンクは、アルコール/ノンアルコールのペアリングが用意され、晩餐会の会場となった「QUANTIC(クアンティック)」のソムリエ&バーテンダーチームが担当しました。出汁やみりん、トマトなどを使った創意工夫溢れるノンアルコールのモクテルは、シェイカーを振るといったテーブルパフォーマンスもあり、各テーブルを盛り上げました。アルコールは、王道のフランスワインからカクテル、糸島「白糸酒造」の「田中六五」まで。とりわけ「villa aida」の栗かぼちゃと合わせた2018年のボーヌと、「傳」と「Florilege」の炊き込みご飯に合わせたぬる燗のスパークリング日本酒は、ちょっと会場がざわつくほどの組み合わせ。きっと未来のスターソムリエがチームにいるのでしょう。
料理と共にテーブルを彩ったのは、花人・赤井勝さんによるフラワーアートです。普通は、完成したフラワーアレンジメントがあらかじめ飾られているものですが、この夜は8品の料理と共に8つの花材をゲストの目の前で生けていき、デザートと共に完成するというライブパフォーマンスが演出されました。自身も初の試みだったという赤井さん。緊張がほどけた赤井さんに、さっそく長谷川さんと川手さんが寄り添います。
たとえば人種や言語、世代、職業といった属性が異なったり、性格的に控えめだったりして、溶け込みにくさを感じている人を、この2人は絶対にそのままにしない。あのまるっこい笑顔で話しかける場面を、世界各地で何度見たことでしょうか。
最後に。卓上のメニュー表には、どの料理を誰が担当するか明記されていましたが、これはブラインドでもよかった気がします。ファンならきっと、何も聞かなくても好きなシェフの味がわかるはず。私も9割以上の確率で、どの料理が誰の作品か言い当てられた確信があります。
それほど強い個性を持つ7人のスターが集まりながら、お互いをよく理解しあっているからこそ、それぞれの個性を発揮しつつ、一つになって美しい流れをつくるコースを実現した奇跡のような一夜。日本のガストロノミー史に残るメニューとして、ここに記録しておきたいと思います。
[江藤詩文プロフィール]
世界を旅するフードライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに、世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ、各国でのインタビュー多数。訪れた国は60カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。Instagram(@travel_foodie_tokyo)でもおいしいモノ情報を発信中。
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
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