上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第7回】

自動車販売社長から大胆転職、ジャマールさんのパキスタン料理店

公開日

最終更新日

ライター上野万太郎

カメラマン上野万太郎

マルハバ

筥松

ハラールフード マルハバ

上野万太郎

ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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ハラールとは?

僕が最初に「ハラールフード マルハバ」に来たのは9年前だった。某カレー店の女性スタッフ2人に「パキスタン人が店主でハラール料理が食べられる本格的なカレーの店がありますよ」と勧められて一緒に来たのだった。
 
“ハラール”ってご存知だろうか? そもそもイスラム教の人が豚肉を食べないというのはある程度有名な話だがその他の動物の肉でも、ある作法によって処理されたものでなければ食べてはいけない法律になっているのだ。そういう手続きを経て処理された食品のことをハラールという。
 
もっと言えば肉だけでなく食材や衣類、医薬品、化粧品など肌に触れるものは、すべてに関してハラールというルールに従ったものしか使用してはいけないのだ。つまり「マルハバ」は店名にハラールとあるように、そういう食材や料理だけを販売している店なのだ。

パキスタンから東京へ

「マルハバ」の店主であるアンワー・ジャマールさんはパキスタン人。ドバイで建築基礎工事の仕事をした後、パキスタンでアパレルの会社を経営していたが、30代で日本にやってきた。友達のパキスタン人を頼ってやってきた東京。英語は喋れたが日本語なんて一言も分からなかったが、縁あって印刷会社に就職できた。

最初は数ヵ月のつもりだったが仕事ぶりが認められ10ヵ月後にはなんと印刷機の機長になり、結局本格的に東京で仕事することになったのだ。

自動車販売会社経営から福岡移住へ

数年間印刷会社で働き、結婚もして子供も出来た。その後、自動車販売会社を開業しドバイに中古自動車を輸出する仕事を始め、会社は順調に成績を伸ばした。そして10年くらい経った頃、大分出張で初めて九州の地を踏んだ。

仕事を終えて東京へ帰る前に九州を車で少しうろうろとしたジャマールさん。福岡にも寄ってみたらなんとなく居心地の良さを感じたそう。その出張中にも自動車の買い付けをしてみたら意外にも仕事が取れ、「これは九州でも仕事できるんじゃなかろうか」と福岡へ引っ越してくることを決意し、家族を福岡に呼んで新生活を始めることにした。これが福岡移住の経緯だ。

しばらくは仕事も順調だったが、徐々に売上が落ちて来た。独自のネットワークとノウハウを持っていち早く中古自動車の輸出をしていたジャマールさんだったが、インターネットの普及などにより中古自動車の相場情報が容易に入手できるようになり競合が増えてしまったのだ。「このままではいかん。他の仕事を探さなくては!」と思うようになったジャマールさんは転職を考えるようになる。

「ハラールフード マルハバ」を開業

住んでいた東区の近隣にはイスラム教の礼拝堂であるモスクがあった。つまりイスラム教徒が比較的多く住んでる地域なのだ。ところが自分達も住んでいて「この近くにはハラールの食料品を扱う店がもっとあったら助かるのに」と思っていた。そこで「そうだ、イスラムの専門知識を活かしてハラールの食料品店を始めよう!」と考えたのだ。それが今からちょうど10年前。「ハラールフード マルハバ」の誕生である。

最初はカレーなどの料理は出しておらず、食料品販売だけの店だったが、近隣のイスラム教徒からは喜ばれた。ジャマールさん自身は今まで何十万円、何百万円の商売をしていたが、今回は一つ何百円の商売になったことが恥ずかしいと思う時期もあったと言う。それでも子供と一緒に楽しい生活を送れることに喜びを感じていた。

マルハバ

ある日、お店で自分用のご飯を作って食べていたら、イスラム教徒の客から「何食べてるの? 美味しそう!! 僕らにも食べさせてよ!!」と言われた。ジャマールさんは昔から料理はしていたが、料理人ではないし飲食店で働いたこともなかった。「これ、自分で食べるためだけに作ったママの料理だよ」と断っていたが、「それでも良いから作ってよ」と言うことから始めたのがカレー販売だった。それがいつの間にか評判になり、買い物に来ていたイスラム教徒たちが時々カレーを食べて帰るようになったのだ。レシピは子供の頃から母親に作ってもらっていた味の記憶をもとに自分で勉強して完成させていった。

僕が最初に行った頃、店内はほとんどイスラム教徒ばかりだった。買い物をする人、カレーを食べながらジャマールさんや友達と談笑する人。まるでイスラム教徒のサロンみたいだったことを覚えている。その後そのカレーが日本人にもジワジワと評判になっていった。

ちょうどその頃、福岡で伝説のスパイスカレー店とされる元「スパイスロード」店主の高田健一郎さんが自分の店を病気のために閉めた後、数ヵ月間「マルハバ」にパキスタンカレーを学びに来たのだ。今思えばジャマールさんにとって高田さんとの出会いは大きかった。高田さんはジャマールさんにパキスタンのカレーを教えてもらう代わりに、カレー店経営のノウハウを伝授したのだ。さらに福岡のカレー店店主たちに「マルハバ」のことやパキスタンカレーのことを広めてくれたのだ。

パキスタンのカレーと言えば、肉をメインに使った料理が特徴的だ。鶏肉、マトン、ラム、牛肉などを辛さたっぷりで油多めに煮込まれるものが多いが、食べてみると意外にもあっさり食べられ、胃がもたれることも少ない。「マルハバ」で提供するカレーは日替わりで、毎日2~3種類を出している。 もちろん全てハラール料理。メニュー数は80種類を超えている。代表的なメニューは子羊のシチューのような煮込みカレー「ラムナハリ」(左・1,800円)と丸鶏を使ったカレーの「チキンカラヒ」(右・1,500円)で、どちらも肉々しくパンチのあるカレーだ。

マルハバ
マルハバ

そして特に人気なのが金~日曜日に出すビリヤニだ。「チキンビリヤニ」(1300円)と「マトンビリヤニ」(写真・1600円)を週替わりで作っている。インド人の奥様が作る料理もこれからはどんどんメニュー化するそうなのでメニュー数はもっと増えるだろう。

マルハバ

現地系にこだわり祖国の味をほぼそのまま提供するスタイルは、これからも変わらず続けていくというジャマールさん。それがまた福岡だけでなく東京や大阪にもファンを持っている「マルハバ」のカレーとして人気を保っているのであろう。

最後に

福岡に住むイスラム教徒のために始めたハラール食料品店からパキスタンカレー店へ軸が移ってきた「マルハバ」だが、これからは自分が作って来た「マルハバ」の味を少しでも長くここで提供していきたいというジャマールさん。
 
東区筥松は福岡市の中心部からは少し離れているので、2号店として市街地での出店を検討した時期もあったが、同じ味を安定して提供するにはいろいろ課題も多いと一旦白紙に戻している。ゆくゆくは数人いる子供のうちの誰かがジャマールさんの味、「マルハバ」の味、そしてパキスタンの味を受け継いでくれることを楽しみにしたいところである。

そして最後にもう一つ。ジャマールさんは高田さんとの出会いにとても感謝している。その証として高田さんが「マルハバ」で使っていたエプロンを今でも毎日使って、高田さんへの感謝の気持ちを忘れないようにしていると言う。一生を決めるような大事な人との出会いというものが、人生にはいくつかあるのだと再認識させられる。

ここ数年はイスラム教徒よりも日本人客が多くなった「マルハバ」。未経験の方は是非とも現地系の本格的なパキスタンカレーをお試しあれ。

マルハバ

店舗名

ハラールフード マルハバ

ジャンル

  • カレー

住所

福岡県福岡市東区筥松3丁目10−13

電話番号

080-3977-0786

営業時間

11:30~OS19:30(金曜日のみ12:00~)

定休日

火曜

席数

  • テーブル12席

メニュー

チキンカラヒ1,500円、チキンビリヤニ1,300円、マトンビリヤニ1,600円、ラム肉のカレー1,600円(メニューはすべて日替わり)

  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。
  • ※編集部の都合により撮影時にマスクをはずしていただいたり、アクリル板をはずしていただいて撮影している場合があります。
  • ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。

記事に関する諸注意

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