パリのビストロを思わせる、大濠公園で愉しむお値打ちランチ

大濠公園からほど近い一画にある「MINE」は、2017年にオープンしたビストロです。個人的に長い付き合いの店ですが、毎度「この味でこの値段？」と安堵させてくれる値頃感が魅力の一つ。もちろんそれはランチタイムでも発揮され、プチ贅沢なひとときを味わわせてくれます。

静かなマンション街に溶けこむ店舗はまさに“町の食堂”の趣き。フランス料理と聞いてやや身構える人でも、ここなら気負いなく入れるでしょう。この自然体な雰囲気は僕が思い描くビストロ像にぴったり。逆に、この何気なさに“能あるタカ”の匂いを嗅ぎ取る手練れのグルマンもいそうですね。

木を多用したカントリー調の店内も温もりを帯び、リラックス度を引き上げてくれます。また入口近くにはショーケースが置かれ、テリーヌやキッシュなどの惣菜がズラリ。「MINE」はオープン時からテイクアウトに力を入れており、手の込んだアラカルトも購入できるのです。プロの味を手軽に持ち帰れる本格ビストロは珍しく、僕も時々お世話になってます。なお早い時間帯は惣菜も少なめなので、なるべく事前の予約が吉ですよ。

ランチメニューはセット２種類、コース２種類が用意され、今日は一番コスパを感じる「Cコース」（2,200円）を選びました。そしてこれが１品目の前菜盛り合わせ。相変わらず食欲を刺激するビジュアルで、ワインなしでは落ち着かなくなる（笑）罪な内容です。
箸で切れそうに柔らかい豚タンと、個人的にも大好きな定番・サバのテリーヌは特に印象的。もう一つのテリーヌは鶏レバー＆豚ミンチなどを使い、濃厚なコクを出す逸品でした。さらに天然ダイのカルパッチョ、ノルウェー産サーモン、サラダが脇を固めます。

これらの品々から伝わる、精度の高い技術と料理に対する誠実さ。そしてどことなく漂う懐かしい味わいが「MINE」の魅力ではないでしょうか。そんな僕の雑感に、「フランスの家庭料理と地方料理を自分なりに表現しています」と峯玲児さんが応えてくれました。かつては大名の人気ビストロ「gaza（ガザ）」の店主でもあった熟練オーナーシェフです。「パリのビストロ文化は地方出身のシェフたちが手がけた“田舎料理の集大成”だと思うのですが、その地方色が醸しだす素朴さが僕は大好き。『MINE』にもあの空気を持ち込んでみたいんです」。

さて、前菜が終わると舌触り抜群のスープ（今日はヴィシソワーズ）が続き、いよいよメインの登場です。この日の素材はイタリア産の骨付き仔牛で、乳だけで育てた“ミルクフェッド”。生後わずか25～28週で出荷することから極上の肉質が楽しめます。「メインは割とガッツリ系」と峯さんが言うとおり食べ応えは満点。骨の出汁が加わったトマトベースのソースも凝縮された旨味たっぷりです。メインには良質なジビエが出ることもあり、これまた絶品なんですよね。

今日のデザートは「ババ・オ・ラム」。しっかりめに焼いたケーキを、甘い香りのスパイス“アニス”で風味を添えたシロップと一緒にいただきます。ひたひたの冷たいシロップのおかげで粉っぽさもなく、艶っぽい食感とともにスッキリ完食できました。なおランチコースには、他にパンとコーヒーか紅茶が付いています。

伝統色・地方色を生かした料理は、今日も優しく舌に沁みました。そこから滲みでる和みや温もりが、幅広い世代の常連や同業者のファンを惹きつけるのでしょう。「ほとんど王道の料理ですが、フレンチに不慣れな方への“入口”になればとも願っています。テリーヌって、エスカルゴってこういうものなんだと気軽に知ってもらえたら嬉しいですね」。そんな料理愛が潜む言葉に、この店を好きでいる理由がまた一つ増えました。