月2回の密やかなる愉しみ。進化するレストラン「Syn」のアラカルトデーへ

公開日

ライター森絵里花

カメラマン森絵里花

草香江 Syn カウンター

草香江

Syn(シン)

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Cuisine Voyages(キュイジーヌ・ヴォヤージュ)!
2023年6月、彗星の如く現れた「Syn」。福岡のガストロノミーシーンに黎明を告げたレストランが、開業2年目を迎えさらに進化していることをご存知でしょうか。

今回は個人的に何度か足を運ぶなかで感じたその魅力と、今年5月よりスタートした心くすぐる「アラカルトデー」を特別にご紹介したいと思います。

食で世界をめぐる。
独創の光を放つレストラン

草香江 Syn 外観

訪れたのは、大濠公園に程近い閑静な住宅街・草香江。路地先にさりげなく灯る明かりとシルバーのファサードサインがその入口です。

「Syn」という店名は「syncro(共時性)」「synesthesia(共感覚)」「symphony(交響)」といった「共に」を意味する単語の頭字語。旅は道連れ、世には未だ知らざる美味が溢れています。さぁ、インターホンを鳴らして専用のエレベーターに乗り込み、“共に”今宵の旅を楽しみましょう。

草香江 Syn 店内

4階に足を踏み入れ、目に飛び込むのは、緩やかな弧を描くカウンターと舞台のように整えられた厨房。「輪廻と時の旅」をテーマに設えたというフロアには、石や木、動物の骨など、時を越えてなお存在し続ける天然素材が随所にあしらわれています。

一角には肉の熟成庫があり、壁には来店した国内外のシェフや生産者、ゲストのサインがびっしりと。プライベートレストランへ招かれたかのような親密な空間に、胸が高鳴るのは言うまでもありません。

草香江 Syn シェフ

オーナーシェフの大野尚斗さんとシェフパティシエの江崎那美さんが笑顔で迎えてくれました。両親が筋金入りのバックパッカーだったこともあり、自身も自然と旅好きに育ったという大野シェフ。“食のハーバード”と呼ばれる米・NYの名門料理学校「CIA」を卒業し、世界的な名店から家庭的なレストランまで7カ国で研鑽しながら、これまでに旅した国はなんと44カ国。この冬には北欧への旅も控えているそうで、その数は今なお更新中です。

草香江 Syn シェフ

大野 尚斗

1989年生まれ、福岡市出身。19歳でアメリカの名門料理学校「カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(CIA)」NY本校へ入学し、NYの一つ星店「ノマド」を経て、卒業後はシカゴの三つ星店「アリニア」で研鑽。帰国後は東京・代官山の一つ星店「レクテ」でスーシェフを務め、スウェーデン「フェーヴィケン」(当時二つ星店)等の海外や、福岡・西中洲の「Bar Tetu」でワイン・カクテルに関しても知見を深め、2023年6月に独立。

「ゴ・エ・ミヨ 2024」では期待の若手シェフ賞に選ばれるなど、各種アワードも獲得。国内外から注目を集める大野シェフが掲げるのは「Cuisine Voyages=旅する料理」です。世界を巡った旅の記憶、土地、食材、人、異文化との邂逅――それらすべてを皿の上に投影し、ゲストを食の旅へと誘います。

草香江 Syn シェフ

過去のディナーコースの一例

現在、ディナーコースは1日2組(最大5名)限定のプレミアムシート。メニューには料理名に加え、生産者の名前と産地の緯度・経度まで記されているのが粋です。多様な種の鶏を用いて壺蒸しで仕上げる“トリプルコンソメ”に始まるコースの魅力を存分に語りたいものの……。「“味覚的好奇心”を満たしてくれるこの愉しさは、実際に体験してこそ」という思いも強いので、今回はグッと堪えてアラカルトデーの話しへ移りましょう。

“シェフの特別な休日”を思わせるアラカルトデー

草香江 Syn ワイン

ディナーを一夜の壮大な旅とすれば、アラカルトは気軽なショートトリップといったところでしょうか。アラカルトデーは毎月2回ほど開かれ、開催日はインスタグラムのストーリーにて告知されます。予約は不要で、14:00ごろ〜21:00ごろまでの通し営業。来店前に電話で席状況を確認してお出かけくださいね。

最初に提供されるのは席料とお通しを兼ねた、パティシエ・なみちゃん特製の「酒呑みクッキー」(1,000円・写真)。濃厚なチーズの味わいが口いっぱいに広がる、酒呑み歓喜の一品を味わいながら、食べたいメニューやドリンクを選んでいきます。

草香江 Syn 厨房

今年に入り、より自由に、アクティブに展開を続けている「Syn」。1月にはチームでスリランカへ旅立ち、厨房には国内のみならず海外からのスタジエ(研修生)も積極的に受け入れ。8月にはベトナム・ホーチミンの一つ星店「CieL」、9月には糸島から屋久島へ移転した中華料理店「四世同堂」とのコラボディナーを開催。

さらに11月には熊本のあか牛の生産者・井星ニさんとの「究極のあか牛の会」、来年1月には台湾・台北のフレンチ「ÉCRU」とのコラボを控えているなど、勢いは止まりません。そして、今年5月から始めたアラカルトデーも、そんな新たな取り組みの一つ。コースとはまた違ったスタイルで、出会った人々、食材、旅の思い出を表現しています。

草香江 Syn アラカルト ラザニア

「Tomasso直伝 手打ち“とけるラザニア”」(2,600円)はその名の通り、イタリア・ミラノからやって来たスタジエのトマソさんが作ってくれた“賄い”から生まれた逸品です。

「ノンナ(祖母)のレシピだと彼が教えてくれたこのラザニア。以前ボローニャで働いていた時、本場エミリア風(ボローニャ風)のラザニアは数えきれないくらいに食べましたが、このラザニアが“人生で1番うまい!”と衝撃を受けたんです」と大野シェフ。皿いっぱいに盛り付けられたそれはボリュームがあり、1人で食べるにはちょっと多いかも?と心配になったのですが……まったくの杞憂でした。

草香江 Syn アラカルト ラザニア

驚くほど滑らかで「溶ける!というか飲めそう!」と、思わず笑ってしまったほどのおいしさ

ひと口食べてびっくり、軽い! 丁寧に手打ちし、極薄に伸ばされた生地は外がカリッと香ばしく、中心は舌にのせると消えていきそうな儚さ。たっぷりのベシャメルソースとトマトの酸味、特製ボロネーゼのバランスも絶妙です。家庭的な優しさがありながらもどこか洗練されていて、これが世界で経験を積んだシェフのなせる技かと思わず唸りました。

このラザニアは確かにアラカルトで、1人でこの量を食べるのが正解。コースだとどうしても少量ずつの提供になってしまうため、この料理の本当のおいしさ、充足感を伝えることはできないでしょう。

草香江 Syn アラカルト リゾット

9年ほど前、愛媛県今治市の漁師・藤本純一さん(※)の漁に同行する機会を得て、そこから本格的な食材への探求が始まったという大野シェフ。生産者を訪ね、対話を重ねながら築いた絆をもとに仕入れる食材は98%が産直で、どれも“プロの本気”が伝わるものばかり。この日いただいた「千葉いすみ直送 大蛤のリゾット」(3,200円)でも、それは存分に感じられました。

※藤本純一さん=神経締めをはじめとした“魚の仕立て”の第一人者。「ゴ・エ・ミヨ2021」ではテロワール賞を受賞し、トップシェフを魅了する魚の名匠

草香江 Syn アラカルト リゾット

大蛤は肉厚!宮崎県産の無農薬シブレットのオイルの青味が良いアクセントに

注文ごとにカルナローリ米を生米の状態から炒って作るリゾットは、折り目正しいアルデンテ。バターとチーズを使わずに仕上げており、大蛤の力強い滋味と上品な潮の香りが豊かに感じられます。

“シンプルさの美学”を感じるデザートも

草香江 Syn アラカルト デザート

ブティックパティスリー出身のなみちゃん、このナッペ(クリームを塗る作業)の美しさはさすがの一言! 

そして、アラカルトデーのもう一つの愉しみ、デザートも忘れてはいけません。10月に自身2回目のデザートコースを開催し、腕に磨きをかけているパティシエ・なみちゃん。アラカルトデーでは、普段のコースで食べられないショートケーキがお目見えします。果物は季節によって変わり、この日は「四世同堂」とのコラボを通して出合ったという「屋久島マンゴーのしょーとけーき」(1,200円)でした。

草香江 Syn アラカルト ケーキ
草香江 Syn アラカルト ケーキ

屋久島マンゴーは、爽やかな香りとくどさのない甘味が格別。装飾をあえて省き、大牟田・オーム乳業の生クリームを使ったピュアなクレームシャンティときめ細やかで口溶けの良いジェノワーズ生地のみで、果物のおいしさを引き立てているところにグッときます。

ワイン、クラフトビール、日本酒といったお酒だけでなく、特製のノンアルカクテル、ティードリンクも用意されているので、優雅なティータイムを過ごすこともできますよ。

未だ知らざる美味を求め、旅に出よう――

草香江 Syn 店内

「アラカルトデーは、僕たちがいつもとは違う料理を本気で楽しむ場であり、間口を広げたくさんの方々と交流したいと始めたものです。時間に制限のある方やご近所の方、ガストロノミーフレンチ、イノベーティブといったジャンルに馴染みがないという方も、これをきっかけに『Syn』に親んでもらえたら嬉しいです」と大野シェフ。

確かにこのアラカルトデーは、“オフの日のシェフが他ジャンルの料理を本気で作る!”そんな特別感を感じるひと時でした。11月のアラカルトデーはお休みで、12月は未定、年明け1/2(金)、3(土)に新年アラカルトデーを開催予定だそうなので、インスタグラムのストーリーを見逃さずにチェックして、ぜひ出かけてみてください。

店舗名

Syn(シン)(店舗写真

ジャンル

  • フランス料理
  • その他レストラン

住所

福岡市中央区草香江1-5-22 大濠ガーデンBFビル4F

電話番号

092-710-0152(コースは完全予約制)

営業時間

18:00または18:30〜一斉スタート(アラカルトは月2回不定営業 14:00ごろ〜OS21:00ごろ)

定休日

月曜、その他不定休あり

席数

  • カウンター8席

個室

なし

メニュー

ディナーコース「Cuisine Voyages」27,300円、アルコールペアリング16,500円、ノンアルコールペアリング(2日前13時までの予約制)12,000円 ※サービス料10%

喫煙について

禁煙
  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。

記事に関する諸注意

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