万太郎の喫茶と定食ノスタルジア【12】
無化調中華料理一筋「中国菜 隨園」の西野さん夫妻
公開日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎

千早
中国菜 隨園
上野万太郎
ここ15年以上、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
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はじめに
僕が最初に「中国菜 隨園」に来たのは2012年6月だった。博多区月隈にあった「四川料理 巴蜀」荻野店主から「香椎に無化調の中華料理店があるんですけど、とても美味しいかったです」と紹介されたからだった。
旨味というものを化学調味料や旨味調味料に頼ることなくしっかり作るのは手間と暇がかかることだと一般的に言われている。しかし20年くらい前からだろうか世の中的に健康や環境に対する意識が高まって以来、無化調料理を提供する飲食店が増えてきた感がある。しかし、中華料理において無化調というのはなかなか珍しいのではないだろうか。
初めて「中国菜 隨園」の無化調中華を食べた後に、1週間で3回通ったくらい気に入ったのを覚えている。僕は無化調信者ではないが、体が勝手に美味しいと思ったのかもしれない。
今回は西野夫妻二人の話を聞きながら「中国菜 隨園」の美味しい中華料理をご紹介したい。
福岡市東区出身の西野博紀さん
西野博紀(ひろき)さんは高校卒業後に中村調理製菓専門学校に入学。卒業後は、福岡市博多区のホテル「グランドハイアット福岡」の中華料理部門に就職。香港人がシェフを務めるレストランで広東料理を中心に学んだそうだ。
その後、いずれは独立開業したいという思いはあったので、オーナーシェフのいる店で直接その仕事ぶりを見ながら仕事が出来る環境で働きたくなり、東京の「麻布長江」に転職した。ここでは本格的な四川料理を学んだ。
2年くらい「麻布長江」で働いた頃、オーナーから香川県への転勤の話を持ち出された。ここのオーナーは四国・香川県出身であり香川店は元々オーナーが個人で立ち上げた本店だったのだ。博紀さんはさらに学べるものがあるならと香川県行きを受け入れたそうだ。
妻、典江さんとの出会い
香川県に転勤した後、職場の仲間と仕事帰りによく行くバーがあったそうだが、そこの常連客で来てたのが典江さんだった。明るく元気な典江さんと博紀さんは意気投合。二人はのちに結婚することになる。
ちょうどその頃、「麻布長江」のオーナーが無化調調理に取り組み出しており、それに合わせてお店で出す料理も少しずつ無化調が主体になっていったそうだ。博紀さんも仕事で無化調調理に関わるようになり、いつか店を出したときは無化調の店で勝負したいと思うようになっていったという。
化学調理料を使わないとなると骨や魚介や野菜、キノコ類を使ってしっかり出汁を取る必要があるので、確かに手間はかかるけど、旨味の質の違いというものが、素人の僕でも分かるようになるものである。
その後先輩シェフが埼玉県で独立して「啓徳」という店を開業するということで手伝いに行ったそうだ。
「いずれは自分も経験するだろう開業準備というものが経験出来るというので、先輩の誘いを受けて2年ほど埼玉県で働きました」と博紀さん。
ちなみに典江さんとは香川県で結婚したが、「啓徳」での博紀さんの仕事が落ち着くタイミングを待って埼玉県での結婚生活がスタートしたそうだ。典江さんは「友達もいない埼玉県での生活は退屈でしたけど、ディズニーランドに初めて行った時はあまりにも近くだったので都会人だーって思いました!!楽しいのはそれくらいでした(笑)」と明るく笑い飛ばす。
現在典江さんは接客と配膳、調理補助とこなしているが彼女の元気で明るい雰囲気に人が集まっているとも言える。厨房で一人奮闘している博紀さんとはちゃんと話したことの無いお客さんも多いのではないだろうか。そういう意味でも典江さんのここの店での存在はデカいのだ。

福岡市東区香椎で「中国菜 隨園」を開業
ついに独立開業に動き出した西野さん夫妻。場所は博紀さんが育った福岡市東区だ。2011年3月8日、香椎宮の目の前で「中国菜 隨園」はスタートした。
目指したお店はどんなスタイルの中華料理店なのか。2人に聞いてみた。
「定食中心の町中華スタイルではなく、単品料理一つひとつを楽しんでもらえるような広東料理と四川料理を中心とした本格的な中華料理店を目指して開業しました。しかし最初の頃は、『定食はないとね?』と言われるお客さんが多かったですね。都会の真ん中でなくどちらかというと住宅街なので中華と言えば、町中華やラーメン店の中華料理のイメージを持たれている方が多かったような気がします」と博紀さん。
「定食はないですが、お一人様で来られる方でも料理とお酒を楽しんでもらえるようにと開業後しばらくしてからハーフサイズのメニューも作りました」と典江さん。
もちろん最初から無化調調理に絞ってたんですよね?と聞いてみると「もちろん、無化調スタイルでの提供も最初から決めていました。でも僕も化学調味料を全く摂らないわけではないんです。なんなら、夫婦そろってポテトチップスとかジャンクフードも大好きなんです(笑)。ただ過剰に摂取しすぎると舌が痺れたりするような体質になってしまったんです」と博紀さんは語る。さらに「ただお客様には少しでも良いと思うものを提供したいので開業以来ずっと無化調にこだわって毎日調理に取り組んでいます」とのこと。
香椎宮の目の前で10年間営業していた「中国菜 隨園」だったが、入居していた建物が老朽化のため解体されるということで2021年4月に同じ東区若宮へ移転し現在に至っている。

東区若宮へ移転後の店舗
「中国菜 隨園」のおすすめメニュー
まずはコロナ禍明け頃からリニューアルしたランチメニューであるプレートランチ。こちらはいわゆる、みんな大好きな定食スタイルだ。メインメニュー3種類からどちらかを選び、それにごはん、スープ。サラダ、小鉢がつく。量や料理の種類の多さもお得なランチサービス価格となっている。ランチタイムにはその他にも炒飯や数種類の麺メニューも用意されている。

そして夜を中心に提供している単品メニュー。まず店主おすすめは、「天然エビとイカの自家製XO醤炒め」の名前が最初に上がった。自家製XO醤を無化調で作るのが手間暇かかるがオリジナルの味を楽しんで欲しいとのこと。プリップリの海老とイカ。良い塩梅の塩加減でお酒も食もすすむ。

天然エビとイカの自家製XO醤炒め
さらに「いろいろ野菜の塩炒め」も自信作とのこと。干し貝柱や干しエビなどを使った自家製塩ダレが味の決め手だということだ。円やかな塩味で野菜の美味しく仕上げるのは単純だからこそ味の違いが良く分かるらしい。

いろいろ野菜の塩炒め
最近巷では毛沢東スペアリブという名前でも流行っているが、『豚スペアリブのスパイシー揚げ』も自信作ですのでお勧めです」とのこと。ビールがすすむ。

「豚スペアリブのスパイシー揚げ」
麺類では、「鶏塩そば」がおすすめの典江さん。自家製塩ダレを使っていてあっさりしていて子供から年配者まで朝からでも食べられる優しいけどしっかりと旨味のあるスープが自慢です、とのこと。

鶏塩そば
ここからは僕のおすすめ。小腹が空いていてとりあえず空腹を落ち着きかせたいという時に注文する「水餃子」だ。ボリューム満点で価格もリーズナブル。ゴマダレをかけても良いけど、そのままでもしっかり美味しい水餃子だ。

水餃子
四川料理の定番メニューではあるが「麻婆豆腐」は外せない。オイリーで麻辣の刺激が強いタイプではなく、トーチが入った日本人向けにアレンジされた麻婆豆腐。しかし味の深みがしっかりとありその本格度合いは食べてみればすぐ分かる。僕はもちろん小ごはんをもらってオンザライスしてミニ麻婆丼としていただく。

麻婆豆腐
僕がおすすめの麺は、冬季期間限定の「餡かけ固焼きそば」(写真上)だ。モチモチ太麺に焦げ目を入れるくらい焼いた上にエビ、イカの海鮮系と野菜を餡でとじた熱々麺だ。寒い時にぴったり。逆に夏限定だが冷麺(写真下)も大人気。毎年冷麺が始まるのを楽しみにしている常連客も多い。


餡かけ固焼きそばと冷麺
こんな感じでメニューは豊富にあるが、初めて数人で来られた時はコース料理がおすすめかもしれない。6皿3,500円、火鍋コース4,500円、8皿5,500円のコースが用意されており、特に火鍋のコースはここ数年取り組んでいる推しメニューだそうだ。

最後に
40代半ばになる二人ですが、これからはどんな感じで営業していきたいですか?と聞いてみた。
こういう時も元気に答えてくれるのは典江さんだ。
「とりあえずもうすぐ開業15年になるんです。2011年3月に開業に向けて頑張ってやっとスタートした!!思ったんですが、開業の3日後に東日本大震災の発生でした。それからしばらくはツラい思い出しかないですね。さらにコロナ禍など、思い出せばいろいろ大変な中を乗り越えて15年になろうとしてますからね。それでもここまでやって来れたのはいつも応援していただいているお客様のおかげだと思ってます」と。
さらには「これからについては、実はここには現在は使っていない2階もあるんです。団体様の法事ご利用や火鍋コースの利用などが出来るようにこちらも体制を整えていこうと思っています」と今後への意気込みも見せてくれる。
では博紀さんからも一言どうですか?
「僕は毎日しっかりと美味しいと思う料理を誠実に作ることだけですね」と苦笑い。優しくてのんびりしているようで実は頑固者の博紀さん。その辺は典江さんの舵取りが今後も大事になりそうだ。
最後にもう一回、典江さんに聞いてみた。「香川で知り合って埼玉についていって最後は福岡ですが、結婚する時は地元博多で開業したいって話は聞いてたんですか?」
すると「いや、具体的に話はしてなかったんですけど、状況的にはそうなるんだろうなぁと勝手に思ってました(笑)」とのこと。確かにね。時々は“四国の女”アピールはしてくるが、すっかり福岡市に馴染んでる雰囲気があるのは最初からその覚悟があったのかもしれないな。まさに典江さんあっての博紀さんだと本当に思う。あ、もちろん、博紀さんあっての典江さん、そして、二人いるからこその「中国菜 隨園」だということは言うまでもない。
そんな2人がお待ちする福岡でも珍しい無化調中華の「中国菜 隨園」。一度ご賞味あれ。




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店舗名
中国菜 隨園(ずいえん)(店舗写真)
ジャンル
- 中華料理
住所
福岡県福岡市東区若宮4−20−36
電話番号
営業時間
11:30〜OS14:00/ 17:30〜OS21:00
定休日
月曜日と第3火曜日(祝祭日の場合は翌平日に変更)
席数
- カウンター3席
- テーブル16席
メニュー
プレートランチ1,100円~、天然エビとイカの自家製XO醤炒め(ハーフ720円~)、いろいろ野菜の塩炒め(ハーフ600円~)、豚スペアリブのスパイシー揚げ(1本770円)、鶏塩そば(940円)、水餃子(6個750)、麻婆豆腐(ハーフ550円~)、コース料理は6皿3,500円、火鍋コース4,500円、8皿5,500円
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