グランドメゾン presents 「ハレの日レストラン」【第31回】
京都の高級食材を用いて生みだす、淡麗な日本料理の魅惑
この日本料理店から連想する言葉を一つ挙げるなら、それは“透明感”です。過剰に飾ることなく、食材とひたむきに向き合い、その奥にひそむ美味に光を当てること。そんな真摯な仕事の果てに、きわめて純度の高い輝きが生まれ、器全体を埋め尽くす──「井本」の料理には、そうした力が確かに宿っています。
城南線と浄水通に挟まれた、静かな一画に佇む「井本」。扉を開けると10席のL字型カウンターがあり、その奥で店主の井本達也さんが迎えてくれました。カウンターのブラックチェリーと、京都・深草の土壁が温もりを放つ内装も好ましいシンプルさです。
井本さんは、京都の「はな邑」や「祇園川上」で7年研鑽した和の職人。2015年にこの店を構えると、5年目にはミシュランの2つ星を獲得しました。自身の目指す“日本料理の美”を突き詰めた、27,500円の月替わりコースを求めて遠くは香港、シンガポールから訪れるグルマンもいるのだそう。
そんな36歳の店主の哲学は、京野菜のすぐきを風呂吹きにした1品目から窺えました。「福岡だと大根かカブを使いがちな料理ですが、すぐきの方がより味が濃いんです」と井本さん。昆布出汁と鯛の骨で取った出汁で炊き、白味噌などで練った鯛味噌を乗せて仕上げたものです。淡く、それでいて確かな旨味のある出汁が、鯛味噌と絡んだ瞬間のたおやかな味わいときたら──。そう、この淡さの中から立ち昇る、優雅で懐かしき旨味との出会いこそ「井本」の真骨頂なのです。
続いては、2皿に分けたお造りが順次登場。最初は京都から仕入れた明石の鯛で、井本さんいわく「熟練した魚屋さんが締めてくれるので、身がコリッとしてても旨味が強いですね」。甲殻類に似たニュアンスの風味も印象的で、これも明石産ならではの魅力とか。
2皿目の天然フグは、高温の油に通して氷水で締めた珍しい“たたき”スタイル。シコシコとした分厚い身は文句なしの弾力で、その甘さを辛味大根がさらに膨らませます。フグ本来の旨味が詰まった身皮もたっぷり乗っていましたよ。
雪化粧を施して、冬の訪れを告げる焼物には赤むつを使用。裏ごしした百合根の“雪”を、赤むつと一緒に食すと思わぬ舌触りが広がります。赤むつの脂が百合根のタンパク質で中和され、滑らかな食感が生まれるのだそう。赤むつの脂が完璧に乗り切った「今日この日にしか味わえない」逸品でした。
このように、井本さんはほとんどの食材を京都から取り寄せます。「柳橋や長浜の市場が近いのに」と不思議に思い尋ねると、明快な答えが返ってきました。
「素晴らしい料理店が集まる京都には、自然と優れた食材が集まります。もちろん業者さんも目利きの厳しいプロばかり。だから最高級の食材を安定して仕入れるには、京都と付き合うのが一番なんです」
また、江戸期の金沢・大樋焼を始め、先ほどから料理を彩るクラシックな器も気になりました。これも信頼を置く京都の古美術商から買い付けており、食材同様、しっかり意味や物語のある器だけが選ばれます。骨董ファンにも眼福のひとときになるのでは?
この日のお椀は松葉蟹の真薯で、器もそれに合わせた松葉づくし。真薯の具材はほとんどカニのみで、少々つなぎを加えた程度です。これをほぐし、繊細な出汁で口に流し込むと、カニの塩分で膨らんだ淡麗な旨味が駆け抜けました。
淡さとうまさのギリギリの融合を目指し、もっと澄んだ味を食材から引き出せないか──そんな境地に挑む、井本さんの信念を感じた一杯です。
そして最後を飾る10品目は、井本さんが「満足の仕上がりです」と微笑む天然フグの炊き込みご飯。備長炭で焼いたフグの骨と鰹で出汁を取り、頭とカマのほぐし身を土鍋で炊いた秀作です。これまで様々な土鍋ご飯を食べましたが、これほど優しく広がる味わいは格別。3度もお代わりした食欲が、それを雄弁に物語っています。
なのに食後の余韻は快く、店を出てからの足取りも来店前よりずっと軽やか。これもきっと、“透明感”の副産物なのでしょう。厳選された旬食材の、極上の上澄みだけを堪能するという極めつけの贅沢。「井本」に来れば、いつだってその悦楽に浸れるのです。
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
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店舗名
井本(店舗写真)
ジャンル
- 日本料理
住所
福岡中央区薬院4-15-29香ビル1F
電話番号
営業時間
12:00〜入店13:00/17:00〜入店20:30
定休日
不定
席数
- カウンター10席
個室
なし
メニュー
おまかせコース27,500円
喫煙について
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- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
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