上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第6回】
博多駅南という立地で毎日行列を作る人気中華料理店
公開日
最終更新日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
博多駅南
杏仁荘
上野万太郎
ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club
「杏仁荘」との出会い
今から8年前、僕が時々通っていた醤油ラーメン店が移転したんだが、その後に入居したのが「杏仁荘」だった。大きくはないが4階建ての建物。1階の外壁が鮮やかな黄色に塗られて、通り全体が一気にオシャレ感を出したのを記憶している(現在の外壁は青色)。
開業直後にランチに行った時は、とりあえずは麺料理のみでスタートしていた。麻辣大陸担々麺を注文したが名前の通り強烈に辛かった。髭面のイケメン男性が「ご希望ならもっと辛くも出来ますよ」と話しかけてくれたが、それがまさにオーナーシェフの野口容平さんだった。
そんな「杏仁荘」は今ではランチタイムに毎日のように行列が出来る人気店になっている。今回は野口さんに「杏仁荘」が目指す飲食店の姿について聞いてみた。
野口容平さんの経歴
野口さんは中村調理製菓専門学校を卒業後に福岡市内でホテルの中華部門に入社。その後24歳で際コーポレーション(本社:東京)へ転職。福岡の中華料理の店舗へ配属された。28歳で同社の九州統括マネージャーとなり、中華料理以外の和食やイタリアンも含めて店舗管理から経営学全般を学んだ。
同社は関東を中心に全国に個性的でお洒落な飲食店を展開する有名企業。今でも付き合いのある中島社長には大変お世話になったという。特に店作りやデザイン、商品企画などはその後独立して「杏仁荘」が生まれる上で重要な基礎になっている。
「杏仁荘」での独立
33歳の時「杏仁荘」を博多駅南に開業する。町名こそ博多駅南だが、博多駅からはけっこう離れていて商業エリアとは言い難いので立地的な心配もあったが自分たちの店としての商品力があれば場所はどうにでもなるだろうと出店を決意。
特に決め手となったのは建物が一棟貸しの4階建てだったことだ。自分の城を持つというイメージがあるからできれば一棟貸し物件を探していたそうだ。1階と2階を店舗、そして3,4階は事務所として使用している。
出す料理は中華ではあるが、特に四川、広東、香港、台湾などのこだわりはなく、女性目線で美味しく食べられるメニューを開発。古き良き時代の中華料理を現代風にアレンジして若い人にも受け入れられやすくしている。際コーポレーションでの経験も生かして、和食や洋食の良い部分も素材や盛り付けに取り入れている。
海老入り天津飯900円、黒酢豚1350円
僕も毎週のようにランチタイムやディナーに通っているが、何度食べても飽きがこないのが不思議なくらいにハマっている。抽象的な表現になるが、見映えも味もメリハリが効いたコントラスト強めな料理で美味しさが分かりやすい。ご飯や酒がイケる料理でありながら重くなくサラッと食べられ後味もスッキリ。そんな点が癖になるのだろう。
開業して2~3年後からは人気店となりランチタイムは店前に10人くらい並んでいるのも見慣れた光景になった。野口さんの狙い通り客の6割は女性。女性一人客のランチも珍しくなく、夜に女性だけのグループなども多くなった。
麻婆豆腐880円、週替わりランチの一例(牛リブロースのオニオンソース炒め定食)1,100円
2号店「杏仁坊主」を博多区住吉にオープン
そんな中、2号店の話が持ち上がった。もう少し街中に出店してみようと2019年3月キャナルシティからもほど近い博多区住吉に「杏仁坊主」を開業。博多駅南がちょっと遠いと感じる「杏仁荘」ファンには朗報だった。
基本的なメニューは「杏仁荘」と同じだがビジネス街に近いこともあり客層はすこし男性が多めかもしれないがこちらもすぐに人気店となっている。
従業員への気配り
野口さんの経営方針も見ていて特筆しておきたいことがある。それは、土日は営業しているが年末年始・ゴールデンウイーク・お盆の休みがしっかりあることだ。ある意味飲食店にとっては稼ぎ時でもある時期だが、一般の会社並みに連休をとっている。
「スタッフが15名ほどいるんですが、県外出身者も多いので帰省したりするのは親戚や友達が集まられる時のほうが良いかなと思って。家族持ちで子供がいるスタッフにとっても同じですね。日頃頑張ってもらっているので、そこは今後も大事にしたいと思ってます」と野口さん。1日1日の利益を積み重ねていくことが大事で、特に繁忙日を作らないことを理想としているそうだ。なるほど、納得である。
「開業当初はスタッフに対して相当に厳しくしてましたが、最近は店長クラスのスタッフに任せている部分もあり、みんなが協力して頑張ってくれているので僕は夜を中心に入るようにしています」とスタッフへの信頼感も増しているそうだ。常連客とスタッフとで定例でゴルフコンペなども開催しており、厳しさの中にも働き甲斐のある職場作りを目指しているのがうかがえる。
今後の展望
COVID-19で厳しい状況の中で次の時代へ向けて野口さんも既に一歩を踏み出している。基本的にはリスクの少ない経営方針で売上をアップさせることを考えるのはアフターコロナの定石。そうなると中食・内食向けや業務用の卸売りなど店舗外での売り上げを増やすことになる。
野口さんは、店の人気メニューである担々麺や点心を中心に卸売り事業をスタートさせている。ゆくゆくは店舗での惣菜販売や通信販売なども検討中。さらに際コーポレーション時代から現在までのノウハウを基にコンサルタント事業も行っており、新規店舗やメニューの開発なども実際にこの数年で行っている。
「自分が現場で身体使ってバンバン働けるのも45歳くらいがピークだと思うんですよ。スタッフも同じように歳をとるわけですから、若手の現場での体力に頼るだけでなく高齢者も働けるような職場作りも必要になると思うんですよね。となると店舗外での売り上げに関するものはセントラルキッチンを作るなどして熟練の職人がしっかり働ける場所も作りたいです」と野口さんは将来を見据える。
野口さんの印象は元気でイケイケなお調子者にも見えるが、お店の経営に関して考えていることとやっていることはとんでもなく冷静で常識的でしっかりしている経営者なのであった。
野口さんは「僕はどちらかというと実務型の人間であって、決して経営者タイプではないんですよ」という。いやいやこれからはそういうタイプの人間が生き残る時代になるかもしれない、と僕は勝手に思うのだが。
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店舗名
杏仁荘(店舗写真)
ジャンル
- 中華料理
住所
福岡県福岡市博多区博多駅南4−17−6
電話番号
営業時間
11:30~OS14:10/18:00~OS22:00
定休日
不定
席数
- カウンター4席
- テーブル32席
個室
なし
メニュー
週替わりランチ850円~、夜のコース(2,500円・3,000円・4,000円・5,000円)、鶏のパリパリ香味焼き(半羽)1,400円、小籠包(3個)480円、麻婆豆腐880円
喫煙について
- ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
- ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
- ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
- ※OSはオーダーストップの略です。
- ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
- ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
- ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。
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