九州・山口の陶芸家ユニット「ニシカラ會」とGohGanによるコラボディナー。感性と技巧が織りなす特別な一夜を体感

公開日

ライター中野智恵

カメラマンUMAGA編集部

「ニシカラ會」SPECIAL POP UP RESTAURANT

GohGan

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2025年9月27日(土)、人気レストラン「GohGan」にて、九州・山口を拠点に活躍する人気陶芸家6名による「ニシカラ會」とのコラボディナーが開催されました。感性と技巧が織りなす特別な一夜の様子をレポートします。

「風は西から」——この言葉を残したのは、九州が誇る陶芸界の至宝であり、重要無形文化財保持者(人間国宝)として知られる先代の十四代酒井田柿右衛門氏と中島宏氏。日本文化の多くが西から伝来したというこの思想を継承し、九州・山口の次世代陶芸家たちが集結して誕生したのが「ニシカラ會」です。「九州の西から、日本全国へ、そして世界へ」、6名の陶芸家たちは地域の枠を超えて陶芸の魅力を発信することを目的にこの会に参加しています。ちなみに「ニシカラ會」の題字は、福岡が誇る博多人形師、中村信喬氏が手掛けたものだそうです。

今回のスペシャルディナーは、10月4日(土)から13日(祝)まで福岡三越9階の「三越ギャラリー」にて開催された展覧会「ニシカラ會―新たな陶芸の潮流―」の開催を記念し実施されたもの。イベントでは、このイベントのために新たに制作されたニシカラ會メンバーの器に、GohGanのシェフ・福山剛氏が考案した特別コースを盛りつけ、陶芸と料理の対話とも言える美しい時間が流れました。

写真は左上から右へ、唐津の安永頼山氏、熊本の津金日人夢(つがね ひとむ)氏、有田の庄村久喜(しょうむらひさき)氏、下段左から十五代酒井田柿右衛門氏、小石原の太田富隆氏、萩の渋谷英一氏。

最初の一皿はGohGanのナチュラルな器を使ったピンチョスタイプのアミューズ。リバーワイルドの豚で作ったパテを挟んだビスケット、朝倉のイチヂクと生ハム、アメリカンドッグの中にはリエットが入り、上にのせた粒マスタードがアクセントに!

2品目として登場したのは、甘み豊かなボタンエビのセヴィーチェ。シャキシャキとしたハスイモの食感、スパイシーなアチャールの酸味が絶妙なアクセントで、ニンジンジュースとハーブの爽やかなソースが全体をやさしくまとめ上げています。この料理が盛られたのは唐津焼の安永頼山(やすなが らいざん)さんが手がけた白磁の器。通常は土味のある唐津焼を中心に制作する安永さんですが、今回は「唐津焼の歴史的文脈を改めて確認したい」との想いから、あえて白磁に挑戦。「唐津は、本来、磁器を作っていた渡来の朝鮮陶工により発展した窯業地。普段は白磁を作ることはありませんが、そのルーツを探るような気持ちで制作しました。私自身にとっても新たな挑戦となりました」と語ります。やわらかで温かみのある白磁は、セヴィーチェの色彩と調和し、料理の瑞々しさを一層際立たせていました。

3品目は、「GohGan」の真髄とも言える「鮑とアオサのリゾット」。出汁で炊いた椎茸と蒸し鮑の旨みがギュッと詰まり、焦がしバターと椎茸のソースも旨みを押し上げます。この料理を受け止めるのは、熊本を拠点に活動する陶芸家・津金日人夢(つがね ひとむ)さんの作品。貫入が美しく入った青磁の器がリゾットの持つ繊細な海の香りと呼応します。「作家は作品をつくることはできても、それを世に伝える力が弱い。だからこそ、柿右衛門先生と中島先生からいただいた言葉を今の時代に解釈し、陶芸の世界に新たな風を吹かせたい」と津金さんは語ります。

コースの中盤に登場したのは、秋の趣を感じさせる魚料理。低温でしっとりと火入れされたサワラの上には、香ばしく潰した銀杏のピューレが重ねられ、薄くスライスした大根の“ヴェール”がふわりと覆いかぶさります。トップには、黄金に輝くゴールデンキャビア(ニジマスの卵)をあしらい、味覚と視覚の両面で繊細な余韻を残す一皿に。器を手がけているのは有田の庄村久喜(しょうむらひさき)さんです。まるでシルクのような柔らかな光沢を放つ「白妙磁(しろたえじ)」は、庄村さんが独自に生み出した白磁で、繊細な料理の色合いを優しく引き立てます。「それぞれに異なる世界観を持つ6人の作家が、互いに化学反応を起こしながら活動できることに大きな期待を寄せています。器は料理と一体化してはじめて完成するもの。今回は、福山さんとの共同作業を強く意識しながら制作しました」と庄村さん。

ハイライトを飾ったのは、旨み豊かな伊万里牛とカリッとした食感のレンコンを主役にしたメインディッシュ。ビーフの出汁から丁寧に仕上げた濃厚なソースが全体を包み込み、黒ニンニクとマヨネーズ、黒七味を合わせたピューレが力強いアクセントを添えています。メイン料理を彩るのは十五代酒井田柿右衛門さんの作品。言わずと知れた柿右衛門窯の継承者であり、今回の「ニシカラ會」にも、特別な想いを持って参加されました。「今回の参加は、先代が遺した“風は西から”というメッセージを、自分なりに受け止めることから始まりました。食の多様化が進む今、柿右衛門窯でも洋食との親和性を意識した新たな器のシリーズに取り組んでおり、今回はその一つを披露させていただきました」と語る十五代。赤絵磁器の伝統を守りつつ、新たな時代への適応と挑戦を体現する器。その上で繰り広げられる料理との共演は、まさに“進化する伝統”の現在地を示していました。

次はGohGanのシグネチャー「スパイシークラブカレー」です。北海道産のズワイガニをふんだんに使用し、ココナッツクリームと複雑なスパイスの調和が織りなす味わいは、まさに唯一無二。この料理に合わせたのは、小石原焼の太田富隆さんによるモダンな器。太田さんはアメリカやイギリスでも陶芸を学び、スリップウェアをはじめとする多様な技法を取り入れながらも、小石原の民芸的精神を大切にした作品づくりを行なっています。「小石原は“民芸の里”として知られる土地。だからこそ、“毎日使いたくなる器”を意識して制作しています。今回の器も、使いやすさと料理との調和を第一に考えました」と太田さん。伝統的な小石原焼の技法に現代的な感性を吹き込んだ器は、その美しさと実用性で来場者の注目を集めていました。

コースの締めくくりに登場したのは、秋の恵みを凝縮したデセール。香り高い早生栗を使ったモンブランに、栗のアイスクリームを添えた一皿です。なめらかな栗のクリームの中に渋皮煮が入り、土台にはサクサクと軽やかな食感のダッコワーズ。素材の濃厚さと食感のコントラストが心地よく、最後の一口まで飽きさせない構成となっています。器は「ニシカラ會」発起人のひとりであり、萩焼の新境地を切り拓く渋谷英一さん。「陶芸には用と美の両義性があります。今回は“作品として成立する器”というテーマを掲げ、ただ料理を盛る道具ではなく、一つの造形としての完成度にもこだわりました」と語ります。伝統的な萩焼の技法に留まらず、現代的な感性を取り入れた渋谷さんの器は、コース全体を静かに、力強く締めくくる存在感を放っていました。

近年注目を集めている「ガストロノミーツーリズム」。その本質は、単なる美食体験にとどまらず、土地の文化や美意識、作り手の哲学に触れることにあります。今回の「ニシカラ會 × GohGan」は、食材の魅力だけでなく、器という“もう一つの主役”を通して、まさに総合芸術としてのガストロノミーを体現していました。陶芸王国とも称される九州・山口だからこそ実現できた、食と器の豊かな融合。その一皿一皿に込められた物語と、作家たちの挑戦に触れるこの体験は、まさに「西から吹く新たな風」と言えるでしょう。今後の「ニシカラ會」の活動にも、引き続き大きな期待が寄せられます。

  • ※この記事は公開時点の情報ですので、その後変更になっている場合があります。
  • ※「税別」という記載がない限り、文中の価格は税込です。
  • ※掲載している料理は取材時のもので、季節や仕入れにより変更になる場合があります。
  • ※OSはオーダーストップの略です。
  • ※定休日の記載は、年末年始、お盆、祝日、連休などイレギュラーなものについては記載していません。定休日が祝日と重なる場合は変更になる場合があります。

記事に関する諸注意

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