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上野万太郎の「この人がいるからここに行く」【第5回】
公開日
最終更新日
ライター上野万太郎
カメラマン上野万太郎
上野万太郎
ここ10年間、カレー店と珈琲店やカフェを中心に年間外食はのべ1,100軒以上。本業の傍ら、外食写真日記的なブログ「万太郎.net」で福岡を中心とした飲食店の人々やお客さんと関わったエピソードを発信。著書は「福岡カフェ散歩」(書肆侃侃房/2012年)、「福岡のまいにちカレー」(書肆侃侃房/2014年)。
インスタID:mantaro_club
最初の出会いは彼がまだ30歳を過ぎたばかりの頃だった。店が現在の場所に移転するずっと前のこと。僕はその頃から良い意味でマニアックすぎる変態料理人と呼んでいるが、今では福岡を代表する中華料理店の一つとして、全国から芸能人や文化人、そして飲食業界の著名シェフなどが訪れる有名店を作り上げた。「四川料理 巴蜀(はしょく)」のオーナーシェフ荻野亮平さんのことだ。
最初にもらった名刺を見た時、店名より目立つ位置に「中国料理研究室」と書かれていたのを印象的に覚えている。最初は何かの冗談かシャレかと思っていたが、数年付き合って行くうちにそれが彼の真剣なテーマであることに気づいていくことになる。結論から言うと、彼は料理人である前に研究者なのだ。今回はそんな話を深堀りしていきたい。
よだれ鶏
大阪生まれの荻野さん。辻調理師専門学校を卒業後、東京の四川料理の名店「天外天」に就職。その後、中国語習得と四川料理体験のために中国四川省への留学を決意する。「天外天」を退職した荻野さんは半年間運送業でアルバイトしてお金をため23歳で四川大学への留学を果たすことになる。
しかし、当時の成都市の状況は外国人が修業目的で働きたい場合は、働く側がお金を払わないと雇ってくれないというのが慣例だったのでそれは叶わなかった。それでも、1年間の留学期間中に毎日食べ歩きをしながら現地の味を頭と舌に叩き込んだ。
中国語についてはしっかりと身につけていった。帰国後も勉強を続け、このことは中国語原文の料理関係の書籍を解読し時代別の四川料理を再現するという人生のテーマの一つを実現するための基礎となる。
さらにもう一つ、この留学期間中、荻野さんの人生にとってもっとも大事なことがあった。それは奥様との出会いだ。福岡県在住で中国人の奥様がたまたま成都市に帰省していたのだ。その後結婚した奥様は本場の四川料理で育った経験を生かして荻野さんにとっての良きアドバイザーとなっていくのである。
帰国した荻野さんは、北九州市小倉にあった台湾料理店「欣葉小倉」(しんいえこくら)に就職。そこで四川料理に加え台湾料理も勉強する。そして29歳で独立して「四川料理 巴蜀」を博多区東月隈にオープンすることになる。
80年前の麻婆豆腐
開業した場所は博多区といえども福岡空港から糟屋郡側に山を越えたあたりにある住宅街で、なかなか集客が難しそうな場所だった。ランチは日替わり定食や麺類が800円程度で20席以上ある店舗だったが、ランチタイムでさえ僕ともう一人たまに見かける常連客がいる程度でのんびりしていた。しかし料理は抜群だった。いわゆる町中華と言われるジャンルとはまったく違った料理。「なんなんだ、この本格的な中華料理は。こんな場所でこんな価格で食べられる料理ではないだろう」と感じて昼も夜も毎週通ったものだ。
食後に四川料理のことだけでなく中国のことや日本の中華料理界のことなどを聞かせてもらっていた。その中で荻野さんが日頃から考えている中華料理への取り組み方とか、お店をしていて大事にしていることなどを日々聞いていくことになる。
その時に思ったのが、この人は一般的な飲食店のオーナーとは違うということだ。勝手なイメージかもしれないが、普通の料理人は、「お客様の『美味しかったです』という笑顔が一番のやりがいです」というもの。しかし、この人はそうではなかった。荻野さんの場合、自分の研究のために料理を作っている。その料理にお金を払って食べてくれるお客がいる。そのお金でまた研究が出来る。このサイクルが一番有難いと思っているし、それが出来るためのお店経営だった。冒頭に書いた「中国料理研究室」という名刺通り、まさに荻野さんは研究者だったのだ。
四川牛肉煮込み
特に荻野さんは1980~2000年の四川料理が集大成であるという考えから、その時代のレシピを再現することに力を入れている。まだまだ暇だった東月隈時代は逆に言えば研究者としてはじっくり勉強する時間が取れたそうだ。売上も少ないのに毎月の書籍代は膨大になり、買った本を保管する場所にも困るほどだった。
やがてその研究内容を(といっても堅苦しい話ばかりでないが)、荻野さん自身のブログやfacebookで発信し始める。その頃から「福岡に荻野亮平という面白い四川料理人がいるぞ」みたいな話が全国の中華料理界に広がっていく。また、自ら主宰した「福岡調理師技術交流会」という異なるジャンルの調理師が集まる勉強会の活動も評価されたのかもしれないが、とにかく福岡では一目置かれる存在となっていき、「伝統×現代 深化する中国料理(2014年旭屋出版)」には共同著作者として参加している。
成都担担麺
そういう状況の中で少しずつ忙しくなった時に「もう少し都会でもっと攻めた四川料理で勝負したい」と思い、2016年に博多区東月隈から同区美野島に移転する。研究者として気持ちはさらに強くなっていた。移転時に新しくリニューアルされたホームページにはこのように書かれている。
「料理を新しい方向に進化させることもいいかもしれませんが、古い料理を再現して現代に蘇えらせること、まわりの変化に抗いながら、常に古い時代の料理を追求することという、進まないという進化があってもいいのではないかと考えます。レストランというのは食事だけではなく食文化や歴史なども提供するところです。 おいしいことが全てではないと考えておりますので、お客様にも当店で文化に触れていただけたらと考えております」と荻野さんは言う。
まさにスローガンに偽りなしだ。いくつか例を挙げよう。四川省成都市に行けば担担麺は汁なしが基本。日本では胡麻スープをつかった汁ありの担担麺が有名だがあれは日本人向けにアレンジされたものである。また酸辣湯麺(サンラータンメン)という麺料理があるが、日本では酸辣湯のとろみのあるスープに麺が入ったものが主流だが、現地では酸辣湯麺のスープにはとろみがない。麻婆豆腐に関しても豆豉(とうち)を使った黒っぽいものが日本では多く見られるが、現地では麻婆豆腐はオレンジ色に光る大量のラー油に豆腐と挽肉が浸っているタイプが主流。同じ四川料理でも時代によって若干の変化もあるが「巴蜀」ではその辺りをきちんと時代考証的に分析し料理を作り分けているのである。
現在お店ではランチタイムは麺料理が中心だが、夜はコース料理がいろいろと用意されている。特に40品目出て来る11,000円のコースは圧巻だ。40品目と言っても小皿料理として考えれば1皿275円なので、単価的には決して高くはない。伝統的な四川料理が一気に40品目食べられるとは、これはもう単なる《食事》ではなく《体験》である。将来的には100品目コースを作りたいというからその辺りも変態的だ。
40品目のコース(前菜)
最後に「今の夢は何ですか?」と聞いてみた。すぐさま、「博士号を取得したいです」と返ってきた。唐辛子の研究をしてそれと四川料理の歴史を絡めて論文を書いてみたいとのこと。どこまで勉強家なのだろう。良い意味で言わせてもらえれば、もうとことん変態すぎる 。世の中には料理に人生をかけて家族のため社員のためお客のために美味しい料理を作っている素晴らしい料理人がたくさんいる。しかし、これだけ変態的に四川料理のことを研究してこだわった料理を出し続けている研究者はなかなかいないような気がする。これもまた素晴らしいではないか。
「巴蜀」の常連客たちは、四川料理を食べに行くというより、荻野亮平の研究成果を体験しに行くという気持ちで来ている人も多いのではなかろうか。僕もまさにその一人なのだが。
荻野さん
店舗名
四川料理 巴蜀(はしょく)
ジャンル
住所
福岡市博多区美野島2-3-14
電話番号
営業時間
11:30~OS14:00/18:00~OS21:00
定休日
日曜・祝日
席数
メニュー
コース料理 5,500円・8,800円・11,000円・13,200円・16,500円~ 麻婆豆腐1,650円、20年目の麻婆豆腐1,320円、80年前の麻婆豆腐1,650円、よだれ鶏1,100円。ランチは、担々麺750円、酸辣湯麺750円、セットの魯肉飯250円、点心3種250円
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