今まで九州・山口を中心に200軒以上のコーヒーショップを取材してきた諫山力さんがUMAGAに寄稿してくれた、コーヒーの街・福岡のこだわりのコーヒーショップをあらためて3店ご紹介します。
1.敷かれたレールは歩かない自然体のコーヒーショップ 六本松「BASKING COFFEE」
「BASKING COFFEE」といえば、コーヒー好きなら「千早にあるあのお店」とピンとくるはず。今年7月で開業10周年を迎え、堅実にコーヒーの味わいと、時にちょっとした遊び心、そしておしゃれな雰囲気でスペシャルティコーヒーを広めてきたロースタリーです。個人的には「出しているコーヒードリンクや豆の売り方は正統派なんだけど、どこか王道ではない豆のセレクトをしたり、焙煎度合いも他店とはちょっと違う方向性だったり、普通からあえて少し外れた“脇道”のコーヒーショップ」という印象を持っています。

焙煎機はPROBAT 12キロ 半熱風式
今まで焙煎所は千早店の2階にあり、一般のお客さんは見ることができなかったのですが、2024年10月10日に系列4店舗目としてオープンした「BASKING COFFEE ropponmatsu」に焙煎所を移設したと聞き、早速お邪魔しました。

色とりどりの木のフェンスをあしらった個性的なファサード
店があるのは地下鉄六本松駅から少し北に行った場所。住宅や公園がある一角にあり、カラフルな外観が目印です。店は朝8:00 から営業し、モーニングを行っているのは系列で同店だけ。
もちろん朝食のお供は本日のコーヒー(350円)やカプチーノ(500円)、ラテ(500円)がおすすめ!コーヒー単体で楽しむなら、豆の種類と抽出方法が選べるAdventurous(550円)もぜひ。

本日のコーヒーは350円とリーズナブル
創業した10年前からデイリーで飲める味わいを大切にし、なんとなく飲んで、なんとなくおいしい、特別じゃないんだけど、これがやっぱり良い。そんなアプローチでコーヒーファンを増やしてきた「BASKING COFFEE」。福岡市中央区初の出店となる焙煎所を兼ねた六本松の店舗が、これからどんな風にこの街に根付いていくのか楽しみです。


詳しい記事はこちら → 六本松「BASKING COFFEE」
2.世界一のコーヒーは1杯1800円。高いと思うか、安いと思うか。白金「manucoffee」が問いかけるコーヒーの真価
お店で1杯1800円のコーヒーをあなたは飲みますか?おそらくほとんどの人が高すぎる、と思うはずです。ただ、コーヒーライターの私としてはぜひ一度体験してほしい!そう思うコーヒーが、「manucoffee」にてリリースされています。
「manucoffee」と聞くと、ほとんどの人がカジュアルなカフェというイメージを持つのではないでしょうか。深夜まで営業をしている大名店や春吉店では焙煎風景を目にすることがないため、かくいう私も少し前までそうでした。ただ白金に焙煎所を併設したクジラ店がオープンしてからイメージは変わり、ここ1年ほどで個人的に“推し”のロースタリーになりました。


人気メニューのマヌラテ(750円)。現在、1か月に平均1〜2トンのコーヒーを焙煎
「manucoffee」が今使っている焙煎機はアメリカの「スマートロースター」。世界的に評価が高い完全熱風式の焙煎機で、一般的にフレーバーや明るい酸を表現することが多いスペシャルティコーヒーの浅煎り〜中煎りレンジの焙煎に適しているといわれています。比較的新しいマシンだけに、ある程度機械頼りで焙煎を行うこともできますが、「manucoffee」ではここ数年、かなりアナログな焙煎に挑戦しています。それが徹底的に嗅覚から得た情報をもとに焙煎を進めていくこと。焙煎中、テストスプーンで豆の香りを確認しながら焙煎するのはセオリーですが、同店はその回数、情報の取り方が圧倒的に違うと私は感じています。

「manucoffee」では現在、オーナー・西岡さんほか女性2名の計3名体制で焙煎を行っています。そのため私もそのやり方を目にした時、「香りを指標の柱にするとその日の体調に左右されるし、一人ひとり香りの感じ方も違うだろうから誤差が生じるのでは?」と懐疑的でした。ただ、そうやって焙煎されたコーヒーを飲んでみると、焙煎士が狙って出したいと考えているフレーバーをピンポイントに感じるし、なにより香りもバランスもいい。カッピングによって的確にコーヒーの点数付けができるスキルの高さを表しているといえます。特においしいと感じさせる要因が、雑味のない透き通った味わい=クリーンカップをしっかり表現できていること。特にこのクリーンカップがここ1年、「manucoffee」において格段に上がっていると個人的には感じています。
西岡さんは「AIの進化が著しい今、過去のデータだけを頼りに焙煎をしているようではすぐに我々の仕事は機械に取って代わられる。機械ではできない味づくりをしていこうと考えると、現段階では嗅覚に頼るのが最適解」と話し、このスタイルを突き詰めています。


そんな「manucoffee」のロースタリーとしての真骨頂を体感するなら、冒頭で述べた世界トップのコーヒーを飲むことをおすすめします。とにかく一度、カップ・オブ・エクセレンス1位のコーヒーを味わってみてほしいのです。
世界一のコーヒーを取り扱うことができる店は世界的に見てもごくわずかで、当然日本国内だと超レアです。それができる「manucoffee」。そこからロースタリーとしての「manucoffee」の真価に触れてみてほしいと思います。


詳しい記事はこちら → 白金『manucoffee roasters(マヌコーヒー ロースターズ)クジラ店』
3.「誰が淹れてもおいしい」をコントロールする日本一の技術 六本松『COFFEEMAN』
今まで九州・山口を中心に200軒以上のコーヒーショップを取材してきたため、よくこんな質問をされます。
「福岡市内でおすすめの自家焙煎店はどこですか?」
質問者がフルーティーなコーヒーが好き、逆に昔ながらのビターなコーヒーをよく飲むなど、嗜好が明確であれば答えは変わってきますが、そういった方向性が特になければ、よくこう答えます。
「六本松にある『COFFEEMAN』は間違いないですよ」

定番のブレンドは「3.8」「5.0」「6.4」「7.3」の4つ。そこにシーズナルや限定ブレンドが加わる。焙煎度合いの数字が小さいほど浅煎りという意味
理由は明確で、レギュラーでラインナップしているどのブレンドもコーヒーらしさを感じられ、シンプルにおいしいから。さらに焙煎度合いは比較的幅広く、誰が淹れても安定したおいしさを表現できる。この淹れ手を選ばないというのは豆売りをメインとしたロースタリーにおいては圧倒的な強みになります。

オーナーの江口さんは2014年ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップで優勝。”二刀流”の誤植は手書きゆえのご愛嬌
さらに『COFFEEMAN』は基本的にブレンドのみで勝負。これもまたシンプルにおいしいコーヒーが飲みたいと考えている人に“間違いない”と勧められる理由の一つです。シングルオリジンでその豆の個性を存分に楽しむのも良いですが、ブレンドすることで味わいの余韻、骨格、奥行き、複雑な階層を表現することができる。個人的に飲みながら「この香りはエチオピアかな」「余韻のナッツ感はブラジルかも」といった想像をするのが好きで、ブレンドを飲むのが純粋に楽しいということもあります。なにより味わいのトータルバランスという点においてブレンドはやっぱり優秀。純粋なコーヒー好きを満足させる大きなポイントになると思っています。


2025年2月11日で9周年目を迎え、10年目という節目の年に突入した『COFFEEMAN』。江口さんは毎年何かしらのテーマを掲げており、2024年は“デカフェ”をテーマに約1年をかけて自身が納得できるデカフェを作り上げたそう。そして2025年のテーマは“遊ぼう”。
「もちろん今までも楽しみながらコーヒーと向き合ってきましたが、今年は例えば積極的にグッズを手掛けてみたり、コーヒー以外の遊び要素も増やしていこうと思っています」と江口さんは話します。
店をオープンして以来、愚直なまでにイートインのコーヒーはブレンド500円を貫き、いわゆる“映える”スイーツなども一切提供しない『COFFEEMAN』。客単価は上がりませんし、決して効率が良いやり方ではないですが、ひたすら一人ひとりのお客にしっかりと向き合い、その人に合うコーヒーを提案して続けてきました。噂を耳にして、目にして、今では日本全国はもちろん海外から「福岡に来たら必ず足を運ぼうと思っていました」という“目的を持った”来店が相当あるそうです。そんなエピソードを聞いて感じるのが、やはり真摯に堅実に目の前のことと向き合い、しっかりとした土台を築くことがどれだけ大切かということ。コーヒーを味わうだけじゃなく、そんな姿勢に注目してみてもおもしろいロースタリーです。

ブレンドコーヒーは1杯500円〜。余談だが液面の泡は新鮮な豆から出るガスによるもの
詳しい記事はこちら → 六本松『COFFEEMAN』
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
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