個性よりも飲んだときのホッと一息を大切に、今日も一歩一歩

なんでもそうですが、仕事には人となりが表れると感じています。コーヒーもやはりその傾向があって、飲んだときにロースターやバリスタの人柄を感じることはよくあります。基本的に良い人が多い気がしているコーヒー業界でも、コーヒーを飲んで「根っから優しくて、本当に人が良いんだろうな」と感じるのが『TAISHO COFFEE ROASTER』の田之畑隆介さんです。

もともと福岡市・警固にある老舗・焙煎屋の門を叩いたのが、田之畑さんのコーヒーの入口。そこで学んだ基礎を今も大切にし、とにかく丁寧に日々生豆と向き合っています。いつ訪れても生豆のピッキングを行っており、欠点豆を取り除くことに余念がありません。素人目に見ると「この豆もダメなの？」というものでもシビアに見極めて、取り除くのはおいしさの追求のため。

「ピッキングは焙煎前後に行うようにしています。理由は少しでも雑味の要因は排除したいから。もちろん手間暇はかかりますが、なんとなく僕の中ではルーティンになっていて。やらないと気がすまないというのもあります」と笑います。真面目な田之畑さんらしいエピソードですが、この丁寧な仕事が『TAISHO COFFEE ROASTER』の一番の魅力です。

同店はハウスブレンド3種、シーズナルブレンド1種、シングルオリジン約15種と豆のラインナップは多彩で、焙煎度合いも浅煎りから極深煎りまで幅広く用意しています。たくさんの種類の豆が並ぶ中で、まず入門編として飲んでほしいのが『ハウスブレンド ピッピ』（700円／100g）。リーズナブルで、なによりバランス感が非常に優れたブレンドです。焙煎度合いは、ほどよいロースト感と余韻に広がる心地よい酸由来の甘みが特徴的な中煎りで、コーヒー好きの多くにフィットする味わい。

『TAISHO COFFEE ROASTER』では、どの豆もなにかが突出することがないような焙煎を心がけているといいます。具体的には一般的な焙煎よりも、少しだけ焙煎時間を長くするようにしているそう。もちろんドラム内の温度、火力、温度上昇率などによって変わりはしますが、基本的に焙煎時間が長くなればなるほど、生豆に含まれた水分が抜け、個性やフレーバーなどもそれに比例して少しずつ抜けていく傾向にあります。田之畑さんはその抜け具合、個性・フレーバーの立ち方、酸の出具合といった点を微調整しながら、「すべてにおいてほどよく」という味わいを表現するために、若干焙煎時間を長めに設定しています。

昨今、個性的かつ独特なフレーバーを生豆にまとわせる発酵プロセスを施したり、中にはインフューズドコーヒーと呼ばれる副素材由来のフレーバーを付け足すコーヒーも増えてきています。こういったものはコーヒーの新しい魅力、おもしろさを発信する上ではユニークですが、デイリーで飲むことを考えると、やや飲み疲れしてしまうかもしれません。目新しいことにどんどん挑戦していくのも良いですが、変わらないこともまた大切。田之畑さんのコーヒー作りに触れ、そんなことを考えさせられました。

開業から9年目に入り、コツコツと変わらず、堅実にファンを増やし続けている『TAISHO COFFEE ROASTER』。糸島市の二丈、福吉など地元の公民館でハンドドリップ講座を行ったり、地域との繋がりも大切にする田之畑さん。そんな優しい人柄に触れ、コーヒーを飲むだけで不思議と優しい気持ちになれるのでした。