店主入魂の出汁を堪能する、五臓六腑に染み渡る鴨鍋

自慢の蕎麦つゆの出汁は、昆布と干椎茸の粉末を煮詰め、最後に枕崎の厚削りの鰹節を加えたもの。かえしに関東で一番古い醤油店「キッコーゴ丸大豆醤油」のキリッと辛めの醤油を合わせています。「日本酒とアテを楽しんで、シメに蕎麦を味わう場合、蕎麦をつゆにしっかりつけて味わう方が多いんです。そうすると九州らしい甘いつゆでは飽きてしまうので、やや関東の辛めの味に寄せています」と牧野さん。

その蕎麦つゆをアレンジした出汁で鴨を楽しめる「鴨しゃぶコース」（１人前5,500円／写真は２人前）は、10〜3月の限定メニュー。小鉢、お造り、焼物、鴨しゃぶ、シメのそばという内容です。

まず、コースで味わえる刺身３点。生まぐろはのり醤油、アラは塩とカボス、サワラは酢味噌など、魚に合わせた味わい方で楽しめるよう、あえて一つの皿ではなく、別皿に分けて提供されています。

柳橋連合市場で仕入れたての魚は新鮮そのものです。焼物は、冬はカマスサワラなどの旬魚を味わえます。

そしてど〜ん！と鍋の具材が登場。肉厚の椎茸、ゴボウ、九条ねぎ、クレソン、エノキ、シメジ、焼き豆腐、京あげなど盛り沢山！　こちらも柳橋連合市場や八女の直売所などから、瑞々しく力強い味わいの食材を集めています。

そしてお待ちかねの鴨肉がお目見え！ 使用するのは、広大な自然の中で育てられた、青森産の鴨。くさみがなくさっぱりとしていて食べやすいと評判だそう。出汁と鴨肉の旨みのバランスを考慮し、薄くスライスされた肉をしゃぶしゃぶスタイルでいただきます。

鍋から立ち上る、香り高い湯気にもご馳走感を感じてしまいます（笑）。鴨肉を軽〜く３、4回出汁にくぐらせればもう食べ頃です！　

柔らかい鴨肉は、あっさりさっぱりとした味わい。噛むと鴨独特の風味がほのかに広がっていくのを楽しめます。爽やかなクレソンの辛みも程よいアクセントになっていて、思わず夢中になって、食べ進めてしまいました。

コースの締めくくりは温かい二八蕎麦。一旦鍋を下げて、鴨鍋の旨みが凝縮した鍋のだしを、打ちたての蕎麦にかけて出してくれます。丁寧に引いた出汁に、鴨はもちろん、ゴボウ、揚げなどしっかり味が出る具材の旨みが調和し、風味も甘みもググッと増して、思わず「く〜ッ！」とため息がもれる、五臓六腑に染み渡る美味しさです。

蕎麦粉は、店の蕎麦つゆに合うものを探し求め、より香ばしさのある鹿児島の「鹿屋在来」と出会ったという牧野さん。季節やメニューによって北海道や長野、福井など産地を使い分けつつも、メインは鹿児島産を使用。蕎麦を打つ時に使う水にも、同じく鹿児島の垂水市の温泉水をセレクト。「某鮨店の大将がシャリを炊くのに使っていて、おすすめしてもらったのが使い始めたきっかけです」。超軟水のため、きめ細やかでなめらかな蕎麦に仕上がっていて、甘辛のだしとよく絡みツルッといただけました。

牧野さん渾身の出汁が生きた鴨鍋と選び抜いた日本酒、アテ、そして蕎麦……。この冬は、「まき野」の「鴨しゃぶコース」で口福な時間をとことん噛み締めてみては？