「九州ランカ」というカレージャンルをご存じですか?
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ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
上野万太郎
ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club
大阪、東京に続いて福岡でも「スパイスカレー」がブームになりだして5年くらいでしょうか。スパイスカレーって言葉自体、よく意味が分からないとも言われますけどね。カレーにはすべてスパイス(香辛料)が何かしら使用されているので、「カレーはすべてスパイスカレーでしょう!!」という真っ当な意見もあります。まさに反論の余地がないですよね。
それはさておき、その巷で言われている「スパイスカレー」とはどんなカレーなのか。はっきりとした定義というのはないんですが、小麦粉とバターを使わず、スパイスと油と塩、それに肉と野菜だけで作るカレーといえば、レストランや自宅で食べるカレーライスとの違いが分かってもらえるでしょう。今、そんなカレーが福岡でも注目されてます。
そもそもはインドカレーをベースにしたライスで食べるカレーから始まり、それが最近では店主がおのおののセンスを生かしてスパイスや食材をアレンジしたカレーが人気なのです。
数種類のカレーを一つの皿に盛るスタイルの合い掛けカレーや、色鮮やかな野菜や副菜をカレーと組み合わせたカラフルなカレープレートを出すお店など、昨今のSNSブームにも乗って行列が出来る人気店になったりしてます。マニアックなカレー好きだけでなく、若い女子がお洒落カフェに通うような感覚でスパイスカレー店を訪れている状況が起こっています。
「ヌワラエリヤ」のスリランカカリー
さて、ここから少し本題に入ります。
そんなスパイスカレーブームが来ることなど誰も知らなかった今から30年以上前より、欧風カレーとはまったく違う、今でいうところのスパイスカレーの一種であるスリランカカレーというものを提供し、ずっと人気のカレー店が福岡にあります。
「ヌワラエリヤ」(姉妹店として「ツナパハ」「ツナパハ+2」「ラーメン仮面55」があり)というカレー店です。
先に答えを言えば、こちらの店が「九州ランカ」というカレーのジャンルに大きくかかわることになるお店なのです。
その昔、社長の前田勝利さんが、仕事で訪れていたスリランカ南部の山間部にあるリゾート地ヌワラエリヤで食べたスリランカのカレーに感銘を受け「これを福岡で紹介したい」と思ったのが開業のきっかけでした。
前田さんはその後スリランカ人シェフと共に「ヌワラエリヤ」を福岡市中央区に開業。福岡では当時唯一だったスリランカのカレーを提供するレストランを始められました。1988年のことです。
「ヌワラエリヤ」で提供されているカレーは、「スリランカカリー」、「スリランカヌードルカリー」、「ドライカリー」、「イングランドカリー」の4種類。
特に人気なのがココナッツを使った辛めのスープカレーである「スリランカカリー」。チキンカレーと日替わりの野菜カレー2種の合計3種のカレーが一つの皿に盛られています。スパイシーで刺激的ではあるが、ココナッツの甘みとまろやかさもあり癖になるカレー。ライスの代わりに野菜と一緒に炒められたビーフンと食べる「スリランカヌードルカリー」も特徴的で看板メニューとなりました。
ココナッツ風味のスパイシーでシャバシャバな辛いスープカレーは、世の激辛ブームも相まって福岡の多くの若者たちが初めて欧風カレー以外にハマったカレーだったかもしれません。
その人気に便乗したと言ったら怒られるかもしれませんが、その後、福岡市内には「ヌワラエリヤ」の「スリランカカリー」のスタイルをオマージュしたカレー店が登場し始めました。こうして「ヌワラエリヤ」スタイルのカレーは、福岡市民の間で「これぞ、スリランカカレーだ」として長年定着していくことになったのです。
「ヌワラエリヤ」のスリランカヌードルカリー
さて、話は冒頭の福岡のスパイスカレーブームに戻ります。
カレー人気に伴って、いろんな種類のカレーが注目を浴びてきましたが、その中で現地系カレーと言われる店も人気になっています。世界各地で現地の人たちが現地で食べるようなスタイルや味のカレーを提供する店です。
国別に言えば、インドはもちろんのこと、ネパール、バングラデシュ、パキスタン、タイなど。その中で現地系スリランカカレーも人気になって来ました。
ここであえて「現地系」という言葉を使ったところが今回のポイントなのです。現地系スリランカカレーは、皿の中央部にライスをよそい、その周りに数種類のカレーや副菜を盛り付けます。特に鰹節に似たモルジブフィッシュで出汁をとったり、それを細かく刻んでライスに振りかけたりもします。ココナッツでまろやかにした料理が中心でライスを周りのカレーなどと少しずつ混ぜながら食べる。これがスリランカの国民料理のスタイル「ライス・アンド・カリー」なのです。スープ状のカレーは少なく、ましてやビーフンが主食として使われることはあまりありません。
現地系スリランカカレーが福岡市内でも人気になってきたのはここ2年くらいでしょうか。店名を出せば、「バダピリラ」(福岡市中央区白金)、「カチナ」(福岡市早良区城西)、「アフターグロー」(福岡市中央区草ヶ江)、「チャーリーズプレイス」(福岡市中央区赤坂)、「スリランカレストラン キヨミ」(糟屋郡志免町)、「スパイス計画」(イベント販売)などがあります。
ここで「ヌワラエリヤ」の「スリランカカリー」を、「これがスリランカカレーだ」と信じてきた福岡のカレーファンたちはふと疑問に思うようになったんです。
「スリランカのカレーって辛いスープカレーじゃないの??」
「え? これ、どっちがどうなん?」など。
「バダピリラ」のスリランカカレー 【大分に移転】
「ヌワラエリヤ」のスタッフであり前田社長の娘さんである前田庸さんに突撃インタービューをしてみました。
「開業する時点で、父とスリランカから連れてきたシェフのシンハさんとで、スリランカのカレーをいかに福岡のみんなに楽しんで食べてもらおうかと考えたそうなんです。オペレーションも考慮して、一つの皿に複数のカレーを盛りつけること。そして、カレーは日本人が親しみやすいスープ状にする、ということを決めたようです。
さらにパパド(豆粉などで作った煎餅)を載せたかったんですが、その当時はパパドを日本で仕入れるのが難しかったので、スナック菓子のカラムーチョを載せてパパドの代わりにしたというのがいまだに続いてるんです」
そうだったのです。「ヌワラエリヤ」の「スリランカカリー」はスリランカのカレーをベースに前田社長とスリランカ人シェフによって、日本人向けに作られたオリジナルカレーだったのです。それが、長年福岡のカレーファンたちに愛されてきたため、「スリランカのカレー=ヌワラエリヤスタイルのカレー」という構図が出来たのです。
「ヌワラエリヤ」のカレーがあまりにも人気だったため、「ヌワラエリヤ」以後に新しく福岡でスリランカカレーの店を出すスリランカ人オーナーでさえも、「福岡においてスリランカカレーで商売するにはこのスタイルにしないと受け入れられない」と考え、他の店舗にも広がっていったようです。その流れは福岡市から福岡県内へ、さらに熊本、鹿児島、大分など九州全域までも同じようなカレーが広がったのです。
このヌワラエリヤスタイルのスリランカカレーは、全国的に見ても例がなく福岡で生まれ独自の発展を遂げてきたものだということがここ数年知られるようになってきました。ここまで来るとまさに福岡独自の食文化のひとつと言って良いでしょう。福岡発祥のオリジナルカレーって、なんか嬉しいじゃないですか。
「ヌワラエリヤ」のスリランカカリー
ということでやっと結論です。
こういう状況を踏まえて、最近、全国のカレーマニアたちは「ヌワラエリヤ」スタイルのカレーのことを総称して、「スリランカ」ならぬ「九州ランカ」と愛情をこめて呼び出したのです。これは「スリランカ」という国名が「スリ(高貴な)ランカ(島)」に由来するということから、これをもじって出来た言葉だと言われてます。誰が命名したのかは不明ですが、言い得て妙なネーミングですね。
僕たち福岡県人は今後も誇りをもって「九州ランカ」を愛して行こうではありませんか。
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- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
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