リレーエッセイ「トマトラーメン三味のここが凄い!」

水巻町を起点に始まった“三味”一体の地方創生

公開日

ライター上村敏行

カメラマン上村敏行

三味水巻店 海鮮トマトラーメン

遠賀郡水巻町

元祖トマトラーメンと辛めんの店 三味(333)水巻みどりんぱぁーく店

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それにしても、遠賀川(おんががわ)は雄大だ。福岡県の筑豊地方から北九州市、遠賀郡などに渡り7市14町1村を流れる一級河川。陽光に輝く広々とした川面、河川敷の深い緑を横目に走る初夏ドライブはとても気持ちがいい。しかし、今旅の第一の目的は、なにも車窓に広がるこの大河の景観ではない(も、素敵だけれど)。

筆者は、風光明媚なここ遠賀郡・水巻町(みずまきまち)にズバリ「ラーメンを食べにきた」のである。

遠賀川

「元祖トマトラーメンと辛めんの店 三味(333)」の魅力を、福岡のグルメライターがリレー形式で深堀りしていく本企画。今回は私、ラーメンライター上村が「元祖トマトラーメンと辛めんの店 三味 水巻みどりんぱぁーく店」(下写真)を舞台にお届けする。
「天神大名本店」を皮切りに現在直営8店舗を展開。来たる8月1日(金)には9店舗目「照葉スパリゾート24時間営業店」のオープンも控え、ネクストで佐賀や長崎など県からのラブコールにも応えようとしている「三味」。破竹の勢いで拡大し、GoogleのPV数はグループ全体で1か月に300〜400万PVをも誇る超メジャー店につき、既にドハマリしているファンや、未体験でもウワサを耳にしたことがあるという方で大半を占めるのでないか。皆の身近にもきっとある「三味」の系列店の中でも特に、2018年5店舗目の出店となった「水巻みどりんぱぁーく店」がキーとなる場所だと筆者は感じている。なぜなら水巻町の業態にはより明確に「地方創生」「行政との連携」「ラーメンにおいてのSDGs」「そして世界へ」という「三味」の本質的なビジョンが表れ、もっというと「トマトラーメンがもつ無限の可能性」を感じることができるからだ。

三味水巻店外観

「水巻町での三味物語」といく前に、まずはラーメンライターとして広い意味での「トマトラーメン」について解説しておく。“トマトラーメン”と聞くと、どんなイメージをもつだろう。「ヘルシーで体に優しそう」「女子ウケしそう」「小さな子供も食べられそう」「食後の罪悪感がなさそう」「スープパスタみたいなもの?」。他にも思い浮かぶことがあるかもしれないが、それらはおおむねYESだ。

しかしながら、ひと言で表現される「トマトラーメン」の中にもさまざまなタイプがあることを覚えていてほしい。例えば、スープのベースがどっしりとした肉系のいわゆるトマ豚骨または、すべて植物由来の“正真正銘の非豚骨”トマトラーメン。そして合わせる油やスープ濃度・粘度、麺の太さ・形状、具材の違い、もっと根本的な部分でいうと温か冷製かということもある。“イタリアンを連想させるトマトの爽やかな酸味”という点は共通であるが、では「スープパスタ」ライクな面もありながら、しっかりと「ラーメンと認識される」のはなぜか。

それは当然、ラーメンの麺(かん水の入った中華麺)だからが第一。そして油や醤油で表現される“ラーメンらしいパンチ”の部分も大きい。さらに意外と、ラーメン丼に盛り、箸とレンゲで食べるという行為そのものも“ラーメン寄り”に認識される一因とも考える。それらをふまえ「三味」のラーメンスペックを見てみよう。スープの素材は野菜ブイヨンにその他フレッシュな野菜出汁、トマト、仕上げ油のオリーブオイルが主。“パンチ”の部分は、ラードなどで加える店もあるが「三味」のスープ自体はすべて植物性で仕上げてあり(辛めんは鶏ガラ入り)、焦がしニンニクオイル+醤油ダレ(カエシ)で豊かなコク、香りを添える。さらりとしているが甘味、塩気、酸味、具材の旨味が渾然一体となり幾重にも広がる“美味”があるのだ。しなやかなストレート麺にフレッシュトマトの粒がいいあんばいで絡みつくのもポイント(下写真「水巻みどりんぱぁーく店」限定の「海鮮トマトラーメン」)。

海鮮トマトラーメン麺持ち

ここで声を大にして伝えねばならないのは、トマトラーメンは各地に少なからずあるが「元祖トマトラーメン」と掲げられるのは商標をとっている「三味」だけだということだ。熱心なラーメンファンの中には、あの店がもっと古いとか、あれが正攻法だ、これは亜流だなど、いろいろと持論がある方もいると思うし、筆者もその気持ちはわかる。しかし、老若男女、国籍も問わずこれだけ多くを集客し“博多の新名物”としてトマトラーメンの間口を広げてきた「三味」の功績はもっと称えるべきだ。何より安くてうまい。そして、代表取締役の宮下将司さん(下写真)の圧倒的熱量と“元祖トマトラーメン”をいち早く取りにいった先見の明、隙のない経営戦略には本当に舌を巻く。「時代がようやく三味に追いついてきた」。宮下さんの人となりの紹介と合わせ、水巻町に話を戻そう。

三味宮下社長

宮下さんの経歴や「三味」の屋号の由来などは、UMAGAバックナンバー「低価格戦略の中で成長を続ける「元祖トマトラーメンと辛麺と元祖トマトもつ鍋 三味(333)」の宮下社長」にも詳しくあるので読んでもらいたいが、ここではオープンから見てきた筆者的な宮下さんの印象を素直に述べる。それは「別次元からやってきたラーメン店経営者」であるということ。そう、明らかに毛色が違う。宮下さんは久留米工業高等専門学校に通い、材料工学科の巨匠・重松浩氣氏に師事。学生時代、同氏と渡米した経験ももつ。卒業後二十歳で起業し宝石販売、健康食品の通販事業から手掛け、後に不動産投資の世界へ。本人曰く“生き馬の目を抜く”ようなツワモノの中で勝ち続けてきただけに、飲食店経営者としてもすべての言動が自信に満ち溢れている。

「僕は宇宙でも、深海にでもお客さんを呼びますよ」と笑いながら宮下さんはサラリと言う。この人なら繁盛店を作るのは造作のないことかもしれない。某有名社長のように本当に宇宙にまで行ってしまうのではないか。そう感じさせるようなカリスマ性があるのだ。

飲食店、行政、地元民の思いが心地よく溶け合う三味一体の町おこし

そんな宮下社長が率いる「三味」と「水巻町」との物語は2018年「みどりんぱぁーく」を起点としたシティプロモーション事業から始まる。全国の見本となるような現在の“飲食店と行政の理想の連携”はどのようにして生まれたのか。取材時に店に駆けつけてくれた水巻町産業環境課産業振興係の長﨑寛人さんはこう振り返る(下写真左から水巻町企画課課長補佐企画係長兼務の桂和成さん、宮下社長、上記・長﨑寛人さん、三味アンバサダーのmaiさん、水巻町企画課企画係の木下颯太さん)。

水巻町職員と

「過疎化が進む各地方と同じく水巻町も観光客誘致、地域振興が長年かかえる課題です。福岡から北九州への通り道というイメージを払拭するべく“滞在して”楽しんでいただくまちづくりをこれまで進めてきました。そして2018年当時、特に加速した地方創生事業の一貫で完成したのが「みどりんぱぁーく」に隣接する当施設『水巻町周遊拠点施設(ICOTTO!MIZUMAKI)』です。オープンに伴い出店テナントを公募したのですが、ほとんどの飲食店さんが周辺環境から集客が難しいと判断し辞退。そんな中、視察にこられた宮下社長だけは、力強くひと言『やりましょう』と」。

「まわりに人がいない? じゃあ、集めればいいじゃないか」。宮下さんの考えはシンプルだ。それほど「三味」の業態は、どこでも通用するという確信めいたものがあった。「一度食べてもらえれば、必ずハマっていただける」「勝つまでやり続ける」。他系列店の開業時と同様に宮下さんがまず行ったのは、グランドオープンから3日間の無料提供。その様子を目の当たりにした水巻町の長﨑さんは度肝を抜かれた。

「町内では見たことのない、信じられない行列。本来1日333杯限定だったのですが予想をはるかに上回る長蛇の列ができていて、宮下社長はそのほとんどの方にふるまいました。結果1日1000杯近くを無料提供したのではと記憶しています。採算は大丈夫ですか? と、こちらが心配するぐらい。にぎわう店内では、年配の方、小さなお子さんを連れたファミリーなど、馴染みの顔の方々も含めおいしそうに笑顔でトマトラーメンを食べていました。『このラーメンは本当に凄い』と実感した瞬間でしたね」と長﨑さん。ちなみに「三味」の心意気を象徴するような現サービス「町民割引」(トマトラーメン680円が、ずっと390円)は、水巻町町長の美浦喜明さん(下写真)の「水巻町を大いに盛り上げるべく頑張ってほしい」とのエールを受け、同町で宮下社長が始めたものだ。あまりに“嬉しすぎる”サービスのため他地域でも要望する声が噴出。後に他エリアの系列店にも広がることとなる。さらには「学割」もあるのだが、特記すべきは「キャナルシティ博多ラーメンスタジアム店」でもこのサービスが通常営業時も当たり前のように適用されていること。フードテーマパークでそれら地方に向けて、さらに学割があるというのは筆者が知る限り他に類を見ない。

水巻町町長

「三味」が行ってきた、これらラーメンの“無料のバラマキ”や“ずっと半額”のようなサービスはぶっちゃけ、諸刃の剣的なところもある。つまり、無料で食べられたからもういいや、という思考になりがちだったり、割引された値段が当たり前となり、ありがたみがなくなってしまうのではないかとも思ってしまう。そのあたりについて宮下さんはどう考えているのか。

「地域密着で、ジモトの方に喜んでいただくことが第一。粘り強くやれば、その思いは必ず伝わるんです。現に水巻町の数字も伸び続けています。無料で食べられた方はリピーターになってくれ、町民割を使ってくださる方も、観光の方も増え続けているんですよね。『みどりんぱぁーく店』の開業からこれまで、約6年8ヶ月のGoogleのPV数は450〜500万PV。人口2万8000人の町がこれだけ注目され、交流人口も上昇しています。Google検索にて【水巻 スペース】で検索してみてください。予測変換の1番目は“水巻 温泉”次に“水巻 ランチ”そして3番目が“水巻 トマトラーメン”。“水巻 天気”には勝っています」と笑う宮下さん。

水巻店の行列

“水巻のでかにんにく”を使った「水巻トマトラーメン」の完成

「三味」と「水巻町」との結びつきをより強固にしたものがもう一つ。それが町の特産品「水巻のでかにんにく」の存在だ。

遠賀川がもたらす肥沃な土壌が広がる水巻町は古くから稲作が盛んで、その休耕田を利用し平成17年に始まったがニンニク栽培。「水巻のでかにんにく」としてブランド化されている。一般的なニンニクは水はけの良い土壌が適しているとされるが、町で栽培するジャンボニンニクにおいては比較的水持ちの良い土壌を好むという。さらに水田に有機物を混ぜ込むなど土壌改良も重ね“どデカい”ニンニクが安定して育つようになった。大きいものでは1玉800gもある。宮下社長はこの「水巻のでかにんにく」に着目した。

水巻でかにんにく収穫

「トマトラーメンは土産用スープの展開も含め、地域の野菜や特産品とも相性が良いと思っています。トマトそのものは数量確保、コスト面から地産地消はまだまだハードルが高いですが、その一歩として『水巻のでかにんにく』を採用しました。自社のセントラルキッチンでニンニクオイルへと加工。スープの香りがグンとよくなりましたね。現在、全店舗に取り入れています」と宮下社長。

その言葉を受けて水巻町の長﨑さんは「『水巻のでかにんにく』も他の野菜と同じくどうしても、大きさ、形状が規格外のものが出てしまうんです。『三味』さんはそれを一手に買い取ってくれるんですから、我々としても、生産者からしてもありがたい限り。例年5月から始まるニンニクの収穫時期には、ガーリックオイルだけでなく、『水巻のでかニンニク』を丸1個ゴロリと入れたトマトラーメンもぜひ創作してほしいですね。そのために協力は惜しみません」と感謝を込めて話してくれた。

確かにトマトスープは汎用性があり、さまざまな食材と相性が良さそうだ。昨今注目される“持続可能な”“フードロスを減らす”観点にもとてもマッチしている。各地の特産品とコラボレーションしたり、持ち帰りスープを使って、冷蔵庫に残った野菜などで“我が家のトマトラーメン&トマト鍋”が生まれていくなど、無限に広がる可能性を秘めている。これは、筆者が常日頃“民主化”を訴えているチャンポンがもつポテンシャルにも通じる感覚。そして「三味」の一杯は、もともとが植物由来のヘルシーなラーメンだ。世界各地でヴィーガンラーメンという展開もあるだろう。

取材を終えて、筆者はラーメンライターとして「元祖トマトラーメンと辛めんの店 三味(333)」の動向をオープン時から見てきたし、それ以前の九州におけるトマトラーメンについても精通しているつもりだ。正直、出てきた当初は「ラーメン業界に現れた黒船」的に斜に構えているところはあった。

しかし今回、数年ぶりに同店のトマトラーメンを啜り、宮下さんともいろいろと昔の答え合わせをするなかで認識を改めた。振り返ってみると宮下さんの主張は一貫しているし、トマトラーメンのコンセプトも変わっていない。ただただ「地域密着で三世代愛される店」を目指して1歩ずつ進むなか、時代がトマトラーメンの魅力に気づき始めたのだ。安くてうまくて、そしてヘルシー。それでいいじゃないかと。

取材から帰った夜、お土産でいただいた「三味」の持ち帰りスープを使い、筆者の住んでいる糸島の野菜をたっぷり入れてトマト鍋(下写真)を作ってみた。普段、野菜をあまり食べたがらない息子がうまい、うまい!とバクバク。それが答えなのだ。

「三味」はこの土産スープを突破口にアメリカ進出も視野に入れている。世界全大陸の人が当たり前のようにトマトラーメンを啜る日が来るかもしれない。

持ち帰りスープを使った自宅鍋

店舗名

元祖トマトラーメンと辛めんの店 三味(333)水巻みどりんぱぁーく店(店舗写真

ジャンル

  • ラーメン

住所

福岡県遠賀郡水巻町猪熊1-9-19

電話番号

093-202-3334

営業時間

10:30〜22:00

定休日

なし

席数

  • テーブル50席

メニュー

元祖トマトラーメン680円(町民割390円)、味噌辛麺(0or小辛)720円、中辛770円、大辛820円、シメのチーズリゾット300円、元祖トマトもつ鍋1人前1,100円、2人前2,200円、お土産トマトラーメン3食1,000円

喫煙について

禁煙
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