親子二代で守り継ぐ、藤崎エリアの名物餃子

今年で創業35年を迎える「ぎょうざ一番」。藤崎界隈には「ここの餃子が故郷の味」という元・少年少女も増えたことでしょう。もっとも僕のように、他地区在住の隠れファンも多いはず。なぜならあの餃子には、不思議と何度も食べたくなる魅力が詰まっているからです。

すっかり地域のランドマークとなった赤い看板が目印。店内の空気も和やかで、くつろぎたい時はやっぱりこういう店に限ります。出迎えてくれたのは店主の指山耕一さんと妹さん。他にも奥様やご両親が働いており、どうやら「一番」特有の温かい空気はファミリーの結束から生まれているようです。なお１階にはカウンターとテーブル席、２階に座敷席が設けてあります。

さて、メニューの主役はもちろん「焼き餃子」（10個506円）。合い挽きミンチとたっぷりのタマネギに、キャベツ、ニラ、そして“企業秘密”を加えた餡でこしらえます。
「これは父が独学で完成させた餃子なんです」と、丁寧な手つきで鉄鍋に餃子を並べる指山さん。自身も若い頃から父に学び、親子二代で味を守る生粋の餃子職人です。

そんな一子相伝の「焼き餃子」は以前と変わらぬ安心の味でした。タマネギのふくよかな甘さと、２度挽きしたミンチの滑らかな食感がたまりません。「麺と同じで餃子も気温や湿度に左右される料理。とくに皮は毎日微妙に水分量を変えています」と指山さん。「努力して毎日同じ美味しさを届けること。それがお客様への責任であり誠意だと思うのです」。

この気持ちに応えるべく、僕も運ばれた餃子を即座に完食します。というのも時間が経つとタマネギの水分が流れ出し、餃子の風味や食感を損なってしまうから。つまり焼き立ての状態であるほど美味しいのです。
すると指山さんが「一度に何人前も頼まず、１人前ずつ注文すると良いですよ」とアドバイス。「こちらの手間はお気になさらず（笑）。美味しく召しあがってもらえるなら、僕らもその方が嬉しいので」。

同じ皮と餡なのに、まるで違った表情を見せる「水餃子」（８個748円）も出色でした。こちらは唇をツルッと滑る皮の感触が格別！
他にも生イカや生エビが具材の「いか焼き餃子」「えび焼き餃子」（各10個583円）があり、とくに「いか」の味わいにはビックリ。ぶつ切りとミンチの２種のイカで餡を仕込む複雑妙味な個性派餃子です。これも一食の価値ありですよ。

……と餃子だけでも手一杯（？）なのに、メニューには一品料理も豊富。日替わりを含め約80種もあるので嬉しいやら困るやら、胃袋がもう１つ必要なレベルです。ともかく人気料理は押さえようと、大阪名物「どて焼き」（825円）を注文。ブレンド味噌でじっくり和牛を煮込み、本場よりさっぱりめに仕上げた逸品でした。いやぁ、ビールがうまい！

日替わりメニューには魚介系も充実。とくにムチっとした歯触りの「ごまかんぱち」（990円）は大当たりでした。この自慢のごまダレはどんな魚とも相性が良く、前は鯛茶漬けを出したこともあったとか。それを頼めなかったのが今も心残りです（笑）。こんなふうに盛り上がれるポイントが絶えないのも「一番」が愛される理由なのでしょう。

餃子店でありながら、ここまで料理を揃える意気込みには本当に感服します。そう伝えると、指山さんは「いつでも好きなものが食べられる店にしておきたくて」とはにかむように答えました。「誰もが100％満足する店はないけれど、それを目指す価値はある」──物腰穏やかな店主の言葉に感じたのは、そんな一本気の職人魂でした。