万太郎の喫茶と定食ノスタルジア【15】
春日市に開業して5年半「アジア料理ヤミーメコン」脇川恒一さんの音楽と旅とタイ料理
公開日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
春日市
アジア料理ヤミーメコン
上野万太郎
ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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はじめに
以前「UMAGA」でご紹介した「旅するクーネル」の井上ヨシオさんから、連絡が入ったのは4年ちょっと前。
「僕が昔長年一緒に働いていた後輩がアジア料理店をやってるんですよ。良かったら一回会いに行ってやってくれませんか」とのこと。
なになに、ヨシオさんが一緒に働いていた後輩をお勧めしてくるとか珍しい。そんなこんなで僕はその後輩のお店という「アジア料理ヤミーメコン」にすぐに行ってみた。店主は、福岡市内のアジア料理店や定食屋で25年働いていたという脇川恒一(わきがわ・こういち)さん。春日市の住宅街にある一軒家を改築した場所でひっそりと構えられていた。
脇川さんの生い立ち
まずは店主の脇川さんのことからご紹介しよう。昭和51年に長崎市内で生まれ、高校卒業後は諫早市にある長崎県立農業大学校へと進学したそうだ。
― 農業に興味があったんですか?
脇川さん 特に興味があったわけではないです。実際は高校生の頃から興味があった音楽バンドの活動ばかりしてましたけどね(笑)。しかし不思議なもので、当時は何気なく通った農業大学校ですが今でも同級生との交流があり、キュウリやトマト等の一般的な野菜をはじめ、最近は少しずつレモングラスやバイマックルー等の特殊なハーブも挑戦し育てて運んでくれる人もいるんです。畜産の友人もいるので将来的には長崎牛も取り扱えるようにできたらと思っています。
― 音楽に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
脇川さん 長崎の小さな小さな田舎町の漁港で育ったんです。長崎の伝統競技“ペーロン”という20人ほどが乗り込みドラや太鼓に合わせでスピードを競う船のレースが盛んで当時高校生の私も父と熱狂してました。ある時ペーロンの練習をしているとカヤックで日本一周中の若者が港でキャンプをしていたんです。ちょうど悪天候になり父がペーロンチームリーダーだったため、天気が回復するまで数日間だけ我が家に迎え入れたということがありました。その方に世界旅行の話や音楽の話しを聞いて海外や音楽に興味や憧れを持つようになったんです。
― 大学時代にそんな気持ちに火が付いたという感じですか。
脇川さん そうですね。友達とバンドを組んで音楽活動ばかりしてました。そんな頃に福岡から長崎へライブツアーでやってきたのが現在の「旅するクーネル」のヨシオさんが在籍していたバンドでした。そこからヨシオさんとつながりが出来て、情報交換やお話をさせてもらうようになったんです。
― 今思えば脇川さんの人生にとってヨシオさんはそれ以降ずっと影響を与えてくれた人になるわけですね。
脇川さん そうなりますね(笑) 大学校時代はずっとバンド活動をしていたんですが、ヨシオさんたちに刺激も受けて、俺たちも福岡に出よう!!となったんです。とにかく、その時は福岡に引っ越したくて熊本の本田技研工業の工場で期間工の仕事をしてお金を貯めて、数か月後に福岡に引っ越しました。今思うと、僕にとってヨシオさんは、音楽だけでなく、飲食業の先輩として大変尊敬する人ですし、酒を飲んでは語り合った同志のような感覚もあります。僕の人生に大きく影響を与えてくれた人になりましたね。

バンド時代の脇川さん(右) ボーカル&ギター担当
― 福岡へ引越しして活動はでどうなりましたか。
脇川さん とにかくチャンスをつかみたい!!と頑張ってました。メジャーデビューした友達もいました。そうしながらも生活するにはお金も要るのでアルバイトを探していたんです。そんな時にヨシオさんが働いていた「シャムハイダウェイ」を尋ね、本店の「ジャミンカー」を紹介してもらってアジア料理のレストランでのアルバイトが始まりました。
飲食業界へ
― 料理業界の話で言えば、そこが脇川さんにとって料理人としてのスタートだったのですね。
脇川さん そうです。下働きですが、アジア料理の世界に触れた最初の店でした。とにかく何もかもが初めてだったので戸惑いばかりでした。まったく未経験ながら、洗い場から揚げ物、サラダ、鍋ふりまでタイ人の上司に迷惑をかけながら一通り教わりました。飲食業の楽しさを最初から味わえました。その後、「ジャミンカー」から独立した先輩のタイ料理店の立ち上げに入ったんですがその時の初代料理長がヨシオさんでした。そこから数年間一緒に働きました。

若い頃の脇川さん(左)とヨシオさん(右) その後のヨシオさんの店「クーネル食堂」時代
― そこですっかりタイ料理にハマったという感じですか。
脇川さん ハマりましたね~。将来的にはもう料理人として生きて行こうという覚悟が出来てました。「ジャミンカー」のスタッフが皆さん旅行経験が豊富で休憩時間には旅の話しを聞くのが楽しみでした。アジアを中心に海外の方もたくさん知り会いましたし、バックパッカーの人も来店が多かったので楽しかったです。刺激を受けまくった時間でした。店を通じていろんな人と出会いタイ料理店をやりたいと思うようになってましたね。
― 脇川さんも海外に行ったんですか。
脇川さん 22歳の頃から、バックパックなどで数回に分けていろいろ行きました。インド、タイ、ネパール、ベトナム、インドネシアなどに行きました。タイ料理店を開業したいという目標があったので、旅行というより明らかに勉強という気持ちでした。

バックパッカーとして世界を旅していた頃の脇川さん
― それから開業ですか。
脇川さん いえ、もう少し店舗運営やタイ料理以外の勉強もしたかったので、その後、中華料理店で1年働いて、田中田グループの「わっぱ定食堂」で15年社員として働きました。結婚もして家庭を持ったので社員という立場で修業させてもらいました。その店は歴代店長が面白くて個性的な人がたくさんいたので勉強になりましたね。そしていよいよ42歳の時に念願のタイ料理店をオープンすることになりました。

「タイ料理店ヤミーメコン」開業
春日市に「アジア料理ヤミーメコン」を開業。店名の「ヤミー」は英語の「美味しい」、「メコン」は東南アジアを南北に流れる「メコン川」からイメージをもらって、「ヤミーメコン」としたそうだ。
― ずっと福岡市中央区で飲食業に関わって来られて、春日市に開業された理由は何かありますか。
脇川さん 以前は福岡市内に住んでましたが、子育てのことを考えて妻の地元である春日市で開業しました。ゆくゆくは地元の人たちがふらりと立ち寄ってくれるような店になりたいなぁと思ってます。
― 実際、どうですか?うどん店や食堂ならば地元の方が気軽に来られるとは思うんですが、アジア料理、タイ料理となるとなかなかご近所の客層のターゲットとしては狭くなるとも思いますが。
脇川さん そうなんですよ。タイ料理専門レストランということで、やはり現在のところは、遠くからでもわざわざ来てくださるお客様が多いですね。福岡ナンバーはもちろんですが、久留米ナンバーや佐賀ナンバーも多いです。だからこそわざわざせっかくうちを目指して来てくださったのだから、ゆっくり楽しく食事時間を過ごせてもらえたら良いなぁと思うようになりました。
― そういう理由で最近はお昼からコースというかセット仕立てでサラダからメインそしてデザートまで楽しんでもらえるようなスタイルになっているんですね。
脇川さん はい、以前は単品メニュー中心だったのですが、現在は、料理やお酒はもちろんですが、会話も楽しめるような空間や場所の提供をすることを考えて前菜からデザートまで好きなものを組み合せてコース仕立てで楽しんでもらえるようなメニューを作ってます。お昼で2,000円を超えるんですが、その分内容的にはお得になってます。実験的にどうやったらお客様によろこんでもらえるかをずっと考えてますので、逆に単品メニューの日も設定してみようかなと思ってます。
「ヤミーメコン」のメニュー
現在のメニューはランチメニューとディナーメニューに分かれていますが、今回は脇川さんが特に力を入れているというランチセットをご紹介しよう。ランチセットは2,090円よりの価格設定。 選べる主菜、本日のサラダ、選べる副菜、デザート、アフタードリンクからそれぞれ好きな商品選んで組み合わせ出来るようになっている。

選べる主菜は、グリーンカレー、丸鶏のカオマンガイ、ガパオライス、トムヤムクンヌードルの中から一つ選ぶ。さらにサラダ、副菜、デザート、ドリンク付き。選択した料理により追加料金あり。
僕がいただいたのは、選べる主菜は、丸鶏のカオマンガイ。カオマンガイとは、丸鶏からさばいてしっかり茹で上げた出汁でジャスミンライスを炊き上げた旨味たっぷりの一皿。国によってはシンガポールチキンライス、海南鶏飯、海南チキンライスと呼ばれる料理だ。優しい味付けでどれだけでも食べれそう。

仕込み中の丸鶏

カオマンガイ
選べる副菜は、揚げ春巻き。本日のサラダと一緒に盛り付けられてます。奥が春巻き、手前が魚のサラダ。まあオシャレな盛付け。女性のランチ会にはもってこいの雰囲気だ。

そしてデザートは、ベトナムプリンのバニラアイス添え(+330円)を選択。ほろ苦いコーヒー味の濃厚で固めのプリン。これ、僕の大好物。ドリンクはホットコーヒー(+150円)がベトナムプリンに合うかな。珈琲豆は春日原にもお店がある「Basking Coffee」で「ヤミーメコン」の料理に合うようにブレンドしてもらっているという。合うはずだわ。

ベトナムプリンのバニラアイス添え
その他にも人気の主菜をいつくかご紹介。まずは人気のグリーンカレー。グリーンカレーってどこの店で食べてもだいたい美味しいのだけど、ここのそれは格別。青唐辛子やレモングラスを脇川さんが手作業でつぶしながらペーストから手作りしているのだ。青唐辛子が目に染みて大変な作業らしいが、既製品にない新鮮な香りが素敵。

グリーンカレー
時々イレギュラーで新しいカレーにも挑戦している脇川さん。地元の食材や旬の素材を使いながらも、現地のセオリーを大事にして奇をてらわない料理に取り組んでいるそうだ。下の写真は、以前食べたマッサマンカレー。最近はミャンマー由来のゲーンハンレーというカレーも出されていた。

マッサマンカレー
今はディナーメニューのレギュラーメニューだが、海老と春雨を専用の鍋で蒸した「クンオップウンセン」は僕も大好物。海老の出汁をしっかり吸った濃厚な旨味がたまらない。

クンオップウンセン
最後に
ー 今ではすっかり料理の道に進みましたが、今の音楽への想いはいかがでしょうか。
脇川さん 不思議と音楽人生を諦めた感覚はないですね。27歳の結婚を前にバンドメンバーそれぞれの理由で活動ができなくなりましたが、その当時の想いを大切にしています。今でも積極的に音楽活動をしている仲間が多いためそこから刺激を受ける事も多々あります。現在は店に集中するため、楽器もレコードも全て手放し、包丁に持ちかえましたがまたいつか復活できたらと思っています。
― なるほどですね。ではお店については今後はどんな将来図を描かれてますか。
脇川さん 目の前のことで精一杯ですけど、とにかく今のお客様を大切にしながらも5年、10年この場所でお店を続けていければ幸せです。出来ればもっと地元に根付いた店になりたいです。
― 開業当初は奥様と2人でお店をされてましたよね。
脇川さん はい、当初から妻にも大変苦労を掛けました。今はアルバイトスタッフを僕とで店を回していますが、いまでも妻は気をかけてくれてます。だからこれから店の内容が少しずつ変わっていくこともあるかもしれませんが、妻の想いも大事に考えていきたいと思っています。
― ご家族との夢があるとお聞きしましたが。
脇川さん 実は家族をタイに連れて行くことが夢なんです。オープン当初にそんな話をしていたんですが、コロナ禍になって話も消えてました。妻にはもちろんですが、高校生、中学生になった子供たちにも、僕が惚れ込んだタイ料理を本場で食べてもらいたいんです。いつも応援してくれる家族に対して感謝の気持ちを込めて、その夢が実現できるようお店を頑張りたいと思います。
― 素晴らしい夢ですね。是非その夢が叶うように応援してます。頑張ってください。今日はありがとうございました。

開業当初一緒に働かれていた奥様と脇川さん
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店舗名
アジア料理ヤミーメコン(店舗写真)
ジャンル
- アジア料理
住所
福岡県春日市原町2−83
電話番号
営業時間
ランチ11:30~14:00 /ディナー18:00~22:00
定休日
不定休
席数
- テーブル12席
メニュー
ランチセット2,090円より
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