人気イタリアン「Cernia」が今泉から姿を消して早いものですでに4ヵ月が経ちました。「Cernia」があった場所にはすでに別の店ができましたが、ほぼそのままの内装なだけに前を通るたびに懐かしく感じます。
以前「UMAGA」にも掲載したように「Cernia」は田主丸に移転し4月にリスタートしました。
当時の取材のときにオーナーシェフの畑 亮太郎さんも「いずれ店の隅で家庭菜園をやるくらいはイメージしてましたけど、まさかトラクターを運転するようになるとは思ってもみませんでしたね(笑)」と言ってましたが、まさに名字が名字なだけに、いつしか畑にのめりこみ、店の隅で畑をやるのではなく、畑の側に店を移して理想のカタチを叶えつつあります。
そんな新生「Cernia」には、当事者の畑さんも想像しなかったほどお客さんがやってきています。正直、私も糸島や宗像などの店を多数みてきて、「平日とか夜は大丈夫かな」なんてことを思ったりしてましたが、その予想はいい方向に大はずれとなりました。最近はほぼ1ヵ月くらい昼も夜もほぼ満席のようなので、4月のプレオープン以来なかなか訪問できていませんでしたが、6月の下旬にようやくお邪魔できました。
この日もプレのとき同様いいお天気で、店に向かうときは耳納連山が青い空に映え、また店の裏手にある駐車場に車を止めると、逆側の平野部分が広がるなかに佇む、真っ白でかわいい店舗。単なる会食ではなく、「旅」感が気分をアゲてくれます。
店内に入っていくと以前とは比べものにならないくらいゆったりとしたキッチンがあります。これは今泉時代より断然仕事がしやすいでしょう。ゆとりあるキッチンスペースというのは料理人にとってはとても大事なことです。前の4、5倍はありそうな今回のキッチンはシェフをはじめ、スタッフが余裕をもって働ける快適な環境といえるでしょう。
それはキッチンだけでなく、ホールもそうです。ゆったり配されたテーブル、そして席間も以前とは段違いの広さです。お客さんも落ち着けますし、スタッフも気持ちよく動けて、物理的にも精神的にも余裕が生まれるのは間違いありません。また、どのテーブルからも屋外に広がる眺望を楽しめるのも最高です。
今泉では夜のみの営業でメニューはアラカルトでしたが、今はコース料理で昼も夜も営業しています。メニューは昼も夜も同じで4400円と7700円という2つのコース。私たちはちょっと奮発して7700円のコースにしました。
ご承知のように、今回の移転の大きな理由は自分たちで育てた新鮮野菜を提供するということです。テーブルには「プレア・パン・前菜2皿・サラダ……」というように、本日のコースの流れが書かれたものと「ゆむたファーム、ブリスファーム、九州グランファーム、赤司農園……」と食材を提供してくださっている生産者の方々の名前が書かれたペーパーが置かれています。こんなところにも、以前から一貫している、畑さんの生産者とその食材へのリスペクトがひしひしと伝わってきました。
すべての食材において、どういう人たちによるものかがわかっているコース料理。これこそ地方料理で知られるイタリアンの原型ともいえるのではないでしょうか。
さて、いよいよ食事が出てきました。
まずプレアが出てきました。ピューレ状にしたじゃがいもの(インカのめざめ)の下に庭でとれたハーブを忍ばせていて、それを混ぜながらいただきます。じゃがいもの甘さとディルの香りと青い苦みのハーモニーが絶妙です。
パンは自家製のフォカッチャと、同じ町内にある「シェ・サガラ」のバゲット、そして今泉時代から出していた大手門の「アルティザン」のカンパーニュの3種類。それに「Cernia」名物で、「北野エース」などでも販売されている自家製イチジクバターが添えられています。
実はきょうのメンバーのなかの1人は「シェ・サガラ」の相良さんなんです。毎日納品に来ているそうですが、きょうは席に座ってゆっくりと食事を楽しみます。
1つ目の前菜は「耳納のお皿」と称した耳納連山の麓で獲れた野菜による料理の盛り合わせです。ズッキーニのフリット、ウリのピクルス、豆のオムレツ、トマトとパンを煮込んで冷やしたもの、ニンジンのサラダというラインナップ。最初から地の野菜のオンパレードです。畑さんに自身のおいしさを引き出してもらい、野菜たちも喜んでいる気がしました。
次の前菜はボイルしたアスパラガス。ソースは畑さんの農業の師匠でもある「ゆむたファーム」の玉子をベースにしたものです。そして、このアスパラガスは以前の「Cernia」のすぐ近くだった「café sones」のスタッフだった波戸崎 孝さんが、大分で育てたものです。そんな福岡飲食業界のご縁を感じられるのもなんだか嬉しくなります。
次は畑さんたちが育てた野菜を使ったサラダとヤリイカです。まさに畑をそのまま持ってきたような、10種類くらいの野菜を味わえました。
そして次はイタリアのクレープ、クレスペッレ。クレープの香ばしさと鹿児島の「コトブキチーズ」から仕入れたスカモルツァの香り、濃厚な味がたまりません。
肉料理は3種類のなかから仔羊を選びました。「Cernia」ではおなじみ、島原の鳥田さんが育てているものを一頭買いしています。この仔羊、最近は東京のレストランでも使われ、引っ張りだこのようで、なかなか安定して仕入れられない稀少品です。
パスタも3種類から。そして量も選べます。1人ずつ「私はちょっとだけ」とか「ぼくは50g」くらいというようにお願いします。コース終盤ともなると満腹具合が各人違いますから、嬉しいサービスですよね。
私たちが選んだのは白身魚とツルムラサキのリングイネ。私がリングイネ好きなもので。ホウボウの出汁を使っていました。そう、生産者へのリスペクトが強い料理人は皆、野菜も魚も肉も、食材を使い切るんですよね。
デザートは2種類から桃のスープをチョイス。これまた「Cernia」ではおなじみ、赤司農園の桃によるスープの上に紅茶を練り込んだ薄いクッキーを飾っています。今泉時代、畑さんは赤司農園の桃を全品に使ったコースなどのイベントをやっていたほど、ここの桃や柿に惚れ込んでいるんです。
そして下に隠れているのはミントと紅茶のジェラートです。さわやかですね〜。
ドリンクはコーヒー、紅茶を選べます。コーヒーは秋月の山口さん、ハーブティーは吉井町の山下さんによるものです。
食事を終えるといつの間にか3時間を越えていてびっくりしました。それくらい楽しくておいしくて快適なディナーだったのです。ありきたりですが、まさに“時間を忘れる”体験をしました。
同じメンバーでやっているのに、前とはまったく違う「Cernia」。もちろん「違う」というのは進化したということです。畑さん自身、店は週休2日とはいえ、休日は畑作業もありますから大変だと思いますが、実に幸福そうな表情が印象的でした。この新しい「Cernia」だけでなく、この町でさまざまな出会いを大切にしながら日々過ごしているのでしょう。
お客さんは地元の人と福岡や東京の人と半々くらいだとか。近所の生産者の奥さんたちがやってきて、食事を終えると「うちはこんなのを作ってるのよ」とプレゼン大会が始まることもあるそう。そんな地域のつながりを心の底から楽しんでいるようです。
畑さんは「とんでもない」と言うでしょうが、いずれ自分のところの食材を「Cernia」をはじめとした地域の上質なお店で使ってもらうということが、地元生産者のモチベーションになり、それが地域の食材のレベルを上げていくに違いありません。そして、またお店はそれに応えるように、もっといい料理を提供していく。これって理想的な循環ですよね。
できれば季節に一度、いや、せめて半年に一度は訪れて、料理、そしてお店の変化、進化を直に感じたいものです。いや、なによりスタッフのみなさんに会いに来たい。そう思わせられました。
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店舗名
Cernia(チェルニア)(店舗写真)
ジャンル
- イタリア料理
住所
福岡県久留米市田主丸町森部1201-17
電話番号
営業時間
12:00〜入店13:00/17:30〜入店19:00(月曜は昼のみ)
定休日
火・水曜
席数
- テーブル22席
個室
なし
メニュー
おまかせコース4,400円・7,700円〜
喫煙について
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
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