思わずお酒が進む中華料理店(5)
球磨焼酎、粕取焼酎メインの変わり種。マニアックさに乾杯(完敗)
本企画のトリを飾るのは、個性的なお店が連なる西新の路地「おもしろ21」にある「中華菜 髙福」です。カウンター4席とテーブル2卓の小バコな中華酒場。店内あちらこちらに酒瓶が並び、ディープな香りがぷんぷん。酒好きのアンテナがビンビン反応しちゃいます。
企画趣旨をあらためて伝えると、「うちはね、お酒の数が料理より多いんですよ」と的を得たように笑顔でメニューを手渡してくれた店主・髙鍋彰さん。分厚いメニューの半分以上のページがドリンク(お酒)です。
ビールは生をはじめ、青島や台湾の瓶ビールなど6種類。中国酒も紹興老酒、上海老酒、台湾老酒など15種類以上が用意されています。紹興酒においては、例えばストレートなら上澄みのみを使用した「塔牌『紅琥珀』無濾過」(ボトル4,200円)、割って飲むなら濃厚な「古越龍山 善醸仕込み」(ボトル3,800円)というふうに最適な飲み方ができるようなセレクトぶり。
ほかにもジャパニーズクラフトジンや果実酒、日本ワインなどが揃いますが、髙鍋さんが最も力を注いでいるのは「日本の米の酒」、つまり日本酒や焼酎です。日本酒は九州産のものを7種類(500〜600円)と全国のカップ酒を6種類(700〜800円)準備。焼酎に至っては……かなりの数だし、「メニューにないものも置いています」というので数えるのをやめました(笑)。米焼酎、それも球磨焼酎をメインに、麦、いも、そば、とうもろこし、栗、黒糖の焼酎なども厳選して扱っています。
「球磨焼酎は500年もの歴史があります。また27ある蔵元は、それぞれ味の違いがよく表れていてとても面白いんです」と髙鍋さん。球磨焼酎のなかでも個性をより感じられる常圧焼酎のみに銘柄を絞っています。ちなみに髙鍋さんは、球磨焼酎案内人の認定証もお持ちだとか。
お酒のことばかり書いていますが、もう一つだけ言わせてください。お店では球磨焼酎に並び、粕取焼酎も主に置いているんです。
みなさん、粕取焼酎ってご存知でしたか? 日本酒造りの過程でできる酒粕を原料に造られる焼酎で、髙鍋さんいわく「いうなればジャパニーズグラッパです」。米作りの盛んな北部九州では古くから作られていて、田植えの労をねぎらう酒として飲まれていたこともあり「早苗饗(さなぼり)焼酎」とも呼ばれているそうです。
昔ながらの蒸篭(セイロ)で蒸留する正調粕取焼酎と、近代的な減圧蒸留機を使う吟醸・清酒粕取焼酎があり前者はクセのある味わい、後者は華やかでフルーティーに仕上げられているといいます。
量は飲めなくてもあらゆるお酒を飲んできて「酒好き」を自称していた私ですが、この粕取焼酎は飲んだことがありませんでした。面目ありませんでしたが、それよりも好奇心が勝りお願いして特別に試飲させてもらいました。
左が大分・佐藤酒造の正調粕取焼酎「碧雲」。香りはまさに酒粕ですが、飲むとまろやか。感じ方は様々でしょうが、私は酒饅頭の生地のような素朴な甘さを感じました。
右が佐賀・五反田酒造の清酒粕取焼酎「金瓶梅」。香りも味もフルーティで上品で、焼酎というより度数が強めの日本酒といった印象でした。
試飲で食欲が刺激されたところで、いよいよ食事タイムです。ドリンクメニューが多いと言っていましたが、料理のメニューもけっこうな種類です。旬のおすすめから、前菜、温菜、主菜の鶏・豚・羊・鹿・海鮮・豆腐、点心、麺類、飯類、下酒菜(おつまみ)と、ざっと見たところ軽く100種類を超えていました。
とりあえず粕取焼酎に合うものをと選んだのが「腐乳搾菜(ザーサイの腐乳和え)」(500円)です。豆腐に麹をつけて塩水中で発酵させて作られる腐乳は、マイルドな豆腐餻といった味わい。それと混ぜることでザーサイに塩気とコクがいい塩梅に加わって、お酒との相性抜群です。ボリュームもたっぷりで、「これだけで3〜4杯飲まれる方もいますよ」と髙鍋さん。
次にオーダーしたのは小バコな中華にしては珍しい「清蒸海上鮮(鮮魚の姿蒸し 広東風)」(1,200円)。手頃な価格で提供するため「てのひらサイズの白身が入荷できたときだけの特別メニュー」と言いますが、出てきてびっくり! 写真ではわかりづらいですが、思っていたよりもかなり大きなお魚。手のひらって、髙鍋さんの大きな手が基準だったわけですね(笑)。
香味野菜と一緒に醤油ダレにつけていただきます。身は鮮魚ならではのふわふわで絶品。お酒が進む甘辛ダレは、ご飯にもよく合うそうで、煮魚定食のようにご飯と楽しむ常連客もいるそうです。
もはやお腹いっぱいなのですが、どうしても気になる鹿肉を最後に注文。黒胡椒炒、唐辛子炒めなどいくつか調理法があるなか、珍しい「孜然炒鹿丁(鹿肉のクミン炒め)」(1,400円)をチョイスしました。
ゴロンと大きくカットされた熊本県・五木村産の鹿モモ肉と数種の野菜。味付けはクミン、塩、コショウと非常にシンプルですが、お肉も野菜も旨味と甘味がたっぷり!
「髙福」を開いたのは5年前。その前の5年間は同じ場所で立ち飲み屋をやっていて、それより以前は、ホテルを中心に中華料理店で腕を磨いていたという髙鍋さん。お酒に関する知識が豊富で、また料理もどれをとっても申し分なくオリジナリティにも溢れているのは、そんな背景があるのです。
取材のときはお酒に関する蘊蓄を惜しみなく話してくれましたが、ふだんは厨房に立つためそうもいきません。ですが「粕取焼酎案内人も自称してるし(笑)、やっぱりお酒の文化をもっと伝えていきたいんですよね」と髙鍋さん。コロナ禍で開催を断念していたお酒のイベント「酒樂 髙福」も徐々に再開していきたいと話します。ディープな酒文化に触れたい人は、ぜひそちらもチェックしてみてください。
店舗からの提供。お酒イベントのときは白い提灯になり、店名も変わります。
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店舗名
中華菜 高福(こうふく)(店舗写真)
ジャンル
- 中華料理
住所
〒814-0002 福岡県福岡市早良区西新5丁目5−4
電話番号
営業時間
18:00〜OS22:30
定休日
日曜
席数
- カウンター5席
- テーブル8席
個室
なし
メニュー
青椒麻白切鶏(蒸し鶏の青山椒ソースかけ)650円、栗米湯(とうもろこしと玉子のとろみスープ)950円、沙茶炒羊肉(羊肉と野菜の沙茶炒め)1,100円、糖醋扇貝(帆立の甘酢炒め)1,200円、粉蒸牛腩(牛バラ肉の米の粉まぶし蒸し)1セイロ950円、鹿肉末炒飯(熊本産鹿挽き肉入りチャーハン)950円
喫煙について
- ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
- ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
- ※OSはオーダーストップの略です。
- ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
記事に関する諸注意
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