今や芸能人も訪れる有名店 「ウエスト」の運命を変えた大改革

福岡で圧倒的な人気を誇るうどんチェーン店「ウエスト」。その知名度は全国的に広がりコンサートやイベントで福岡を訪れる芸能人までこぞってこのチェーン店を訪れる。　1号店は１９６６年、福岡県福間町（現・福津市）の幹線道路沿いにオープンした。なぜ、そんな郊外を出店場所に選んだのか。
創業者・境豊作さんはアメリカで訪れたレストランに着想を得て、日本でもロードサイド型の飲食店が流行るに違いないと見込んだ。その読みは的中し、モータリゼーションが進む日本においても車で乗り付けるスタイルのレストラン「ウエスト」は大盛況となった。
翌年には佐賀県基山町（現・基山市）に2号店をオープン。開店候補地を購入する際、地権者との交渉が難航し、予定していた広さの10倍の土地を購入することに。それは社内の誰もが予期せぬ出来事だった。レストランだけではもてあますため和食店や中華料理店も取り入れた複合的な飲食施設を開店。それが「味の街 ウエスト」誕生のきっかけである。

当時、福岡の外食シーンでは「ロイヤル」が人気を博していた。そんな中、「ウエスト」ではシェフを雇わずに〝美味しいもの〟を提供できる「焼肉」や「うどん」に注力（当初、うどんは立ち食いだった）。１９７２年には２４時間営業をスタートし、着実に支持を集めていった。
「ウエスト」のうどん大改革が起きたのは１９９９年のことである。その頃、調理方法は各店舗によってさまざまで、手打ちをしている店もあれば茹でおき麺を使ってる店もあり、ダシの取り方も店長の采配によった。
アメリカで狂牛病が発生した影響を受け、焼肉よりうどんに力を入れようと麺やダシ、トッピングとなる天ぷらの美味しさを追求。それまで各店舗に任せていたダシを均一化し、冷凍麺にシフトした。
１９９９年、この大改革によって全店舗であじ子のはらわたを手で取り除き、絹の袋に入れて釜で湯がいてダシを取るというスタイルが確立され、やがて展開していくうちに干物を粉砕して袋に入れた自社製のパックを活用することになった。　
麺は手打ちをしている店舗もあったが、できたては美味しくとも深夜になれば味が落ちてしまう。どんな時間帯でもどの店舗でも変わらず「表面がつるつる、中がもちもち」の麺を提供できるようにと「ウエスト」仕様の冷凍麺を開発したのだ。

今もファンを虜にする「揚げたての天ぷら」を導入したのもこの時期である。当時のうどん店では、揚げおきした天ぷらをうどんにのせるスタイルが主流だったが、「揚げたてのほうが絶対に美味しい」と改革を実行。提供時間は長くかかるうえに注文を受けてからの作業になるため現場からの抵抗は少なくなかったが、客からの評判が良くなるにつれ全店舗で定着していった。その後、「丸天」や「かき揚げ」も揚げたてにしようと内部から声が挙がり改革は順調に進んだ。博多うどんの定番トッピングの一つ「丸天」は、当初は半生を仕入れ、注文を受けた後に揚げて提供していた。現在は事前に半分揚げられたものを仕入れて提供前に揚げ直している。アツアツの丸天にかぶりつくと熱すぎるため、必ず注文時に「カットしますか」と聞かれるのも福岡ならではの光景だ。
さて、そもそも「ウエスト」のうどんは〝博多のうどん〟なのか。株式会社ウエスト常務取締役（取材時）の萩正春さんはこう語る。「元来、博多うどんと言われるのは茹でおきのやわらかい麺ですが、『ウエスト』のうどんは若干硬めです。つるつる、もちもち。それが『ウエスト』の麺の基本なんです。博多うどんかどうか。そこは問題にしていません。お客さまが自分の好きな食べ方を発見して、楽しめること。それがこの店の魅力です。私は腹が減っているときは肉うどんとカツ丼を頼むことが多いかな。あとは季節ものも良いんだよね。カレーなんかもそばで食べるといけるんです。冷たいおろしぶっかけにイカ天をトッピングすると贅沢感があるし」（萩さん）　今や九州を中心に２００店舗（２０１９年当時）を出店している巨大チェーン。創業者・境豊作さんは新規出店の際には必ず現地を訪れ、自ら視察をしたという。　あるとき、福岡市内の出店候補地を視察した際に２００mほど先に若い夫婦が営むうどん店があった。若奥さんのお腹が大きいことを察し、その場で出店を取りやめたという。後にその店舗を訪れた際に高校生くらいの女の子が店を手伝っている姿を見て「あのときの判断は間違っていなかった」と確信したというエピソードが残っている。

【株式会社ウエスト】
☎ ０９２-５８２-３９１１（代）　　

この記事は「福岡グルメトリビア〜ン」（2020年・聞平堂刊）から転載させていただきました。
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