焼く、揚げる、そして茹でるへ。滋味深い鶏と向き合い魅力を伝える

公開日

ライター寺脇あゆ子

カメラマン寺脇あゆ子

水炊きと素揚げ水炊きメイン

警固

水炊きと素揚げ

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長く続いた暑さもようやく和らぎ、街に少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。陽が落ちると風が心地よく、あたたかい料理が恋しくなるこの季節。そんな移り変わりの時期にご紹介したいのが、2025年5月に警固本通のビルの2階に移転オープンした「水炊きと素揚げ」です。

以前は警固四つ角そばで、素揚げをメインとした「小烏(こがらす)」として親しまれていましたが、移転を機に“水炊き”を新たな柱に加え、店名も新たに再始動しました。

水炊きと素揚げ外観

店主・松永一平さんは、大手門の名店「鳥次」で大将・小林龍治さんのもと、長く修業を重ねたのち独立。最初に開いた「鳥いち」では、小林さんから受け継いだ関東スタイルの焼鳥を基盤に、炭火による繊細な火入れを磨いてきました。続いて立ち上げた「小烏(こがらす)」では、“揚げる”をテーマに据え、衣をまとわせず素材の持ち味を生かす素揚げを看板に掲げます。焼鳥とは異なる火の通し方を通じて、鶏という素材の新たな魅力を発信し、たちまち評判を呼ぶ存在となりました。

そして今回、新たに“茹でる”という調理法を取り入れた「水炊きと素揚げ」が誕生。火入れの形は変わっても、根底には鶏と真摯に向き合う姿勢が息づいています。

水炊きと素揚げ手羽先
水炊きと素揚げ砂肝

水炊きは注文を受けてから丁寧に炊き上げるため、仕上がりまでに10〜15分ほど要します。完成までの時間に楽しんでほしいのが、名物の素揚げです。

鹿児島・垂水産の雛鳥を一羽丸ごと仕入れ、水炊きや素揚げなど、料理に合わせて部位ごとに丁寧に捌いています。肉の厚みや脂のつき方を見極め、火を入れる温度をわずかに変えるのも松永さんならではの仕事。

今回オーダーしたのは「砂肝」と「手羽先」。衣を付けず、薄く塩を振って200度前後の高温で揚げることで、素材そのものの持ち味をシンプルに引き出します。銀皮を丁寧に取り除いた「砂肝」は外はカリッと香ばしく、中はぷりっとした弾力。一方の「手羽先」は皮をパリッと揚げ、骨まわりの肉はしっとり。小ぶりながらも肉汁が豊かで、脂の甘みと香ばしさが重なります。

水炊きと素揚げ冷やし胡麻鶏
水炊きと素揚げポテトサラダ

さらに、酒が進む一品料理も充実しています。今回オーダーしたのは2品。まずは、低温で火を入れたささみに自家製の胡麻だれと辣油を合わせた「冷やし胡麻鶏」。しっとりとした口当たりにごまの香ばしさと辛味が重なる一皿です。

続いて、「小烏」時代から人気の一品「ポテトサラダ」。炭火で焼いた鶏ひき肉を混ぜ込み、ほのかな薫香をまとわせています。シンプルながらも奥行きがあり、どの料理にも“鶏の旨味をどう生かすか”という松永さんの視点が息づいています。

水炊きと素揚げ水炊き

素揚げや一品料理をつまみながらお酒を楽しんでいると、ほどなく水炊きが運ばれてきました。鍋には、スープと鶏の3部位(むね・もも・すね)が入っています。スープはうっすらと黄金色に澄んだ清湯。弱火で時間をかけて炊き、アクを丁寧にすくいながら仕上げています。

水炊きと素揚げ各部位

まずは、スープをひと口。鶏の旨味が澄んだ口当たりとともに広がり、後味はやわらかです。

続いてむね肉を。パサつかず、しっとりとした柔らかい仕上がりで、口に含むと鶏の旨味がにじみ出てきます。もも肉とすね肉は、どちらから食べてもOK。骨まわりの肉は旨味が濃く、噛むほどに深い味わいが広がります。

次に、ミンチ、野菜や豆腐を加えます。

ミンチは中火で6分ほど炊くと浮かび上がり、火が通ったら食べごろ。ふんわりとした口当たりの中に、しっかりとした弾力と旨味が感じられます。野菜は弱火でじっくりと火を通し、くたくたになるまで炊くのがおすすめ。鶏の旨味を吸った野菜は甘みを増し、スープもよりまろやかになっていきます。

水炊きと素揚げ麺
水炊きと素揚げ乳化

締めには、秋田から取り寄せた稲庭中華麺を。稲庭うどんのように手延べして干し上げたもので、ほどよい太さと平打ちの形状が特徴です。スタッフが鍋のスープに麺を入れてひと煮立ちさせたあと、あらかじめ醤油と鶏油を少量ずつ入れた器に移し、全体をしっかりと混ぜ合わせていくと、スープと油分が乳化して香り豊かな“締めそば”に仕上がります。

最後に黒胡椒をひと挽きすれば、鶏の旨味と香ばしさが重なる一杯が完成。野菜や鶏の旨味をたっぷりと吸ったスープのコクが絡み、最後の一口まで豊かな余韻を味わえます。

焼く、揚げる、そして茹でるへ。
松永さんの歩みは、常に鶏という素材に真摯に向き合う中で生まれてきました。「水炊きと素揚げ」は、その延長線上にある新たな挑戦です。素材の状態を見極め、火を通す温度や時間を丁寧に重ねるーーその積み重ねが、この店の味わいをかたちづくっています。木の温もりに包まれた空間で、鶏の滋味を静かに味わう。肩の力を抜いて、何度も通いたくなる一軒です。

店舗名

水炊きと素揚げ(店舗写真

ジャンル

住所

福岡県福岡市中央区警固2丁目16−10 水炊きと素揚げ

電話番号

092-732-5757

営業時間

12:00〜最終入店14:00/18:00〜最終入店21:00

定休日

不定

席数

  • テーブル30席

個室

6名

メニュー

水炊き(鶏肉・ミンチ・野菜)1人前3000円(要人数分の注文)、稲庭中華麺400円、雑炊300円、素揚げ(砂肝)500円、素揚げ(手羽先)500円、冷やし胡麻鶏400円、ポテトサラダ500円、生ビール700円、焼酎600円〜、グラスワイン800円〜、日本酒800円〜

喫煙について

禁煙
  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。

記事に関する諸注意

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