上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第3回】

福岡コーヒー界の貴公子による妖艶で甘美な珈琲

公開日

最終更新日

ライター上野万太郎

カメラマン上野万太郎

久留米市通町

COFFEE COUNTY KURUME

上野万太郎

ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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久留米市に本店を置く「COFFEE COUNTY」という人気の珈琲焙煎所がある。自店で焙煎したスペシャルティーコーヒー豆を販売。イートインスペースを備えた現本店は今や県内外からの若い観光客が「COFFEE COUNTY」を基点に焼鳥、餃子、トンコツラーメンなどの久留米グルメのツアーを組むほどに聖地化していると言っても過言ではない。

コーヒー豆は小売は当然ながら卸売での人気もうなぎのぼり。「COFFEE COUNTY」の豆を使いたいというカフェが関東地方にまで広がっている。一般消費者のみならず専門家をも唸らせるコーヒーを作り出すのは、「COFFEE COUNTY」オーナー、森崇顕(たかあき)さんである。

産地や品種、生産者によって様々な味や性質を持つコーヒー豆。森さんのフィルターを通して焙煎されるとフルーティーで華やかな香りと甘みを持つコーヒーとなる。僕が最初に飲んだ時、「コーヒー豆って果実だったんだ」と再認識し感動させられたことをはっきり覚えている。僕はこれを妖艶で甘美なコーヒーと表現する。森さんの優しく涼しげで透明感のある容姿や所作とも相まって、僕は数年前の自分のブログで森さんのことを「福岡コーヒー界の貴公子」と書いていたが、今でもその印象は全く変わっていない。

COFFEE COUNTY

森さんはどんな経歴をもっているのか

1980年宮崎県延岡市生まれ。上智大学理工学部を卒業後に縁あって札幌のコーヒー専門店へ就職。大学で化学を専攻していたという森さんが何故コーヒー店へ??とも思うが、「札幌で飲んだコーヒーをきっかけに興味を持った」という以外に特に理由もなかったようだ。その後九州へ戻り福岡市のコーヒー店で経験を積み、2010年にはジャパンカップテイスターズチャンピオンシップで全国2位になり、その後2014年にはジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップでも2位に輝いている。

勤めていたコーヒー店を退職後、2013年5月から3ヵ月間ほどニカラグアへ渡った。コーヒーの産地視察や買付の目的もあったが生産者と一緒に農園仕事をこなしながら現地で生活することで産地やコーヒーのことを肌で感じたかったという。現地の人と触れ合い、コーヒー生産者が置かれている状況を理解し、世界的にコーヒー業界が抱えている問題を肌で感じ取る。そして、問題を解決するために自分たちに何が出来るかということを考えることが、それ以来一貫して森さんの日常になっているのではないかと思う。

2013年11月、福岡県久留米市に「COFFEE COUNTY」をオープン。焙煎と豆販売をするための小さな事務所のような店舗だった。 2016年9月には中央区高砂「COFFEE COUNTY FUKUOKA」をオープン、2019年2月には久留米本店を現在の場所に移転。さらに2019年8月には東区箱崎の「pain stock」とのコラボショップとして「COFFEE COUNTY stock」をオープンした。

想い出のエチオピア訪問

2016年1月、森さんは「珈琲美美」(赤坂)の森光宗男さんに誘われて一緒にエチオピアを訪問している。森光さんと言えば、全国的にも著名で福岡コーヒー界の神様的存在の方。この時は「珈琲美美」の若いスタッフと共に、「珈琲蘭館」の田原さん、「豆香洞コーヒー」の後藤さんと一緒に同行したそうだ。田原さん、後藤さんと言えば、森さん同様に全国的に有名な福岡を代表するコーヒーロースターでありコーヒー店オーナー。将来的にも福岡、いや日本のコーヒー業界を支えて行くであろうすごい顔ぶれである。

一行はコーヒー発祥の地であるエチオピア・カファ地区のジャングルの奥地まで足を伸ばしている。コーヒー発祥の地に現存する中で一番古いとされているコーヒーの木、マザーツリーを見るためだ。
「マザーツリーは樹齢200年以上とも言われてます。コーヒーの木はもともと大きく成長する樹木ではないので外見的には特別なものではありませんでしたが、僕らにとっては心に響くものがあり、まさに聖地でしたね」と森さん。

森光さんが自店のスタッフとともに森さんら3人を連れてエチオピアに行かれたのはどういう意味があったのだろうか。森さんは「何かをバトンタッチするために僕らも連れて行ってくれたのかもしれませんね」と当時を振り返る。

森光さんは同年12月に出張中の韓国の仁川空港にて倒れ急逝された。享年69歳だった。多くのコーヒー関係者がショックと悲しみに包まれた。
まさに森さんたちを連れたエチオピア訪問は森光さんにとって「福岡のコーヒー業界の将来を頼んだぞ」という最後の大仕事のひとつになったのではなかろうか。

COFFEE COUNTY

コーヒー流通における森さんの軸足

自家焙煎したコーヒー豆を自店消費のみならず卸売りする店も近年急速な勢いで増えている。また仕入れに関しては、商社任せではなく、町の小さなコーヒー店店主自らが中南米やアフリカのコーヒー生産国へ赴き、産地視察や仕入れを行うことも多く見受けられるようになってきた。この2点について、森さんもまさにそれに当たる。さらにはしっかりと人気店を3店舗も経営している森さんだが、コーヒー流通においての軸足はどこにあるのだろうか。
「もちろん、産地から焙煎までの川上です。ゆくゆくは海外でコーヒー農園を持ちたいですね」と森さんは夢を語る。さらに産地への想いは深まるばかりだという。

COFFEE COUNTY

店舗展開とスタッフ教育について

3店舗を運営しスタッフも15人ほど抱える組織になったが、森さんの経営的な意識がどうなのかも気になるところである。

これについても森さんは「商売や経営については全く興味がないんです。スタッフにも、とにかく美味しいと思うコーヒーをお客さんに飲んでもらうことを一生懸命やって欲しいとだけを伝えています。だから販売の数値目標なども話したことはないです」とある意味期待通りの回答。やっぱりまさに貴公子ではないか。

「Vibrant Flow in You!」という言葉を店のテーマとして設定しているが、これは「あなたの心を震わせたい」という意味。自分たちのコーヒーが、どんな感情でも良いので何かしら飲んだ人の心に響いて欲しい。そんなことが出来るコーヒー作りを目指しているということだ。「スタッフにその気持ちを伝えるためには、とにかく僕はコーヒーに真剣に取り組む姿を彼らに見せるだけですね」と森さん。
森さんは商売ではなくコーヒー文化を次の世代に伝えたいがためにその舞台となる店を経営しているのかもしれない。「珈琲美美」の森光さんが、森さんたちにバトンタッチしたものをさらに次の世代に伝えるために。

COFFEE COUNTY

最後に「COFFEE COUNTY」と久留米市について

久留米市とは縁もゆかりもなかった森さんが何故久留米市を拠点にしているのか最後に聞いてみた。
「たまたま縁があっただけで、久留米市に特別な想いがあるわけではなんですよね」と苦笑い。2013年に旧本店を久留米市に開業した時にも僕は同じ質問を森さんにしているが、まさに同じような答えを聞いている。

しかし僕の中では一つのエピソードと結びついたのだが「珈琲美美」森光さんの出身が久留米市なのだ。まあ、僕の勝手なこじつけでしかないだろうが、これも立派な縁ではあるだろう。僕も久留米市出身なのでそんな縁を一緒に共有したいだけなのかもしれないが。

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店舗名

COFFEE COUNTY KURUME(店舗写真

ジャンル

  • コーヒー

住所

福岡県久留米市通町102−8

電話番号

0942-27-9499

営業時間

11:00~19:00

定休日

席数

  • テーブル10席

メニュー

ハンドドリップコーヒー450円、エスプレッソ400円、カフェラテ500円

喫煙について

禁煙
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  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
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  • ※掲載しているメニュー内容、営業時間や定休日等はコロナ禍ではない通常営業時のものですので、おでかけの際にはSNSや電話でご確認ください。

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