上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第2回】
男前な菜津子さんの料理と会話を楽しむカウンタービストロ
公開日
最終更新日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
高砂
Bistro La Coquette(ビストロ ラ コケット)
上野万太郎
ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club
男前な菜津子さんの料理と会話を楽しむカウンタービストロ
彼女と最初に会ったのは2018年1月。南区高宮にある「イタリア食堂SACCO」だった。「SACCO」のシェフの秋元幸さんから「イタリア研修で不在の間、友達のフレンチシェフがうちでフランス食堂を営業するので寄ってみてください」と連絡があったからだ。
今日ご紹介するのは、その彼女。「Bistro La Coquette」(ビストロ・ラ・コケット)の大櫃菜津子(おおびつなつこ)さん。中央区高砂でカウンター8席とテーブル1つだけの人気ビストロを一人で切り盛りするオーナーシェフである。
ウフマヨ(330円)
菜津子さんは高校卒業後、パティシエを目指して辻製菓専門学校へ。19歳で菓子店に就職するが、元々ビストロへの夢や憧れがあったので、一度本場のフランスで働いてみたいと思い25歳で単身渡仏し小さなレストランで働いた。当然ながら菓子作りだけでなく、料理全般を経験することになる。
そこで菓子作りも良いけどやっぱり料理は楽しいなと確信し、27歳で帰国する時には料理の道に進むことを決めていた。
フランスを離れる時にお世話になったフランス人オーナーにアドバイスを受けた。
「100万円のハンバーグを作れる人は500円のハンバーグも作れる。しかし逆はない。どうせ料理の道に進むなら、ナツコは日本に帰ったらトップレベルのレストランで仕事を経験しなさい」
ラムチョップの仕込み風景
帰国した彼女は福岡のフレンチの名店「la table de provence」の門を叩いた。「provence」のオーナー、野村シェフとは縁もゆかりもなかったが、とりあえず菓子専門学校を卒業していたことやフランスで2年間働いていたことが良かったのだろう、帰国10日後には厨房に立っていた。
「それから『provence』には6年半ほどお世話になりました。野村シェフには料理のすべてをゼロから教えてもらいました。野村シェフはスタッフの仕事ぶりを見てないようで見てるし、物静かなのにすごく怖かったです。マジで怖かったです。今はもうすっかり優しくなられてますけどね。とにかく本当に感謝しています」と当時を振り返る。
スフレ風オムレツとトリュフ(2,100円)
2018年3月3日に中央区高砂で自身の店「Bistro La Coquette」をオープン。夢であったビストロのオーナーシェフになった菜津子さん。33歳の時だった。
彼女が作る料理は勢いとボリュームとパンチがある。前菜盛り合わせ以外はほとんどが一皿一品である。フランス料理と聞いて想像するような大きな皿に小さくきれいに盛り付けるのは性に合わないようだ。
「小さく可愛く盛り付ける料理って私には無理なんですよね。私自身がガッツリ食べるほうなので、お客様にもど~~んと出したいんですよ。これ以上やるとクレームになるからやりませんが、本当はもっと大盛りにしたいんです」と大きな声で笑う菜津子さん。
調理中のウズラの丸焼き(2,100円)
毎日手書きのメニューを用意しているがメニューの数が半端なく多い。前菜やスイーツまで合わせると40種類ほどある。女性客が多いんだが、お洒落に上品にというより、料理もワインもしっかり食べて飲んで楽しむ人が多いというのも理解できる。
「何回来られても飽きられないように季節に合わせて変化させながらいろいろな料理を提供できるようにしてます」
注文を受けて調理して、さらにワインを選ぶなどのドリンク提供から会計までを一人でこなす菜津子さん。仕事終わりには皿洗いから掃除まですべてをこなすのだから大したものだ。そして調理と同じくらい大事な仕事がもう一つある。客と会話をすることである。
牛ラグーのマカロニグラタン(2,300円)
とにかくよく話す。というか、客が話しかけて来るのである。客の8~9割は女性。そして平均年齢は30~40代。菜津子さんからすると同世代かちょっと年上のお姉さま方が多いようだ。
カウンターの客から「ちょっと菜津子さん、どう思います?」と急に話を振られたりする。まさにカウンター中心の店ならではの光景。そんな時も菜津子さんは、媚びることなくお世辞を言うこともなく思ったことをズバズバと答えている。そうなると会話は盛り上がるに決まってる。これだけ話をしていてよくもまあ次から次に料理を提供できるものだと毎回感心する。
そんな光景を開業当初から見ていた僕は「Bistro La Coquette」のことを「スナックなつこ」と呼んでいた。ママに叱られたい客で賑わう繁盛スナック、喋りながらもキビキビと仕事をこなしているママさん。そんなスナックのママさんってだいたいにおいて男前だったりする。そんな姿を僕は勝手に菜津子さんに重ねて見ている。
鮮魚のソテー サフランリゾットソース(2,800円)
ラムチョップ2本入り(3,400円)
夢はなんですか?と聞くと、「80歳まで一人でビストロをやっていたいですね」と菜津子さん。
中学、高校生時代は陸上部の選手だった彼女。キャプテンを務めるなど統率力があった菜津子さんだが、本当は一人の時間も大好き。日頃からジョギングもしておりその最中に料理のアイデアが浮かんだりもするのだとか。ジョギングの他にも釣りやキャンプもソロ活動するらしいが、調理においても分担するより全部を一人でやるほうが楽しいという。
その分、営業中は客とたくさん会話をしたくなるということかも。COVID-19による営業自粛中にテイクアウト営業だけをしていた期間があるが、客と話すことがなかったので仕事がつらかったそうだ。それだけ「スナックなつこ」は彼女ためにも楽しいことのようだ。
リンゴのコンポートとキャラメルクレープ(880円)
カスタードプリン(650円)
振り返れば最初に「イタリア食堂SACCO」で会った日から彼女は男前だった。その日調理と給仕を一人でこなしていた彼女だったが、鼻の下に絆創膏(ばんそうこう)を貼っていた。初対面だったからなかなか聞きにくかったが、食べ終わるころにはなんとなく打ち解けてきたので聞いてみた。
「その絆創膏、どうしたんですか?」
「自転車で転んで顔から地面に落ちて怪我しました」
「笑ったら悪いけど、男前ですね(笑)」
第一印象って当たっていることが多いなと思うエピソードだ。
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店舗名
Bistro La Coquette(ビストロ ラ コケット)(店舗写真)
ジャンル
- フランス料理
住所
福岡市中央区高砂1-12-17
電話番号
営業時間
17:00~OS22:00
定休日
不定
席数
- カウンター8席
- テーブル6席
メニュー
前菜の盛り合わせ1人前1,700円、パテドカンパーニュ950円、スフレ風オムレツとトリュフ2,100円、魚のソテートマトソース3,200円、牛ラグーのマカロニグラタン2,300円、かものコンフィ2,400円、ラムチョップ粒マスタード3,400円 (メニュー内容や価格は時期により変動します)
喫煙について
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- ※OSはオーダーストップの略です。
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
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