上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第8回】

上呉服町にある公民館のような小さな古民家カフェ

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最終更新日

ライター上野万太郎

カメラマン上野万太郎

珈琲と麦酒

上呉服町

珈琲と麦酒(ばくしゅ)

上野万太郎

ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。インスタID:mantaro_club

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上呉服町にある小さな古民家カフェ

3年前の3月9日に上呉服町に古民家カフェ「珈琲と麦酒」がオープンした。コーヒーとクラフトビールを提供する店。店主は姉川智子さん。カウンター6席だけの小さな店だが、開業後から今までずっと地域の人だけなく福岡市内のあちこちから訪れる老若男女で賑わっている。

みんな何を求めて「珈琲と麦酒」にやってくるのか。その答えは姉川さんの明るく人懐っこい接客にあると思う。彼女は常連客であろうと初めてやって来た旅行客であろうと、距離をつくらず懐に入り込めるのである。これはもう特技と呼んで良いレベル。僕はそれを良い意味で「人たらし」と呼んでいる。そんな彼女の経歴を聞きながらその秘密を探って行きたい。

珈琲と麦酒

姉川智子さんの経歴

姉川さんは短大を卒業後、福岡市内の建築資材会社に入社し事務員をしていたが、将来的には「雑貨屋さんになりたい」という夢があった。雑貨店経営を勉強するために学校にも通い、販売、仕入、経理、そして店舗設計などを学んでいた。

学校の授業で自分の雑貨店を作るというテーマで図面を描いたことがあったが、その時に店の一角にカフェを描いていた。当時は特にカフェやコーヒーに興味があったわけではないが、今思えばその頃から何かしら深層心理にコーヒーへの興味があったのかもしれない。

スターバックスコーヒー入社

26歳の時、たまたま求人雑誌で見つけて「スターバックスコーヒージャパン」に転職した。当時はまだ福岡と大分に数店舗しかなかった時代。姉川さんは大分の店舗に配属され、その後福岡市内などで店長を勤めることになる。

就職するまで「スターバックス」に行ったことさえなかった姉川さん。採用試験の面接で「集客のためにあなたは何を頑張れますか?」と聞かれた時に「毎日、トイレ掃除を一生懸命に頑張ります!」と答えたという。このことからもコーヒーを仕事にすることに対して、特に深い思いがあったわけではなかったことがうかがえる。

しかし入社後、「スターバックス」で学んだ事は大きかった。一つは人材教育。その中でも特に「傾聴力」についてはその後も彼女の店舗経営に大きく影響を与えた。「傾聴力」とは、相手の話に耳を傾けて相手の状況や気持ちを深く理解しようとする力のことを意味する。元々あまり人の話を聞くのが得意ではなかったという姉川さん。店長としてスタッフの言葉を聞くことの大事さを叩き込まれた。もう一つはホスピタリティ。お客様を満足させリピーターになってもらうための「おもてなし」のノウハウである。自分のお店を選んでくれるファンを作り、ファンの期待を裏切らないサービスを継続することの大切さを学んだのである。

結局、姉川さんは13年間「スターバックス」で働いた。「人たらし」に見えたのは「傾聴力とホスピタリティの素晴らしさ」の現れだと僕は理解できた。

「スターバックス」で学んだ事は大きかったが、それ以外のことも経験したくて退職後にパン屋で製造を学び、「bills 福岡」で接客を学んだ。その頃だった、接客がしっかり出来る飲食店が自分に合っていると再確認し独立開業を決めたのは。

「珈琲と麦酒」を開業

その後2019年、43歳で「珈琲と麦酒」を博多区上呉服町に開業することになる。物件を探していたところ、たまたま紹介があったのが今の店舗。姉川さんの母親のさわこさんが昔から「いつか古民家みたいな場所でお店をしたいな」と言っていたそうだが、図らずも紹介された物件がまさに博多旧市街にある古民家だったのだ。現地を案内された姉川さんは、直感的に「ここだ!!」と判断し、すぐに契約したそうだ。

築100年以上の古い建物だが改修済みでスケルトンだった。カウンターや階段などを作り、太い梁が見えるように残したまま、古民家の良さを感じられる空間を作り上げた。

珈琲と麦酒

メニューはエスプレッソマシンを使ったカフェラテやペーパードリップのコーヒー。コーヒー豆はオーストラリアの「シングルオー」を使用。浅煎りで香りを重視した風味が気に入っていた。店名にもあるようにビールにも力を入れている。クラフトビールをたくさん用意しているが、現在は宮崎県の「ひでじビール醸造所」のものをメインにしている。

ひでじビール

最近は母さわこさんの作る日替わり定食「さわこさんちのごはん」(850円~)も提供している。毎日用意されているパウンドケーキ作りもさわこさんの担当。特にはおはぎなどの和菓子も出てくる。今では、ご飯もスイーツもしっかりとお客さんをつかんでいる。さわこさん自身も昔「お店をしたいな」と言う気持ちがあっただけに、娘の開業で母の夢も少し叶った事だろう。

珈琲と麦酒
珈琲と麦酒

開業当初は暇な日もあったが、開業以来3年間、売上が0円だった事は一度もないらしい。3月に開業して4、5月には常連客が出来ていた。そしてその頃の常連客は今でもずっと店に来てくれているそうだ。

姉川さんの接客はとても自然で素直だ。とにかく自分から心を開いて相手の気持ちを掴むのが上手い。人というものは相手に心を開いてもらいたい時は、まず自分から心の内を見せることが大事だなと再認識させられる。
そんな姉川さんのファンになった常連客は数知れず。近所の焼鳥屋や焼肉屋の大将が営業前に毎日のように遊びに来たり、近所で働くサラリーマンが昼休みにランチに来る。さらには子連れのママさんや通勤途中の人。SNSや情報誌を見た観光客のカップルや女性客など。お爺ちゃんお婆ちゃんから小学生まで、いろんな人が集まる空間になっている。

珈琲と麦酒

最近では、同業のコーヒー店やサンドイッチ屋とコラボ営業をしたり、2階のフリースペースはアーティストの個展や物販のイベントとして希望者に貸し出している。とにかくこの場所にいろんな人が集まっていろんなことをやる空間にしたいと言うのだ。

最後に

「どうしても3月9日に開業したかったんですよ。それに向けて工事の方にもお願いしてバタバタと準備してましたね」
「それはどうして?」
「39(サンキュー)って感謝の日でしょ? それまでもそうだったしこれからもずっと感謝の気持ちは大事にしたいんです」と満面の笑顔の姉川さん。その気持ちがしっかりお客さんに伝わってるのは間違いない。

「将来の夢はなんですか?」とも聞いてみた。
「ここを公民館にしたいんです。店前を通る近所の子供たちが『ただいま~』と声をかけてくれるみたいな。そして常連さんも地域の人たちもみんな一緒にここで交流できるような、そんな空間にしたいんです。」
なるほど、姉川さんらしい。彼女が「館長」になる日は近い、いや、というかもうなってると思う。

傾聴力とホスピタリティが素晴らしい姉川さんが館長を務める公民館へあなたも遊びに行ってみませんか。姉川さんと母さわこさん、そして時々スタッフのお兄さんが笑顔で迎えてくれますよ。

珈琲と麦酒

店舗名

珈琲と麦酒(ばくしゅ)

ジャンル

  • カフェ

住所

福岡市博多区上呉服町5-175

電話番号

090-1191-9758

営業時間

11:30~18:00

定休日

木曜、他不定休あり

席数

  • カウンター6席

メニュー

コーヒー510円、カフェラテ480円、パウンドケーキ380円、さわこさんちのごはん(日替わり)850円~、クラフトビール870円~

  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
  • ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
  • ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。

記事に関する諸注意

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